メディア横断新企画
『神田ポートビル』って何?
#02
YADOKARI×BEYOND ARCHITECTURE 協働取材!
4月26日、東京・神田錦町に誕生した複合施設『神田ポートビル』。入居するのは、サウナ、写真館、学校、印刷会社など、異業種の顔ぶれ。なぜ、このラインナップになったのか? 前回に引き続き、取材は、YADOKARIとBAの協働で担当。プロジェクトメンバーよる完成までのウラ話をお楽しみください。
聞き手:さわだいっせい(YADOKARI 代表取締役 CEO)、みやしたさとし(BEYOND ARCHITECTURE編集長)
(前回の記事はこちら)
神田でサウナ⁉︎ 東京の真ん中で、ほっとひと休みできる場所を。
米田 (今回のプロジェクトは)ずっとやる気なかったんですよ、本当のところ。池田さんはいつもこんな調子で、「今度サウナを東京でつくりたいんですよ、だから今度ちょっと見に来てよ」って感じで気軽に言う。でも僕は、「サウナって大変だよ、運営たいへんだよ、やめときなよ」ってずっと言ってて。
池田 確かにっ! 米田さんが言ってることが正しいよ。
米田 そう、いつもこんな調子(笑)。で、「米田さんがやらないなら自分でやろうかな」とか言うから、「それはやめとけ」「もっとこうしたほうがいい」とか、なんだかんだと言っているうちにいつの間にか自分がやることになっちゃったんですよね。騙されて(笑)。
池田 そのとおり。
米田 (笑)。僕はそもそも、自分の店の売り上げを極端に増やしたいとか、業界のシェアを上げたいとかそういったことにはあんまり興味がなくて、じゃあ何をしたいかというと「サウナカルチャー」を広げていきたいだけなんですよ。だから土地が限られていて賃料が高い東京に店を構える理由がなかったのでやってこなかった。この話を聞いたときも気持ちは変わらなかったんですよ、初めは。
芝田 でも米田さん、最初にこの建物と神田を見て回ったとき、リップサービスだったかもしれないですけど「この街にはサウナが必要だよね」って言っていました。
藤本 「ないとかわいそうだ」ぐらいの勢いで。
池田 リップサービスだよ。
米田 いや(笑)。僕は名古屋の人間なんで東京には詳しくないし、正直あんまりいいイメージももってなかったんですよ、東京って。ぎゅうぎゅう詰めに建物が建っていて人も多くて空気も悪いってイメージで。でも、この神田エリアをグルグル歩き回ってみたら、お風呂屋さんがあったり、レコード屋とか古本屋さんとか昔ながらの喫茶店みたいな店とか自分の好きなものばかりがあって。喫茶店とかに入ってまわりのお客さんの話を聞いていると大学の先生らしき人とかが来ていて、学問的なおもしろい話なんかもしていて。「あれ、ここってなんかすごくいい」「日本のおもしろさが凝縮された街なんじゃないのか」って思えてきて。東京ってどんどん新しい超高層ビルが建ってそこに人を集めようとするけど、東京の魅力って実はそこじゃなくて、もっと本質的な魅力というか、都市ならではのカルチャーが積み重なっていることで、まさにそれがあるのがこの神田なんじゃないかって。なんとなくサウナと共通するものがあるなって思って「神田にサウナはないの?」って聞いたら、ないって言うから、それで「サウナないとダメじゃん」って言ったんですよ。だから、そのときは自分でやるとはまったく思ってないんです。
芝田 誰かにやってもらうといいよね、みたいな。
米田 ただ、池田さんとは前から縁があったというか。こんなお調子モノだから、前も急な依頼で人力車サウナをつくったことがあったんですよ。
池田 スパイラルビルで僕の個展があったときですね! スパイラルの中では火を使えないので実際には稼働しなかったんですけど、そのときつくった人力車サウナを神田のアートプロジェクトで実際に使おうって話になったんですよね。そんな無謀なことを許してくれた街なんですよ、神田は。
米田 だからもう、なんか、みんな出会っちゃったんだよね、結局のところ。
池田 そう、しょうがないですよ、運命なんだから。
米田 池田さんはこのビルにも街にも縁がある。自分もこの街が好きで、このビルの雰囲気も気に入って、ここがどういう風に変わっていくのか見てみたいという純粋な興味が湧きましたよね。普通、街の開発っていうと、超高層ビルをバーンみたいなものがほとんどですけど、僕はツルツルピカピカしたものがあんまり好きじゃなくて。もうちょっとザラザラっていか、味わいのあるものに関わっていくのならおもしろいと思っているので、このプロジェクトは感覚的におもしろいんじゃないかなって。街の開発というか、街づくりに参加できるのであればいいなって思うようになって、いつの間にか巻き込まれたって感じです。でも実際に考え始めてみて、これからの街のデザインってどんなことだろうって思ったとき、心地良さが重要なキーワードになるんじゃないか。心地良さならば、サウナを生業にしている自分ができることかなって。サウナができることによって、どうやって人が集まってくるのか、何か生まれるのかっていうのは始まってみないとわからないことですけど。
