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ベルリン見聞録
#03
シェアモビリティと
自転車編

text & photo :yoichi koizumi

夏の休暇で訪れたドイツ・ベルリンでの体験をレポートする連載シリーズ。第3回は街中で見かけたシェアモビリティの現状と自転車にまつわる最新事情について!

 

 

「MaaS」という言葉をご存知だろうか。Mobility as a Serviceの略で、未来の交通を語る上で外せないキーワードのようになっている。総務省では以下のように定義している。

MaaSとは

電車やバス、飛行機など複数の交通手段を乗り継いで移動する際、それらを跨いだ移動ルートは検索可能となりましたが、予約や運賃の支払いは、各事業者に対して個別に行う必要があります。
このような仕組みを、手元のスマートフォン等から検索~予約~支払を一度に行えるように改めて、ユーザーの利便性を大幅に高めたり、また移動の効率化により都市部での交通渋滞や環境問題、地方での交通弱者対策などの問題の解決に役立てようとする考え方の上に立っているサービスがMaaSです。(総務省ホームページの記事より抜粋)

わかったようなわからないような定義だが、超ざっくり言うと自動運転とか、ビッグデータとか、AIとか、スマホとか、シェアライドとかを使って、「都市の移動をいい感じにしていきましょう!」というやつだ(専門家のみなさま、ごめんなさい)。

ともあれ、MaaSの中では一部分ではあるが、ラストワンマイルと言われる公共交通と目的地のわずかな距離の移動を支えるシェアモビリティが結構進んでいたので、使ってみた感想を素人目線でレポートしようと思う。ちなみに自動車のカーシェアリングやUberMytaxiといった配車サービスは使っていないので今回は省く。

 

ドイツの自転車レーン事情

整備された自転車レーン

シェアモビリティの話をする前に(前提が長くてすいません)、ドイツの自転車レーン事情を書かなくてはならない。というのも今回体験したシェアモビリティは自転車レーンがないと成立し得ないように思えたからだ。

ヨーロッパでは日本よりも自転車レーンの整備が進んでいると言われるが、確かにベルリンも主要な道路には基本的に自転車レーンが設定されている。

車道の右端(ドイツは車は右側通行)に「白線」と「自転車マーク」で区切っただけのところもあれば、歩道上のインターロッキング(舗装)の色が変えられて、自転車レーンとされているところもある。幅は約50〜100cmくらいだろうか。構造分離型という、完全に自転車専用道路となっているものもあるが、大半は線で分けてあるだけでものすごく走りやすそうというわけではない。そもそも石畳の上はめちゃくちゃ走りづらい。

日本より自転車レーンの整備は進んでいるけれど、そのハード整備がベルリンの自転車利用を促しているわけでもないように思った。

なのだが、みな自転車レーンを走り、歩道を走ったり、逆走したりする自転車はほぼない。そしてうっかり自転車レーンで突っ立っていたりすると後ろから掛け声で注意されるか轢かれかける。つまり、ドイツでは自転車は自転車レーンか車道の右端を走ることが当たり前という規範が市民に徹底されているのだ。

自転車乗りは、みな自転車レーンを走っていて、歩道を走ったり、逆走したりするケースはほぼなし

日本でロードバイクを趣味としている人なら「キープレフト(自転車は左側通行)」という標語を心がけているが、生活の足として乗っているママチャリや子乗せ電チャリでそれを徹底している人は少ないだろう。

むしろ道路の右側だろうが左側だろうが、ベルで歩道の歩行者を散らしながら走ることが事故に遭わないための生存戦略だと思われている。日本の道路交通法では自転車は車両なので「原則車道を走行、歩道は例外」が定められている(罰則規定があることを今調べて知った。警官の自転車も普通に歩道走ってるのに!)。

しかし、子どもを前後に乗せたお母さんが、車道を律儀にキープレフトで走っていたら逆に車に当たりそうで危なっかしくて仕方ない。結局、自転車レーンのない道では時速20kmの自転車は行き場所がなくて歩道を走るしかないのだ。

えっ、ロードバイクに乗ったサイクリストおじさんはどこを走ってるかって? 答えは、車道の左端、白線と側溝の間の2cmを車に幅寄せされながらビクビク走ってるよ。

話がそれてしまったが、ドイツ人の自転車走行リテラシーの高さが不思議だったので、滞在中にドイツ出身の人に聞いてみた。そうしたら、ドイツでは自転車の交通ルールを幼稚園で習うのだそうだ。中学校あたりで教えてもらうのかと思っていたので、軽く衝撃だった。

そりゃ、5歳のときから叩き込まれていれば何も迷わず自転車に乗れるに違いない。つまり、「自転車レーンというハード整備+幼稚園からの自転車乗り方教育」という二本立てが、ドイツの自転車状況をまともな交通手段たらしめているのである。

