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空間再編の新前提
#04
市民センターの
未来像を考える

 

「空間」の持つ機能や意味を、簡単に切り替えられるオンラインの特性は、どんな空間で活かされるのでしょうか? 郊外の「公民館」あるいは「市民センター」を例に、イメージしながら考えてみます。

少しの空間と設備に、たくさんの機能を実装し、
テクノロジーが苦手な人への味方にもなる。

 

一つの部屋が持つ機能を、簡単に切り替えられる。
双方向性があるが、物質のやり取りは難しい。
ある程度のリテラシーと、定期的なアップデートが求められる。

そうしたオンラインの特性を活かす例として、都市の中心から距離がある郊外地区における「市民センター」のイメージを描いた。

オンライン化によって、どんな行政機能や都市機能が保管できるだろうか。
また、それらが確かに機能するためには、どのような工夫が必要だろうか。

「行政」「医療」「文化・生涯学習」等の機能を実装することを考えたら、次のような「市民センター」を想像することができた。

※本記事は、「株式会社アスノオト」と「株式会社リコー技術経営センター FGPT」による「未来の公民館」の構想を、オンデザインがイラスト化して作成しました。

 

職員がいなくても、出張所とほぼ同等の行政サービス

行政に関するサービスは、行政の出張所と同じような機能を実装することになる。

大きな違いは、行政職員が出張して駐在する必要がなくなることだ。

オンライン通話により、本庁の自治体職員との双方向性を担保すれば、少々複雑な手続きや相談が可能となる。

 

コンビニエンスストアなどにも実装されている行政申請の端末に、オンライン通話機能とそのための空間を用意することで、出張所とほぼ変わらない機能を実装するイメージだ。

遠隔で受けられる交付サービスに、行政職員とのオンライン通話機能が加わると、できることはどう増えるだろうか(写真:柏市のホームページより引用)

 

「市民センター」がある地区や自治体の規模によって、双方向通話が可能な時間は予め限定しても良い。

どの申請が必要なのかを相談したい人は通話が可能な時間を狙えば良いし、必要な手続きが分かっている人はいつでも受け入れられる。

また、端末操作に不慣れな人のために、申請や接続の方法を手ほどきする「ICT補助員」を配置することも考えられる(詳しくは後述)。

行政申請に関する簡易相談も含めて、オンラインで対応していくためにはどんな工夫が必要だろうか(写真:中間市のホームページより引用)

 

情報の集約、一斉発信にも

行政関係でもうひとつ、オンラインを活かしたいのは「情報の発信と集約」だ。

タッチペンで書き込める「電子ホワイトボード」と、デジタルサイネージを兼ねたディスプレイを設置し、本庁や各市民センターと接続させてみてはどうだろう。

電子ホワイトボードのイメージ(写真:リコー公式webサイトより引用)

 

通常は、本庁からの情報を発信する「デジタルサイネージ」として活用する。本庁から各市民センターへ「発信」でき、情報更新も用意だ。

逆に、各地区からの情報を受け、集約したい時には、ホワイトボード機能が活きることになる。市民センター側がタッチペンで書いた内容を、本庁でも同時に見ることができるからだ。

 

たとえば、災害対応において、被災状況や、ボランティア・物資の受入状況などを、各地区の市民センターでホワイトボードに書き込んでいく。

アナログ的に手書きした情報が即座にデジタル化され、本庁や各地区のホワイトボードを映し出すことも、本庁と各地区のセンターの双方から手書きで情報を更新していくこともできるようになる。

情報の伝達にかかる人的コストを減らすことや、刻一刻と変わる状況に応じて人員や物資を効果的に動かすことができるようになる。

刻一刻と変わる情報を、手書きで、本庁と各市民センターが即時共有できるようになる価値は大きいはずだ(写真:福井市社会福祉協議会より引用)

参考:新潟大学医学部災害医療教育センターの事例

 

オンライン診療所に

次は「医療」を例に、「ひとつの部屋が持つ機能を簡単に切り替えられる」というオンラインの特性を活かすことを考えてみたい。

 

市民センター内に「オンライン診療」のための小部屋を設け、接続先の病院や医師を変えることによって、さまざまな診療科の受診機会を担保することはできないだろうか。

市民センター側が、月曜午前は小児科、火曜午後は内科、というように診療科を変えていく。

病院側は月曜午前はA地区オンライン、月曜午後は外来対応、火曜午前はB地区オンライン、というように対応先を変えていけば良い。

 

