完成迫る‼️
まちのような国際学生寮
現場見学会に
密着しました!
オンデザインが手がける「神奈川大学新国際学生寮(仮称)」の、社内スタッフ向け「現場見学会」に同行してきました。「まちのような建築」というコンセプトで、寮内の国際交流を促す工夫を建物全体に散りばめた注目のプロジェクト。一部が完成したその空間を、夏の竣工に先立って、参加者の感想も交えながらレポートします。
(追記)このプロジェクトについては、完成後の内覧会レポートもより詳細に記述してあります。あわせて御覧ください
まちのような寮とは?#01 多様な居場所が学生を自発的に
まちのような寮とは?#02 絶妙な距離感が学生自身を相対化
まちのような寮とは?#03 講堂にはない学びを得る場
たくさんの「小さな居場所」が織りなす、
「まちのような学生寮」をつくっています。
新しいシェアのカタチを実現する「ポット」
神奈川大学新国際学生寮は、「新しいシェアのカタチ」という“問い”に、「小さな居場所の連続で建物全体をつくる」ことで応えよう、というプロジェクト。地上4階、約6000平米の建物で、210人の日本人学生と海外留学生が、主体的に交流しながら暮らせる空間を意図しています。
最大の特徴は、吹き抜けに点在する「ポット」と呼ばれる多種多様な共用空間。ひとりでも数人でも使える「小さな居場所」を動線に連続させ、何気ない日常生活から出会いや交流を誘発する狙いです。
現場見学は、その「ポット」をメインに回りました。2階からスタートすると、「ポット」がさっそく、存在感を放っています。
「ポット」を設計した背景には、「読書や食事、音楽などのプライベートな日常の時間が、交流のきっかけになるはず」という考え方があります。
誰もが通り、気軽に使え、出入りしやすく、周りからもよく見える「小さな居場所」があれば、そこにいる人が読んでいる本や、食べている郷土料理から会話が始まっていく−−。部屋という“箱”ではないからこその、場と場がつながっていくそんな光景も、想像に難くありません。
「まちのような」に当てはめて考えれば、小学生が通学路にある公園で友達が遊んでいるのを見て寄り道したり、仕事帰りの人が赤提灯と賑やかな笑い声に誘われて居酒屋の暖簾をくぐったりするのと、よく似ています。
「ポット」が生み出す相乗効果
「まちのような」空間を見学し、オンデザインの建築家はどんなことを感じたのでしょうか?
入社2年目の千代田彩華さんは、国際寮だからこその「ポット」の可能性に思いを馳せました。
千代田 「ポット」は部屋を出た目の前にあるので、絶対に目に入りますよね。特に国際寮だと、思いもよらない発想の使い方が出てくると思うんですよ。以前に見た「空きビルの一室を自由に使って良い」という国際ワークショップで、タイ人の学生が壁に新聞を張り巡らせたり、釘を打ち付けたりしたことがあって。こういう自分の国にはない発想が、日常生活だと、もっとあるはず。だから「ポット」は、多様な人が集まる「国際寮」と相性が良くて、いろいろなことが生まれそうな気がします。
また、「提案時から気になるプロジェクトだった」という棗田久美子さんは、ポット同士が連続することで織りなす全体の雰囲気が印象的だった様子。
棗田 個々の「ポット」がどうこうというより、「ポット」が点在することで、空間全体がつくられているように感じました。たとえば、フロアのコーナーにあるちょっとした凹凸の空間も「ポット」に見えてくるし、実際に「ポット」として機能すると思うんですよ。
「ポット」→斑→領域
「空間全体の雰囲気」をつくる要素を考えていくと、「斑(むら)」というキーワードが浮かび上がってきました。この学生寮は、1階から4階まで吹き抜けになっています。温度や光環境などを一様に管理・調節せず、「斑があって環境が異なる空間を、用途によって使い分けてもらえば良い」と考えるのです。
ポットが密に連なった2階以上とは対照的に、1階は広々とした空間が広がっています。だからこそ、「斑」の価値を強く感じたのが吉村梓さん。
吉村 1階に下りた時、光の入り方がとても良くて感動しました。上にポットがあって、自然光が直接差し込むところも、間接的に柔らかく差し込むところも、影になるところもある。光の「斑」があることで、広々とした空間なのに漫然とせず、同時に小さな領域がたくさん生まれているように見えました。
インターン中の宮野健士郎さんは、斑を「ランダム」という言葉でとらえ、自分自身でも追求していきたいと言います。
宮野 空間の中にちょっと違う領域がたくさんあることで、いろいろな出来事や発見が生まれると、それこそ「まち」のようだと思うんです。だから、良い「ランダム」はどうすればつくることができるのか。つまり、因子は何なのか、アルゴリズムやルールはあるのか、恣意性はあって良いのか、自分なりに追求していきたい。きょうは、その例を1つ、見せてもらった感じです。
