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現地報告!
「ベルリン見聞録」
#01
パブリックスペース編

text & photo :yoichi koizumi

この夏、たまたま10日間という長めの休暇がとれたので、ドイツを旅しながらヨーロッパの“今”を見てこようと思った。航空券こそ「バンコク経由フランクフルト行き」だったが、ドイツ滞在中はほとんどベルリンで暮らすように過ごした。現地では見たり、聞いたり、食べたりの充実した日々。だが、それらを咀嚼するのに時間を要したのも事実だ。そこでベルリンでの様々な体験を、今後いくつかのトピックに分けて書き残していこうと思う。遅れたが、僕はオンデザインで、主に「まちづくり」や「拠点運営」の仕事をしている。この連載から今のベルリンに漂う“まちのテンション”を、少しでも感じてもらえれば本望だ。

 

 

なぜベルリンへ?

子どもの頃からドイツという国に憧れがあった。僕自身、工業地帯育ちということもあり、インダストリアルなプロダクトのデザインや品質に共感をもったのかも知れないし、映画『ラン・ローラ・ラン』のようなぶっ飛んだパンクとかテクノカルチャーのイメージもあったからなのかも知れない。いずれにせよ、憧れていたものの、なぜだか今までドイツに行くという選択肢をとってこなかったわけだ。海外に旅する機会は何度もあったのに。

じゃあ、なんで今になってベルリンなのか(台湾のように流行りのスポットでもないし)。もちろん、冒頭の通り、事務所のお盆休みが長くとれ、仕事のタイミング的にも行きやすかったというのは大きい。だが、それよりも「今のベルリンを見ておいたほうがいい!」と、心底、思ったからだ。

そこで今回の旅で、自分が確かめてみたいことを箇条書きで書いてみた。

・シリコンバレーの次に面白い人達が集まっていると言われるベルリンの良さとは?

・Holtzmarktはどんな場所、運営、雰囲気なのか?

・日本とベルリンをつなぐプロジェクト、NIONとは?

・パブリックスペース、屋外空間はどれくらい日本より進んでいる?

・スタートアップが集まると言われるベルリンのシェアオフィス、コワーキングスペースの居心地は?

・シェアバイク、e-キックボード、自転車レーンなどモビリティは?

・都市農業やガストロノミー、クラフトビールやカフェなどの食事情は?

・アウフグースの本場、ドイツのサウナは?(男女混浴ってマジなの?)

以上、こうした断片的な情報ながらも面白いと言われはじめているベルリンに「都市の未来」をつくっていくヒントがあるのではないか。はっきり言語化できるかは正直わからない。でも、必ずなにかを持ち帰ることができるだろうという確信的な期待が僕にはあった。

 
 
Berlinerは太陽が好き

ということで、まずはベルリンのパブリックスペースについて、僕が見聞きしたり学んだことを書いていこう。

ちなみにここで言うパブリックスペースとは、「公共による設置、管理の空間」という意味ではなく、公園も含むけれども市民が自由に出入りできて、居場所とできる空間くらいの意味合いで捉えてほしい。

まず前提として、ベルリンの人々は陽の光に当たることが好きらしい。そもそもベルリンは緯度が高く、夏が短い。

実際、僕がいた最終日のあたりは8月のお盆も終わってないというのに、完全に気温は秋のそれだった。そして、白夜とまではいかないが、夏の日没も遅く、21時台までは普通に明るく外で活動ができる。

ゆえに短い夏の陽を最大限楽しもうという雰囲気が街全体にあって、カフェやバーも外の席から埋まっていくので、満席に見えても室内は意外と空いていたりすることもよくあった。そして、ドイツといえばビール、夏と言えば「ビアガーデン」というのはベルリンも同じ(ちなみにドイツ語でも日本と同じ「Biergarten」という単語らしい)で、そこかしこに夏季限定のビアガーデンが出現していて、またそれがセンスがいいのである。

 

 

湖と太陽、そしてビール

Berliner(ベルリナー)は太陽とビールに加えて湖も好きである。ベルリン中心部最大のTiergartenにあるCafe am Neuen Seeはそれを集約したような空間で、貸しボートが浮かぶ湖畔に、DIYで作ったようなキッチン、折りたたみ式ながら木製のベンチとテーブル、たっぷりの生ビールとドイツ料理。

一角では手作りの結婚式なんかもやっていて大変素敵な空間だった。ベルリン初日にここを訪れた僕はすっかり気に入ってしまったのだけど、ここはむしろ「設えがちゃんとした」パブリックスペース(まあそもそもカフェ・レストランなのだけど)だということもすぐにわかった。

 

 