治療のすべてをオンライン化するのではなく、病院への通院と組み合わせることも良いだろう。

たとえば、初診は病院で医師と詳しく話してレントゲンやMRI画像を撮影し、再診時はその画像を画面で共有しながら問診していくなどの方法が考えられる。

電子ホワイトボードを併用すれば、画像上に医師が説明を書き加えることもできる。継続処方等が必要な場合など、オンラインで十分な診療内容も多いはずだ。

 

物理的に小さなスペースで複数の診療科目をカバーできる上、患者が遠方の病院に通う手間も省けるので、都市から地理的に離れた小規模な地区では大きな価値を生み出すのではないだろうか。

コロナ禍を機に本格導入が議論されているオンライン診療を、テクノロジーが苦手な人でも享受できるようにしつつ、通信トラブル等のリスクを下げる仕組みにもなるはずだ。

市民センター内に専用スペースや端末があれば、テクノロジーが苦手な人でも安心してオンライン診療が受けられるようになる

 

地区間交流を兼ねた生涯学習も

公民館や市民センターの本来機能にも挙げられる「生涯学習」「地域文化振興」はどうだろう。

 

オンライン化によって、より多様なイベントコンテンツを実装できることになる。

複数の地区センターをコンテンツの配信元とつなぎ、地区間交流を兼ねてイベントを同時開催することも可能だ。

 

コロナ禍でのオンライン化の加速や、少子高齢化を念頭に入れると、そう遠くない将来、中山間地域で小中学校の「分校」のような機能を市民センターが担うことも考えられる。

学校のすべてをオンライン化してしまうのではなく、インプット中心の学習をオンライン中心に、体育や音楽、図画工作、ディスカッションなどはみんなで学校に集まって行うような未来の学校を考えるのも面白い。

 

なぜ「家庭」ではなく「市民センター」からつなぐのか

最後に、これらの機能を、公共施設の「市民センター」にあえて実装する価値を考えてみたい。

なぜなら、ここまでに挙げてきた機能のほとんどは、インターネットが一般的になった現代では各家庭に実装することも不可能ではないからだ。

 

その価値は、端的に言えば「テクノロジーに関する難しいことを、施設側が引き受けられる」ということではないだろうか。

冒頭でも触れたように、オンラインには「活用するためのリテラシー」や「定期的なアップデート」が求められる。

個人情報や医療を扱うとなれば、より強固なセキュリティが必要になるだろう。

 

ただ、そのリテラシーやアップデートを各家庭に求めるのは容易ではない。

市民センターの機能が必要になる頻度は、個人からすればそれほど多いと言えないからだ。

結果的に、各家庭と直接つながるオンラインのサービスを活用できるのは、ICTが苦手ではない人たちに限定されてしまう。

 

だからこそ公共施設として、システムを必要に応じてアップデートする体制を整え、さらに操作が不慣れな人を助ける「ICT補助員」を配置する(イラストでは、赤い服で表現している)。

「ICT補助員」は、そこにあるICT機能を適切かつ最大限活用できるように補助する役割だ。医療コーナーにおける「医師」や、行政コーナーにおける「自治体職員」等の専門的な立場とは異なり、各コーナーの端末を操作する。

それによって、より多くの人がオンラインの利便性を、享受しやすくなるのではないだろうか。

接続先となる市役所や病院等にとっても、市民センターが窓口となることで通信環境が一定となり、各家庭の通信環境に合わせる負担を軽減することができるはずだ。

オンラインのメリットを多くの人が享受するために、ICTファシリテーターを配置することも考えたい

 

設備面は、通信を整え、双方向性を担保できる会議用の画面や電子ホワイトボードなどを導入する必要があるが、建物自体に特殊な構造が求められるものでもない。

既存の公民館や市民センター、あるいは、役目を終える小中学校などの公共施設に実装していくことも可能だろう。

 

空間の機能を時間で効果的に切り替え、電子ホワイトボードのような設備によってオンラインの双方向性を活かしつつ、運用体制やICTファシリテーターの補助によって技術的なハードルを下げていく。

そんな空間づくりは、コロナや少子高齢化で、さまざまな都市機能や社会的サービスをより高度に、満遍なく提供・補完していくことが求められることに対する、一つの解になるのではないだろうか。

(了)

文:谷明洋、イラスト:オンデザイン、協力:アスノオト、株式会社リコー技術経営センターFGPT

 

【参考リンク】
リコー「インタラクティブホワイトボード(電子黒板)」導入事例
アスノオト「さとのば大学」

 

谷 明洋(Akihiro Tani)
アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/さとのば大学講師
天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。新たな「問い」や「視点」との出合いを楽しみに、「都市」を「科学」しています。