update

ベルリン見聞録
#02
マルクトとフード、
クラフトビール編

text & photo :yoichi koizumi

「市場」「マーケット」「マルシェ」のことをドイツ語でMarkt(マルクト)という。今回は、週末に公園や広場で開催されるマルクトや、常設化している屋内型マルクトについてのレポートと、クラフトビールや食についても少し紹介したい。これも、ベルリンの街の空気感をつくるのに欠かせない要素だと思うからだ。

(「ベルリン滞在記」としてスタートした本連載ですが、とっくに日本に帰ってきて思い出しながら書いているので、さり気なく「ベルリン見聞録」とタイトルを変更してお送りします)

 

WinterfeldtplatzのマルクトとBIO

僕が今回の旅で最初に触れたドイツのマルクトはフランクフルトのKleinmarkthalle(クラインマルクトハレ=小さな市場)だった。

ここは一般人も入れる公設の市場で、屋内型マーケットホールの中に小さな食料品店がたくさんあり、飲食ができるお店もある。僕も行列を作っていたWurst(ヴルスト=ソーセージ)屋で白ソーセージを買って2階のワインバーで食べて、ドイツのマルクトは楽しそうだという確信を得た。

ベルリンで初めに見たのは、今回のベルリン滞在で事前からとてもお世話になったNIONの井口奈保さんと待ち合わせをするために行ったWinterfeldtplatz(ヴィンターフェルト広場)のマルクトだった。

ここは、いわゆる青空朝市というやつで、ベルリンの南西部Schöneberg(シェーネベルク)地区の広場で水曜と土曜に開催されている。約250店の露店が並び、ガイドブックによると規模も人気もトップクラスだそう。簡単な棒と布で立てたテントもあれば、専用のキッチンカーで出店している資本力がしっかりしてそうなチーズ屋なんかもある。

移民のおばちゃんたちがやっているかなり本格的なトルコ料理屋台(昔、トルコで見たものと全く同じだった)やベトナム料理屋台などもあれば、BIO認証を取っている有機栽培の野菜やジャムなどもあり、ついいろいろ買ってみたくなる。

ちなみに、70年代までの経済成長期に西ドイツはトルコから、東ドイツはベトナムからの移民を招致したので、彼らの文化に由来する物も多く、ドネルケバブはトルコではなくドイツが発祥の地だという(今回食べる機会がなかったのが残念)。

「BIO=ビオ」というのはドイツ連邦消費者保護・食糧・農業省大臣が 認定するBIOマークをつけた食品のことで、いわゆるオーガニック製品のお墨付きである。BIO製品を中心に取り扱うAlnatulaなどのスーパーもあり、健康意識の高い人を中心にブームとなっているらしい。(BIOの基準についてはこちらの記事が詳しい→https://www.besteessen.com/?mode=f4

BIOかBIOじゃないかでブランドの価値も変わってくるし、このあたりに関しては日本人も共感するところだろう。「トクホ」のように全国一律の基準と認証マークが統一されれば、日本でも流行るに違いない。ただし、あまりにも流行りすぎているため、BIO農産物が足りなくなる、価格破壊が起きるなどの問題も起きているそう。

ドイツの買い物で印象的だったのは、レジ袋などはわざわざ言わないともらえない(有料)こと。そのため、どれだけ買っていても裸で手渡される。また、ペットボトルの飲料などもデポジット金を含めているので値段が最初から高く、その代わりスーパーなどに自販機の逆みたいな機械がおいてあって、空のペットボトルや瓶を入れると数十セント分のデポジット金が返還されるような仕組みになっている。

そういえば、このWinterfeldtplatzの近くにあるJones Ice Creamはめっちゃ素敵だし、おいしいのでオススメ。

 

次世代型グローカルマーケットMarkthalle Neun

ドイツに行く前に、ハートビートプランで働く後輩のしおりちゃんから教えてもらったのがMarkthalle Neun(マルクトハレノイン=9番目のマーケットホール)だ。

ここは、19世紀に計14軒できた公設屋内市場の9番目で、さらに第2次世界大戦の戦災も免れた歴史的な建物だが、2000年代に従来の市場が衰退したあと、2009年から2011年に再開発してスーパーマーケットになりかけたところ、地元住民の反対によって最高価格での入札方式をやめ、コンセプト重視の運営者コンペになったそう。

そこで選ばれたチームによって、オーガニックなもの、地域を大切にしたもの、クラフトなものを提供する店舗を集め、今の形としてリニューアルしたようだ。

建物内には、野菜、肉屋、魚屋、チーズ屋、スパイス屋といった食料品店に、たくさんのイートインフードを提供する飲食店、そして地下の醸造所で作ったクラフトビールを提供するビールメーカーもある。