なにもなくても楽しめる

森があって、湖があって、散策路があるような公園も素敵なのだけど、一見なにもないような公園にも出合った。

Park am GleisdreiekTempelhofer Feldである。前者はベルリンの中でも比較的郊外というか新しく集合住宅がつくられているようなエリアにあって、公園自体もだだっ広い。

僕が行けたのはその一部なのだけど、そもそもどこから公園がはじまっているのか、どういう管理をしているのかわからない。設えというかランドスケープもラフで、芝生と簡単な舗装の園路、それからたまに備え付けの卓球台や遊具があって、自前の道具で卓球を楽しんでいる人たちもいる(じつはドイツは卓球大国で、サッカーと同じくブンデスリーガというプロリーグがある)。

で、これだけ書くと、だだっ広い公園に人などいるのかと思うかも知れないが、これがめちゃくちゃいるのである。ほとんどの人が芝生にピクニックシートを広げて、自由に過ごしている。

自転車で来て、おもむろに芝生に座って本を読む男子、使い捨てのBBQセットでなんか焼いて食ってるグループ、髪を切りあう女子ふたり(「今日あそこの公園で髪切ってあげるよ」とか約束したのだろうか?)、ひな壇状になっているところでわりといい音でテクノをかけてチルしている全身真っ黒の集団……とにかくいろんな過ごし方が許容される自由さがある。

それがだいたい22時近く、真っ暗になるまで続く。(ちょっとこの公園の成り立ちとか立ち位置はもう少し調べます。全然違ってたらすいません)

そしてもうひとつのTempelhofer Feldはさらになにもない。こちらは日本語で紹介されている記事もいくつかあるので、知っている人も多いかも知れないが、2008年までベルリン・テンペルホーフ空港だった場所がほぼそのままの状態で、2010年に公園化されている。

「ほぼ」と言ったのは、一応サインとか、すごく簡単なゾーニング(柵で囲っただけのドッグランや、巨大なゴミ箱が置いてあるだけのBBQエリアなど)だけがされていて、ひび割れした滑走路、ススキみたいな草が生えた草原など、おそらくなにも手を付けていないと思われる。ここでも、芝生では人々が自由にピクニックをしている。

真ん中のあたりに貸し農園があって、そこに居る人たちも多い(べつに農作業してるわけではなく、ただ居るという感じ)。

滑走路とそれをつなぐ舗装路がとてつもなく長いので、ロードバイクやインラインスケート、ジョギングなどスポーツをしている人もかなりいる。あと滑走路のあまり人がいない場所で、凧を飛ばしてバギーみたいなのに乗って風力で走らせる遊びをしている一団もいた。

というかこの人達はこの公園がなかったらどこでこの遊びをやるのだろうか……。

ほぼなにもないのだけど、唯一素敵な仕掛けがあった。入り口のところに守衛室のような小屋を改装した小さなカフェがあり、ここでピクニック用品(カゴと食器など)を貸し出してくれる。

サンドイッチやコーヒーも売ってるので手ぶらで来てもピクニックが誰でも楽しめるようになっている。と言っても僕らしか借りている人を見かけなかったけど。

「ベルリナーは自由でいいな」とここまで読んでくれた人は思うかもしれない。だけど、段々とこの「自由であること」がベルリンの人々にとってものすごく重要なコンセプトなのではないか、ということに気づいてきた。

自由さの定義というのは論争の種になりがちで、論争や炎上を避けたいが故に日本では個々人の自由さを犠牲にすることがままあると思う。自由であるために他者に迷惑をかけてしまうことは仕方ないが、どこまでが迷惑でどこまでが許容されるかはその都度議論していくしか本来はないはずだ。それをいとわずに、「自由であること」を選択し続けてきたベルリンの人々の精神が、このまちの他にはない精神をつくってきたのではないか。

公園の使い方を見ても、何かが違うと感じさせる、このまちの精神を探っていきたい。(次回へつづく)

 
第2回目は「マルクトとフード、クラフトビール編」。お楽しみに!

 

profile
小泉瑛一 yoichi koizumi

建築家/ワークショップデザイナー
1985年群馬県生まれ愛知県育ち。2010年横浜国立大学卒業。2018年青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム修了。2011年、宮城県石巻市で復興まちづくりの市民アクション「ISHINOMAKI 2.0」設立に参画、現場担当として様々なまちづくり活動に携わる。横浜の建築設計事務所オンデザインで拠点運営やエリアマネジメント、市民ワークショップなどを中心に担当。参加型デザインがテーマ。共著書に『まちづくりの仕事ガイドブック』(学芸出版社)。趣味は自転車。