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Project Interview
建築の告白

text & photo:sho shiowaki(ondesign) , azusa yoshimura(ondesign)

 

家に残る暮らしの記憶を継承する。

──最近はリノベーションなどの物件も多くあると思うのですが、M邸のように暮しが見えてきているものに対しては、やはり新築物件とは違うと思います。その点で考えている事などありますか。

全然違いますね。現場に行きつつ思うのは、何を残すかという判断がとても難しいんです。解体をしていく中で、発見することが多くあって、M邸の場合は大工さんが無理矢理つくったような軸組やもともと増築などしている物件で柱が梁になっていたり、はがして見ないとわからないことがあるんですね(笑)。新築とは明らかに、設計対象の時間軸が違うなと感じました。
M邸の場合は元々のその家に、先人の暮らし知恵が集積されたような場所があったんです。窓辺にベンチがあって、お昼になると気持ち良くなるとか家の裏の動線には石畳があってそこの下草が美しいとか。家の外周部に暮らしを引き継ぎつつ、町とつながるきっかけがあるのではないかと思ったんです。外を引き込むというのか、むしろ“外にゆだねる”というのがひとつテーマになっていきました。設計操作としては、もともとベンチのあった所を大きなデッキにしたりとか、玉砂利や飛び石のあったエントランスを人を向かい入れるような土間にしたりとか。単純なのですけどそういう部分の昔からの住みながら培われた居場所の良さを引き出していくことを意識しています。

──なるほど。今回M邸では、新しい実験の場としてのアイデアと、昔ながらの良さを引き出すという二つの要素が合わさっているのですね。

プロジェクトの背景には、新しい暮らしとして、「個人の住宅をひらく」、「セキュリティをひらく」という要素があったんですけど、現場がはじまり実際に見ていくと、今のこの家をどうして引き継ぐのかというところに行き着き、同時にこの家を残すことの意味を考えているんです。今まで住んできた家を壊すということは、積み重ねてきた暮らしがなくなってしまうのではないかと。壊すということには、なくなって思い出せなくなるのではないかという不安がともなうのではないかと思っています。たとえ骨組みになっても引き継いでるということによって、安心感がある。家に残る暮らしを、継承する。きっとそれが大切なのだと思っています。まだ、これを自分自身の中でも正しく言語化できていないのが課題なんですが。

〈M邸〉(2017年8月竣工予定) 東京都調布市深大寺に親と共に暮らしていた140㎡程度の家の改修。大学教授であるMさんの新たな暮らし方と昔からの居場所を両立させるように築54年の木造の良さを引き継ぎながら設計。

 

自分にしかない発見や体験を建築に与える

──プロジェクトに対して、これまでさまざまな条件や考え方を手がかりに進めてきたと思うのですが、神永さんの興味や体験といったものがあらわれたものがあるのでしょうか。

私が入社して一番大きなプロジェクトに関わるできごと、自分に一番に影響力のあるものが〈神奈川大学国際寮〉のプロジェクトです。思い入れも大きく、早く建てたいです (笑)。このプロジェクトは、自分が日頃から考えている興味の延長にあることだと思っています。そこにどういう生活や出来事を想定するのか、まだ具体的ではなかった時に、西田さんに「神永さん、シェアハウスに住んでいた時に交流ってどうでしたか」と聞かれて、自分の今までの生活を客観的に見るということが必要になったんです。提出前夜だったんですけどね(笑)。
あの時、国際寮の代表的な存在が早稲田の「WISH」だったんです。WISHは、4人で1ユニット型。水回りとリビングが各ユニットにあり、それが1フロアに並んでいます。違うフロアには、大きな共有のワンルームがあるという構成です。効率的で交流を促すつくりではあったんですけど、どこかそれでは限定的な使い方しかイメージできない気がしていました。
私がシェアハウスで実感し学んだことは、オープンであるということでした。誰かが、何かしているところが見えるというのがコミュニケーションのきっかけになるんだと感じたんです。この人は、ギターを持って帰ってきたから音楽が好きなのかなとか、遅く帰ってきてもいつも料理をしていてるから料理が得意なのかなとか。これらって、ひとり暮らしでは生まれない、交流のきっかけだと思うんです。
神奈川大学の寮で設計している「ポット」という共有空間は、ワンルームではなく、腰高の高さの壁だったり、動線の一角だったりします。結果、全体にひらいていて、どこからでも見下ろせて、人と人の出会いを生み出せるように考えられています。やはり、場所がオープンであるということは強みで、見える、声が聞こえる、匂いが届く。そうした自分の経験からでた発見をこのプロジェクトには反映することができる気がしています。