面白いのは、ローカル性を大事にしている一方で、飲食店のラインナップがかなりグローバルかつ本気なところだ。僕らが食べたのは生パスタの店で、おそらくイタリア人と思われるスタッフの男子たちが客からよく見える本格的な厨房で、ドンピシャな茹で具合のパスタに絶妙なソースをからめて提供してくれる。

もちろん、チープな紙皿とプラカップではなくちゃんとした磁器の皿とワイングラスで出してくれる。どの店も、ワイングラスやビアグラスをテイクアウトで頼むとデポジット金が入っているので、返却時にそのお金(1€か2€)を返してもらう仕組みだ。

 

Craft Beer in Berlin

最後にベルリンのクラフトビール事情を少し。じつはドイツに行くまではクラフトビールがどういうところがあるかまったく知らなかった。多分、日本にあまり情報も商品も来ていない気がするし、そもそもドイツのビール銘柄自体の知識がなかったのだ。

僕が今回飲んだクラフトビールは、BRLO(ブルロ)HEIDEN PETERS(ハイデンピータース)RATSHERRN(ハンブルグ製)、あとお土産でもらったMALZ & MORITZ(ヒップスターのビールだよと言ってくれた)の4蔵。あ、あとミッケラーのバーにも行ったけど、これはデンマークなので割愛。

HEIDEN PETERSは、前出のMarkthalle Neunの地下で醸造していて、ホールの一番端っこにビアバーもある。そっけない空間だけどポップな手書き黒板からビールへの愛がにじみ出ている。なかでも「Wild IPA」というビールは酸っぱ美味しかった。

今回飲んだビールブランドでダントツに気に入ってしまったのが、BRLOで、前回の記事中のPark am Greisdreiekの横にある。

というよりBRLOとその横にあった建物が気になって電車を飛び降りたらその先に公園があったという方が正確だ。なんで気になったかというと、彼らの醸造所兼レストラン兼ビアガーデンのあるその建物、BRLO BRWHAUSが黒い海運コンテナをただ積み上げただけのようなデザインだったからだ。

中に入ると簡素ながらもクールな照明やサインで、デザインに対しても意識が行き届いていることがよくわかる(昔からの友人なら小泉が好きそうなデザインだなと思ってくれるだろう)。

また、公園とつながっているようなビアガーデンも気持ちよく、レストランとは分離したオペレーションでビールとフードがキャッシュオンで頼めて、外のいろいろな席で楽しめる。

子ども用の砂場とか犬用ビール(水飲み場)があったり、BRLOロゴの入ったレインボーステッカーがさり気なく貼ってあったりして、全く肩肘張らずに多様性フレンドリーな雰囲気を実現している。

また、揃いの黒いロゴTシャツを着た若いスタッフたちが皆気さくで、勝手に共感して思わず同じTシャツを買ってしまった。ちなみにあまりに気に入ってしまったので、横浜の友人で同じくヨーロッパ旅行中だったテツさんを連れて2日連続で行ってしまったくらいだ。

クラフトだからといってめちゃくちゃヒッピーでもヒップスターでもない、万人にカルチャーを持ったかっこいいものをというスタンスがいいんだよなー、たぶん。

 
自分たちでつくるというクラフト精神

ドイツの食といえば、ジャガイモとソーセージと酸っぱいパン、以上。だと思っていた(あながち間違ってないと今回会ったドイツ人は言っていたが……)が、ことベルリンに関して言えば、想像よりもっとカラフルな食の世界があった。これなら住んでも楽しく暮らせそうだと思った。

そして、そのカラフルさはクラフトやオーガニックの文脈を取り入れて、もっと拡がっていきそうな気配を感じる。ミシュランの星付きや、モダンガストロノミーのような派手な美食の世界ではないかもしれないが、誰かに与えられた価値観から脱しようとするこの街では、そのカラフルさが自由を手にするための鍵なのだろう。(次回へつづく)

 
第3回は、「シェアモビリティと自転車編」。お楽しみに!
(前回の記事)
現地報告!「ベルリン見聞録」#01 パブリックスペース編
profile
小泉瑛一 yoichi koizumi

建築家/ワークショップデザイナー
1985年群馬県生まれ愛知県育ち。2010年横浜国立大学卒業。2018年青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム修了。2011年、宮城県石巻市で復興まちづくりの市民アクション「ISHINOMAKI 2.0」設立に参画、現場担当として様々なまちづくり活動に携わる。横浜の建築設計事務所オンデザインで拠点運営やエリアマネジメント、市民ワークショップなどを中心に担当。参加型デザインがテーマ。共著書に『まちづくりの仕事ガイドブック』(学芸出版社)。趣味は自転車。