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場づくりをサポートする、
プレイスメイキングキット
って?

text:jumpei kikuchi (Open A) photo:jumpei mishiro & jumpei kikuchi

PUBLICWARE×BEYOND ARCHITECTURE 共同連載 vol.1

BEYOND ARCHITECTURE編集部がさまざまなメディアとタッグを組んでお届けするメディア横断企画。YADOKARIとのコラボレーションに引き続くパートナーは、「公共空間をもっと気軽に楽しむ」をモットーに場づくりのツールやノウハウを紹介している「PUBLICWARE」(運営:OpenA/公共R不動産)です。
取材対象は、PUBLICWAREが以前より注目していた「プレイスメイキングキット」(企画・設計:勝亦丸山建築計画)。オンデザインが運営を手掛ける地域のチャレンジスポット「弥生台TRY BOX」へキーアイテムとして導入されたことを機に、本企画が持ち上がりました。〈ツール〉とそれが使用される〈場〉という2つの側面からその成り立ちを追い、両者が合致しての設計、運用に至る流れをたどることで、これからのやわらかい場づくりのあり方を探っていきたいと思います。

 
テンポラリーな場づくりへの課題と期待

まちにあふれる公共空間や広場、遊休空間を、もっと楽しく、もっと自由に、誰もが気軽に使うことができる場所になったら、まちはもっと豊かになる。何か仕掛けやツールがあることで、パブリックスペースを使いこなすことができるのではないか。
そんな思いから立ち上がった「PUBLICWARE」。2020年にメディアを立ち上げ、公共空間をもっと気軽に楽しむためのツールについて調べたり考えたりしている中で、おもしろいアイテムが世にたくさん散らばっていることに気付かされました。。

この「PUBLICWARE」と、同じような課題と期待をコンセプトに、2016年に開発されていたのが、場づくりをサポートするためのツール「プレイスメイキングキット」(以下、PMK)です。PMKは紙管をキーマテリアルにつくられた屋台・テーブル・ベンチ・丸椅子などの家具セット。企画・設計・制作を手掛けたのは、静岡県富士市と東京都北区の2拠点を中心として活動する建築設計事務所「勝亦丸山建築計画」です。

その開発の背景や制作プロセスについて、勝亦優祐さん、丸山裕貴さんにお話を伺いました。

 

勝亦優祐さん

丸山裕貴さん

 

今回の企画のきっかけとなったのは、2013年に富士市で開催した仮設イベント「商店街占拠」。開催当時、吉原商店街の一角にある立体駐車場を舞台に、駐車スペースに屋台やテントが並び、ミニ商店街のような空間が広がっていました。

「屋上にはスケートランプやプール、ステージ、ラジオブース、飲食系のブース。夜は映画を大画面で楽しんだり、かなりぶっとんだ企画でした……(笑)」と勝亦さん。

 

夜通しフェスのような盛り上がりを見せる。

立体駐車場の駐車スペースごとに出店者が店舗を構える。

 

商店街占拠は2013年から2015年まで、年に1回、3日間の開催でしたが、運営する中で、仮設的・暫定的な場づくりをする上での課題を感じていました。

① テントや家具に統一されたデザインがなく、雑多になりすぎる
② 一般的なリース家具は、ありきたりなものしかない
③ 定期開催する場合に、ストックすることができない

また、富士市を拠点に活動していく中で、商店街の空き店舗が増えているという課題も目の当たりにしていました。オーナーと話していると、「改修などある程度の投資をして賃貸にすることはできないものの、一時的に空間を使うことは構わない」という声をよく聞いていて、「これはチャンスだな」と、勝亦さんと丸山さんは感じていたそう。

そこで、一時的な場づくりをサポートする、モバイル家具を企画することに。

 

 

実体験から導かれた設計の工夫

こうした背景から、自主プロジェクトとして「プレイスメイキングキット」の企画・制作にいたりました。
その特徴は3つ。

      雑多な雰囲気を許容しつつも、統一感のあるマテリアル
      持ち運びやすさ・収納しやすさ
      スタートアップでの導入しやすさ

①のマテリアルについて。

マーケットなど、様々な出店者が集まってひとつのイベントを開催する場合に、それぞれの統一感を出すことがイベントの雰囲気をつくるうえで大事な要素になります。雑多さを許容しながら統一した空間づくりができないか。そこでふたりが選択したのは、「キーマテリアルとして紙管を使うこと」でした。
実は富士市は製紙業が盛んであるということから、地元企業の「富士紙管株式会社」と協働し、PMKの材として採用することにしました。
「紙管は体積のわりに軽く、向きによって強度もあります。特徴的なマテリアルと形状は雑多な中での統一感を演出する上でも適していました」と丸山さん。