池田 ある意味、実験みたいなもんだよね。
こうして安田不動産の芝田さん、藤本さん、池田さんに加え、サウナのプロ、米田さんが加わった。
池田 先ほどお話したように、2017年にフィンランドヴィレッジで糸井さんに初めてお会いしたんですけど、その後もときどきお会いする機会があって、いっしょにご飯を食べているときにこのビルの話をしたんですよね。僕はコマンドNで街とアートをつなげる活動をしてきたから、今度はこのビルを拠点に同じことができるね、という話をしていて。そしたら糸井さんが「それって街づくりじゃん、なんか楽しそうでうらやましいなあ」っておっしゃって。僕は冗談半分で「何かあれば協力してくださいよ」みたいなこと言ったんですけど、そうしたら後日、本当に連絡がきて「池ちゃん、こないだの話してたビル、見に行きたいんだけど」って。
芝田 実はその時点では、2階と3階に何が入るか決まってなかったんですよ。
池田 ちょうど外資系の企業と交渉している段階で、なんか自分たちとは温度差がありそうな感じではあったんですけど、でも家賃を払ってもらえるんだったらいいか、みたいな感じで。でも本心では、僕は精興社さんとは昔から仕事しているし、米田さんもよく知っているし、何かしらつながりがあるとか、クリエイティブな人たちがいいよなって気持ちもあって。
芝田 そんなタイミングで糸井さんが見に来てくれることになって。
池田 糸井さんがビルを見ているところを後ろから写真撮って、それをグループラインに送ったんですよ。「糸井さんは単に見に来ただけで絶対に入らないので期待はしないでね」って言いながら。でも、僕自身このメンバーの熱意と誠意がすごく伝わってきて、このメンバーでやるからこそどうにかいいものにしたいっていう気持ちがどんどん強くなって。だったらみんなにも糸井さんに会ってもらおうとカジュアルにご飯を食べる機会をつくったんですよ。糸井さんを口説こうとかって話でもなく。でも、話をしているうちに糸井さんがだんだん入ってくるんですよ、なんかこう、すでに一緒にプロジェクトを動かしているような、少しずつ耳を傾けてもらっている状態が続いて。そんなある日、「僕、行くよ」って糸井さんが決断をされて。
芝田 「うちら(糸井さん)がこのビルに入ったらうれしいだろう?」って。
池田 なかなか言えないよね。僕が同じこと言ったら、お前誰だよって。
芝田 (笑)。これもつながるんですけど、社内の初期の企画会議で、この街のペルソナを話したとき、実は糸井さんの名前も挙がっていたんです。糸井さんみたいな人がきてくれるといいよねって。そのときはまさか、『ほぼ日』が神田に移転する話に繋がるなんて誰も想像できてませんでしたから、本当に何かに導かれたという感じです。
糸井さんの英断により、『ほぼ日の學校』が仲間入りすることが決定。サウナ、写真館、学校、オフィスが一同に集い、このビルの個性がより際立つことになった。そして、プロジェクトの勢いも一気に増すことになる。
芝田 「ほぼ日の學校」が入ることが決まって、糸井さんがうちの会社に来てプレゼンテーションしてくれたんですけど、それが本当にプロフェッショナルの仕事で。はじめにお話したように、うちの社長はサウナがキライなんですけど、最後は社長も含めて会場みんながスタンディングオベーション。
池田 糸井さんは言葉の人だから、このプロジェクトの方向性が決まったのってやっぱり糸井さんが入ったことが大きいんですよ。神田ポートビルという名前も糸井さんがつけてくれたんですけど、このネーミングを解読してみると、ポートって港で、港がどういう位置づけかというと人が休むところであり、再出発するところ。旅人が集まる場所でもあるし、街の中心でありながらつなぎになるような場所。要は都市のなかの港になろうというのが神田ポートビルなんですね。ということはつまり、“休む”っていうことがキーワードになっていて。
米田 都市の生活って苦しいこともたくさんあるじゃないですか。だからこそ、そこに“休み”が必要だと思うんですよ。
池田 でも、ここは遊園地ではないんで、決まった遊びを提供しますじゃなくて、どう遊ぶかは個人の自由に任せているんです。建築的にもスタディだし、スタートしてから変化していってもいいというか。そういう意味でも、途中っぽさというか、受け手側の余白があって、そこに可能性があるなって思うんですよ。いろんなものを大盤振る舞いで提供するからどうぞっていうことじゃなくて、入る側にもある程度の用意っていうか、学びたいからくるんだとか、気持ちよく休みたいから来るんだっていう、自分の生活にきちんと意識を向けていてほしいというか。
米田 今回はそのひとつがサウナですけど、サウナ的なものであればほかのものでも構わないと思いますし。
池田 でも、僕らは結局サウナつながりなんですけどね。
藤本 ほかにない(笑)。
池田 だって俺、写真家だから、本来は。でも今思うと、サウナっていう導きがあって、そうならざるをえない状況で今に至るというのが本当の話なんですよ。ね、そうですよね?