小さな居場所を大切にする思想を体現する
こうした、緩やかに区切られた「小さな居場所」がたくさんある空間に、「オンデザインらしさ」というキーワードが浮かび上がってきます。
吉村 ポット同士の密な距離感から、使う人の居心地や交流を生み出すことを、浮遊感や見た目の良さ以上に優先しているんだ、と感じました。それは、とてもオンデザインらしいと思います。「こういうのもいいな」と思ったし、自分がこれから空間を考える際の「引き出し」が増えたような気がします。
「オンデザインの思想の価値」に注目していたという伊藤健吾さんも、大きな発見を得た様子。
伊藤 小さな居場所をとことん考えて空間に落とし込んでいくオンデザインの思想を、この規模でやるのは、すごく意味があると思うんですよ。プロポーザル段階から目指していた「移動空間の居場所化」ができたのは、ポット単位と建物全体との間での「空間を考えるスケールの行き来」がうまくできたということ。個人の住宅の規模を超えて、「ヒューマンの体験から、実感値をもって、空間を設計する」というオンデザインのやり方が活きるというのは、大きな発見です。
空間の価値を最大化するために
期待の大きな「まちのような国際学生寮」。その価値を発揮し、想像のような交流を生み出していくためには、実際に使われるようになってからの「運用」も大切になってきます。多様なタイプの拠点運営に携わってきたこともあり、見学したオンデザインの建築家たちからもアイデアや興味が生まれました。
宮野 たとえば、ポットごとのホストやマネージャーを寮生でローテーションして、「誰かが何かやっている」状況がたくさんつくれると面白いんじゃないかな。
榎本 住宅地の真ん中にあるという敷地を読み込んで、いろいろな楽しいことを寮の中で実装しよう、という意図も読み取れました。寮が、衣食住だけでなくどこまでの機能を実際に担うことができるのか、楽しみです。
千代田 実際に何が起こるのか、自分も住んで、横で見たり参加したりしたいです。それを自分なりに落とし込んでいくと、他の拠点での自分のプロジェクト運営のヒントになるかもしれない。
完成間近のタイミングで約20人のスタッフが集まった見学会。2016年春のプロポーザルから3年がかりで「まちのような」空間を目指してきたプロジェクトチームにとっても、気付きに溢れた時間となったようです。メンバーの神永侑子さん、西田幸平さん、リーダーの萬玉直子さんに振り返ってもらいました。
神永 「見え隠れ」するようなこの空間がどんな価値を生み出すのか、設計段階からいろいろと考えてきました。それに対して今回、「ムラによって領域が生まれる」や「スケールの行き来」といった、実感のある言葉が返ってきて。そうした実感の一つひとつが、「まちのような」空間をつくる要素になるんだと、あらためて気付きました。
西田 この建築ならではの「言葉」は何なのか、どんな「表現」がしっくり来るのか。その良いヒントを、興味や言い回しが少しずつ違う社内の仲間から、たくさんもらった気がします。竣工して発信する機会が増えていく前に「言葉探し」を進められるのはプロジェクトにとっても良いことだし、「もう少しみんなに聞いてみたい」と思っています。
萬玉 4層の吹抜けに点在する「ポット」は、6000平米の建築や、210人が住む施設の規模感からすると、とてもささやかなスケールです。なので、この建築での体験にどれほどの効果を与えるものなのか、正直少しモヤモヤしてました。今回、意見交換しながら現場をまわったことで「ひとりでも過ごせる居場所」としての機能や、「ポットがいくつもあるから気分によって選べる」使い手に委ねた選択性があるんだとクリアになりました。主体的に使える「ポット」があることで、「みんなの場所だけれども、自分の場所でもある」という所有感覚が共用空間にも発生しそうで、それが、住んでいる人の数だけ集まり、つながっていく。そんな「まちのような建築」に育ってほしいです。
「まちのような国際学生寮」の詳細は竣工後にあらためて、プロジェクトチームを取材して紹介する予定です。どうぞお楽しみに。
(了)
【関連サイト】
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執筆者プロフィール
谷 明洋(Akihiro Tani) 天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。「科学」して「伝える」活動を、「都市」をテーマに実践してます。新たな「問い」や「視点」との出合いが楽しみ。個人活動で「宇宙と星空の案内人」「私たちと地球のお話(出前授業)」などもやっています。