2016年に制作したプレイスメイキングキット。屋台、ベンチ、テーブル、可動いす、3人がけベンチ。

 

②の持ち運びやすさについて。

前述のように紙管は、中は空洞の空気であるため材としてはかなり軽いもの。女性ひとりでもイスやベンチを容易に持ち運ぶことが可能です。
また、屋台と家具を積み重ね、軽トラックに積載できるスケールに合わせて設計し、出張することも意識されています。実際に、小田原でのイベントで用いられた際には軽トラックに積み込んで搬送し、神輿がやってくるかのごとくイベントの高揚感を演出していました。

屋台1台、2名がけベンチ7台、3名がけベンチ4台、テーブル2台、可動イス12脚、黒板2枚、が積み込まれている。

 
③のスタートアップでの導入について。

イベントだけでなく、空き店舗のポップアップショップのインテリアとしても可能性が広がります。なにかを始めたいと思った時に、マーケティングの可能性もわからない状況で大きな投資が伴うと、その一歩は踏み出しづらいもの。例えば、商店街の空き店舗にPMKを導入し一定期間のショップを開くこともしやすくなります。
「特に地方ではプレイヤーたちがまちの将来を描きづらいところ。『試しにやってみる』が促進される手掛かりにしたかった」と勝亦さん。

 

東京と地方の2拠点で、イベントの企画運営も手掛けるふたり。屋台には彼らの実体験や課題から導かれた設計の工夫が盛り込まれていました。

一方で、使ってみて耐水性や耐久性、円筒のため接合部の納まりの難しさに改良の余地がありました。
今後、2021年に相鉄ビルマネジメントとオンデザインパートナーズが運営するチャレンジスペース「弥生台TRY BOX」に導入されることになりますが、そこでの改良点や経緯については次回以降の連載にてご紹介します。

 

 

居場所づくりのためのツール

「プレイスメイキング」とは、パブリックライフ=都市生活を豊かにするための都市デザインの手法。そこに暮らす人々の多様なアクティビティの生まれるプレイス=居場所をつくることを目的としています。
ツールの開発にあたっては、『プレイスメイキング: アクティビティ・ファーストの都市デザイン』(学芸出版刊)の著者であり、有限会社ハードビートプランの園田聡さんとの共同で企画をしています。

近年、注目が高まる「プレイスメイキング」。従来型の、計画→つくる→使うの都市計画から、使う→つくる→計画するというような、実践からの都市計画が今後加速していくことが予想されます。
社会実験など、実践フェーズでの場づくりにも、PMKは大いに活用されそうです。

※ 公共R不動産にて、過去に園田聡さんへ取材した記事も合わせてご覧ください。               
     人々の居場所をつくる都市デザイン手法「プレイスメイキング」 実例から読み解く10のフェーズ(前編)

 

今後、PMKは道路、公園、水辺、空き店舗などなど、街中のいろんな遊休地に展開されていくことでさらなる可能性が期待されます。まさに公共空間をもっと気軽に楽しむためのツールと言えるでしょう。

そんなPMKが、初めてオーダーを受け、制作&本格導入となったのが「弥生台TRY BOX」でした。
「弥生台TRY BOX」もまた、とても実験的な場所。
次回はその開設のさきがけとなった「みなまきTRY STAND」のスタートアップ・ストーリーです。

 

profile
勝亦丸山建築計画 katsumata maruyama architects

「その場所や前提の条件を探り(RESEACH)、そこに何が必要かを考え(DESIGN)、実践を通して学びを得る(OPERATION)」までを行う建築家チームです。 建築やインテリア、リノベーションの設計・監理、に加え「デザインオペレーション」の手法を用いた企画から運営まで行う事業のほか、行政と連携し、まちづくりのコンサルティングやリサーチ、家具のプロダクト開発など多岐にわたる活動を行っています。 社会にはプロジェクトの種のようなものが多く存在します。新しいプロジェクトを生むきっかけをデザインし、新しいスタンダードを社会に実装させることを目指しています。

執筆者プロフィール
菊地純平(きくち・じゅんぺい)/1993年埼玉県生まれ。芝浦工業大学卒業、筑波大学大学院修了。2017年にUR都市機構に入社し、団地のストック活用・再生業務に従事。2019年にOpenA/公共R不動産に入社し、公共不動産活用のプロジェクトを担当。また、2015年よりNPO法人ローカルデザインネットワークにて静岡県東伊豆町の空き家改修、まちづくりプロジェクトに携わる。