〈神奈川大学国際学生寮計画〉(2019年竣工予定) 「神奈川大学国際学生寮コンペ案」 ポットと呼ばれるさまざなな特長のある共有空間を吹き抜け動線エリアに配置することによって、活動や様子が両全体に広がり、学生同士交流を誘発している。

──「ポット」には、そうした神永さんの生活の経験が生かされているんですね。交流というところに重点があるのに対して、個人の空間で考えていることはありますか。

そうですね。個人の居場所をどうしていくか、それも議論にはなっていました。「ポット」に関しては、規模を住宅のリビング以下にして、ひとりでいても嫌じゃない空間になっています。また、stgkさんと設計している「枝先ポット」は、外部空間に個人の居場所が考えられています。既存樹の中に遊歩道をつくり、その中に小さなスケールのデッキによる「居場所」を設置。個人と静かに向きあえるような場所を想定しています。

──最後になりますが、神永さんは、6年間で多くのプロジェクトに携わってきたと思います、今、神永さんがオンデザインとして、大切にしていることを教えてください。

過去の私は協調性が高くて、「この人が考えているこういうところが良いなら合わせよう」という思考だったんですよ。だけど結局たどり着いたのは、「今は、自分にしか発見できないような経験とか体験を身につけることが大切だ」ということです。その感覚がとくに顕著だと思うのが、私と大沢くんです。同じオンデザインにいるけど、動かしているプロジェクトはお互い違うものが多くあります。入社して5年経ちますが、気づけば大沢くんは〈みなまきラボ〉や〈BAYS〉など、いくつもの拠点運営や事業計画などのプロジェクトを動かしています。でも、実現したい“居場所のあり方”はきっと同じなんです。以前は、オンデザインの中でも「設計事務所なのになぜ、事業をやるのか」という議論もありました。だけど、今、このご時世に職種にこだわる雰囲気でもなくなってきているのは、私自身が身にしみて感じています。建築やってない人もDIYできるように、違う分野の人でも建築の専門性が少しでも共有されるのは良いことだと思うんです。大沢くんも私も、得意分野や興味が違うだけだと理解しています。その集合体としてオンデザインがあると思っています。だからこそ、各個性の共有のされ方が肝であり大切ではないでしょうか。
それがオンデザインでは、……….どうなっているんでしょう(笑)。

──課題ですね(笑)。

〈ゴーヤ邸〉(横浜市井土ケ谷)築70年の風情あるレトロな日本家屋を、リノベーションしたシェアハウス。昔ながらの田舎の家といった佇まいだ。ヴィンテージなインテリアを残し、古きよき和の空間を実現している。入居者は、自然、エコ、古民家好きのスローライフな方も多く、お庭に畑をつくったり、庭仕事の後は麓の天然温泉「くさつ」でひと風呂浴びたり、週末はご友人も交えてのBBQをしたりとそれぞれ満喫している。(参照:ひつじ不動産)photo:kazuki takano

profile
神永侑子 yuko kaminaga

1990年茨城県生まれ。2012年愛知工業大学卒業後、同年オンデザイン入社。数多くの住宅物件を手がける。現在は神奈川大学国際学生寮を担当。大型物件から住宅まで手掛ける。