 

ベルリンで使えるシェアバイク

危ない……、ドイツの自転車環境の話だけで終わるところだった。本題に入らなくては。

シェアモビリティと聞いて、まず思いつくのはシェアバイク、貸自転車だろう。ここでは、ホテルなどで1日いくらで貸してくれて、また同じところに返す、昔ながらのレンタサイクルとは区別する(そういうタイプのやつももちろんある)。

ベルリンでよく見かけるシェアバイク「JUMP」

ベルリンでよく見たシェアバイクは、MobikeLimeLIDL-BikeJUMPなどだ(ofoもあったけど、お前生きてたのか……)。LIDL-Bikeは、ドイツのディスカウントスーパーが冠スポンサーらしく、運営会社はDeutsche Bahn Connectというドイツの国鉄DBの関連企業のようだ。JUMPUberがやっているシェアバイクサービスで、他の自転車と違って電動自転車を使用している。真っ赤な車体でロゴもかっこいい感じだったので乗ってみたかったのだけど、僕の携帯に入っているUberアプリが日本仕様だったためか、使うことができなかった。Limeについては後述する。

滞在中に重宝した「Mobike」

僕がベルリン滞在中によく使ったのは、Mobike(モバイク)だった。実質シェアバイク界の覇者となった中国発のサービスなので、知っている人も多いだろう。

日本では札幌と福岡で部分的に導入されている(参照:日本国内のMobikeが「使いものにならない」と感じる理由 )。Mobikeはスマートフォンにアプリをダウンロードし、事前に登録したクレジットカードから乗った分だけ引き落とされるシステムで、複雑な手続きも必要ない。乗りたい自転車についているQRコードをアプリで読み込むと、すぐに通信して解錠され、そこから利用がはじまる。

利用料金は300.5€と激安。月額で借りることもでき、その場合は7.99€/月。乗り終わったら後輪についている馬蹄形の鍵を手でガチャッと閉めて終わり。アプリにも終了の合図が送られる。(このアプリの使いやすさ、日本の某赤いシェアバイクも見習ってほしい。i-mode専用なんじゃないの、あの予約サイト。。)

知り合いが乗っていた東ドイツ時代の自転車

ベルリンは自転車盗難がめちゃくちゃ多いらしく、自前の自転車を持っている人は盗まれないようにわざとボロボロのやつに乗っている。今回知り合った日本人は中古屋で東ドイツ時代の(30年以上前の!)自転車に乗っていた(逆にそんなのまだ売ってるのか!)。だから、自前の自転車は持たずに、最初からシェアバイクを月間で借りている地元民も多いそうだ。

 

電動原付さえもシェア

クラシカルな外観の「Emmy」はドイツ発のサービス

国際免許を持っていなかったので乗らなかったのだけど、電動原付バイク(電動なのに原付とは語義矛盾と言われそうだけど下記のキックボードもスクーターというので)のシェアリングサービスもあった。

台湾発のgogoroを使った、Coupは、Boschが設立した会社のようだ。(参照:ボッシュの電動バイクシェア「Coup(クー)」、加熱するMaaSブームに乗れるか)また、クラシカルな外観のEmmyはドイツ発のサービスで、一見電動バイクに見えないのがいい。

 

ドックレス”で乱立するシェア電動キックボード

さて、じつは本当に書きたかったのは「シェア電動キックボード」についてだ。英語だとe-scooterと言ったりもするが、原付スクーターと紛らわしいのでキックボードと書くことにする。

僕は今回初めて乗ったのだけれど、北米やヨーロッパの主要都市で、この1,2年で爆発的に増えている乗り物らしい。2輪のボードに長いハンドルがついているキックボードに、モーターが搭載され、最大25km/h程度で走行できる新しい乗り物だ。

じつは上述のシェアバイク、シェア原付でも「どこで借りてどこで停めるのか」はサラッとスルーしたのだが、このシェアキックボードも全部、「ドックレス」というシステムを採用している。つまり、ドック(=ポート)がないから「どこに停めてもいい」ので、「街のどこにでもある」という便利さを売りにしている。シェアバイクもシェアキックボードも、いろいろな種類の車体が街の歩道のあらゆるところに置いてある。

日本で見るシェアバイクは、ほぼすべてポートと呼ばれる駐輪場から借りて、またポートに返す。別のポートに乗り捨てることもできるが、必ずポートを探さなくてはいけない。当然、欲しいところにポートがなかったり、目的地から遠いところで返さなくてはいけないため、ラストワンマイルを満たしてくれる乗り物とは言えず、観光地から観光地の移動などに使われることが多い。