米田 そのとおり(笑)。
池田 おチャラけたカメラマンが強引にサウナサウナって言ったんだって思われるかもしれないけど、違うんです! サウナの導きどおりにやっていっただけなんですよ!(了)
【取材を終えて】
あらかじめ答えを用意したプロジェクトではなく、成り行き、導き、いや、必然によって進んだプロジェクト『神田ポートビル』。米田さん率いる『サウナラボ』、池田さん率いる『あかるい写真館』、糸井さん率いる『ほぼ日の學校』が入居し、この4月から街の人はもちろん、神田錦町に訪れる人たちみんなが自由に利用できるようになる。住む人も、働きに来る人も、遊びに来る人も、さらには学びに来る人も休みに来る人も、どんな人たちをも受け入れてくれる深い懐を持つ“ポート”ビル。神田の街でどんな存在になるのか、今から楽しみだ。
profile
(「神田ポートビル 公式サイト」より抜粋)
池田晶紀 / IKEDA Masanori
写真家 / 株式会社ゆかい 代表。担当:クリエイティブディレクション
私の本業は写真家です。写真家は「会う」ことが仕事ですが、会うことを仕事にしている次の狙いは、「会う場所」をつくることでした。これからつくるこの場所には、いろんな出会いがあります。それは、人であり、物であったり、事であり、はたまた自分自身であったりと、様々なアカデミックな仕掛けとセットでオルタナティブな人たちが出入りする計画です。さらに特異なポイントとして、神田錦町という街や人が持っている気風にも触れながら、この場所に、サウナに入りに来てください。とっても贅沢な時間として、ここで野生の呼吸を取り戻す習慣がつくれたら、と考えています。
米田行孝 YONEDA Yukitaka
サウナラボ / 株式会社ウェルビー 代表
人も自然の一部だと気づき、野生に目覚めるのがサウナです。身体的感覚を取り戻し「ここちよさ」を感じとることが、デジタルの時代には必要だと考え、都市でのストレスを解放する身近な自然として、この街にサウナという木を植えます。サウナは人と自然を繋ぎ、人と人とを繋げる場。新しい出会いがこの街に新たな風景を作ります。
藤本信行 FUJIMOTO Nobuyuki
建築家 / バカンス株式会社 代表。担当:デザイン監修
都会で生活する人を元気にするその効能を盲信したまま、まちづくりの原動力としてサウナを提案したのが2年半前。同じころに池田さんに出会ったのをきっかけに、サウナラボ東京初出店、ゆかいさんスタジオ移転、ほぼ日の学校初の常設、さらには精興社さんとのコラボまで、ファンタジックな展開にすでにととのいさえ感じています。サウナは地面に穴を掘ってつくったのがはじまりだそうです。個人的には、それを地下空間につくることに誰よりも興奮しながら計画に関わらせていただきました。地中から湧き出るサウナエネルギーで、これからこのまちがゆっくりと蒸されながら活性化していくのをとても楽しみにしています。
芝田拓馬 SHIBATA Takuma
安田不動産株式会社。担当:プロジェクトマネジメント
地元民から来訪者と多様な人々が行き交いながらも、祭りや人情を通じて、居心地の良い距離感で繋がっていることが神田の魅力だと思います。そんな神田との”縁”で集まったメンバーが、このまちを「第二の地元にしたい」と夢語り進めてきたプロジェクトが間もなくお披露目です。サウナ・学校・写真館と、単なる言葉の組み合わせでは説明しきれない新たな場は、控え目に言って最高です。この場所で生まれる出会いや旅立ちに、地元不動産会社ならではの、神田の水先案内をさせていただきます。
(事業概要)
施設名:神田ポートビル
所在地:東京都千代田区神田錦町3-9
用途:事務所・公衆浴場
構造・規模:RC造 地下1階地上6階 延床面積2,980.52㎡
事業主:安田不動産株式会社
企画支援:藤本信行(バカンス株式会社)
デザイン監修:バカンス株式会社、株式会社須藤剛建築設計事務所
神田ポート(1F)プロデューサー:小林知典(株式会社ゆかい)
クリエイティブディレクション:池田晶紀(株式会社ゆかい)
ネーミング:糸井重里(株式会社ほぼ日)
ロゴデザイン:菊地敦己(アートディレクター)
協力:日本ペイント株式会社、優美堂プロジェクト(東京ビエンナーレ2020/2021)