サンフランシスコ発の「Lime」

ベルリンでよく見たのは、サンフランシスコ発のLime。シェアキックボードのパイオニア的存在と言われており、Googleからの出資を受け急成長している。実際、Googleの支援を受けているだけあってGoogle mapで道順を調べると「Limeで何分で到着」というようなサジェストも出てくるのはすごいと思った。Limeは電動キックボードだけではなく、シェア自転車もやっている。

そして、ベルリン発のTIER。これは車体やアプリのデザインがかっこよくて個人的にはLimeより好きだった。なぜか最高速度がLimeより1km/hだけ速い。

ベルリン発「TIER」

その他よく見たのは同じくベルリン発スタートアップのCIRCや、スウェーデン諜報部隊出身メンバーが創業したVoiなど。どちらもオシャレなカラーリング。もう一つ、ベルリン発のWindというのがあるらしいんだけど、気づかなかっただけなのか、見かけなかった。実はWindはすでに日本上陸していて、埼玉県の浦和美園駅で借りれるそうだ。(参照:【日本初】浦和美園駅に導入されたシェア電動スクーターサービス「WIND」を実体験した感想簡単・楽しい・気持ちいい!!

スウェーデン発「Voi.」

 
電動キックボード乗ってみた

電動キックボードはそこらじゅうに落ちていて(置いてあるというより)、アプリさえ入れておけば簡単に使える。mobikeと同じく料金の支払いもアプリ内で完結する。街角で見なくても、アプリを起動するとマップが開かれ、周辺のどこに、何%充電されたキックボードがあるかひと目でわかるようになっているので、疲れたときは便利だが、だいたい欲しいときにこそ近くになかったりする。

乗り方も簡単で、まず最初にアプリ上に乗り方の注意などが表示される。起動したら1,2歩蹴り出して右親指のスロットルを押し込む。するとモーターが動き出してそのままスイーっと乗ることができる。

ブレーキは機種によって少し異なるが、左手側にあるブレーキレバーでコントロールする。後輪のフェンダーを踏んでタイヤを止めることができる機種もある(緊急用)。簡単なのだけど、こういう類の乗り物に慣れていないと結構危ないと思った。実際、僕の奥さんは怖くてスピードを乗せ切れず、かえってフラフラしていた。石畳のところなどは、超短ストロークのフロントサスが付いているものの、ものすごく振動する。

そして、ようやく前段とつながるのだけど、ベルリナーたちが律儀に自転車レーンを右側通行しているおかげで、観光客でも電動キックボードを乗るときは自転車レーンを邪魔にならないように走らなくてはいけない、という暗黙の了解が徹底されていた。

現に自分たち含め、キックボードに乗っているのはほとんど外国人観光客(っぽい人)で、交通ルールもよくわかっていない感じだったが、周りを見て自転車レーンを走っていたので、一応成立していた。

自転車レーンでは自転車も結構飛ばしているので、逆走しようものなら大事故かめちゃくちゃ怒られる。レーンがあってさえそれなのだから、レーンのないところや路駐を避けて進まなくてはいけない狭いところは結構危険である。目撃はしなかったが、事故も多いそうだ。

植え込みに投げ捨てられていたキックボード

ドックレスシステムも、そこらじゅうに自転車やキックボードが置かれてもはや秩序などないのが現状だった。一応、停車禁止エリアはあるものの、公園の中とか官庁街とかごく一部なので、人気エリアには山程置いてあって歩道を圧迫しているし、たまに植え込みに投げ捨てられているのさえあった。

交通的にも観光客が乗って危ないし、停めてあっても歩道の邪魔だしということでベルリナーの反応は冷ややからしい。もちろん普及しているのはベルリンだけじゃなくてヨーロッパ全土らしいので、ローカルからの反対で撤退させられる都市はこれから続出しそうだ。

 

日本に上陸はたして?

さっきも書いたけど、Windはすでに日本に上陸していて、Limeも日本法人を立ち上げたというニュース記事があった。その他LUUPなどのサービスも実証実験を開始している。で、各社日本の機材的な規制が厳しいとか、いろいろ検討しているらしいのだけど、その前に日本の交通インフラ、交通マナーじゃ無理じゃないか?と正直なところ思っている。

電動キックボードを都市部で乗るには、その前に自転車の走行環境とルールの統一化が不可欠だ。それなくして、機械だけ持ってきても(それが日本の基準を満たしていても)まともに走ることはできないだろう。

電動キックボード同士の正面衝突なんて起こったら、マジで死ぬ。MaaSの進んだ社会を実現するためにも、個人の移動の自由を促すためにも、理念的にはシェアキックボードは優れているかも知れない。遊びで乗るなら楽しい乗り物だ。だけど、ママチャリが歩道を爆走せざるを得ない日本の自転車環境をそのままにして上っ面だけグローバル化することなんてできないのだ、と個人的には思う。