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One day
#07
匿ってくれ!

text: makoto saeki
photo: yoshitaka matsumoto

ヨ コ ハ マ の ま ち を 彷 徨 う 文 筆 家 ・ 佐 伯   誠 に よ る  シ ョ ー ト ス ト ー リ ー 。

 

そもそも、野毛という街のことを教えてくれたのは、

小説家の樋口修吉さんだった。

亡くなってもう何年にもなるけれど、

安部譲二に「真性都会無頼派」という勲章をもらった人だ。

この人が「パパ・ジョン」のことも、「三杯屋」のことも教えてくれた。

ヨコハマを舞台にした『本牧ララバイ』という小説もあった。

パパ・ジョンにはよく通った。三杯屋の店じまいには、花束を持って行った。

日ノ出町の「栄屋酒場」も好きだったけれど、いきなりなくなってオロオロした。

ヨコハマは、何年もかけて自転車で走り回って、靴底を減らして歩き回った。

黄金町の「canti」は、もし追われることがあったら逃げ込むところだと決めていた。

ずいぶん情がらみでなじんだだけに、歩いていると思い出すことが多くて困る。

こんな街、どこを探したって見つかりっこない。

東京がとっくに失くしたものを拾えるのは、路上の小さなミラクルだ。

風が吹くと、落ちている競馬新聞がクルッとめくれる。

I feel ancient ,as though i had lives many lives.

 


profile
佐伯 誠 makoto saeki
walker+cyclist+文筆家。音楽、映画、文学、アートの分野に造詣が深く、雑誌、ウエブ、広告など、多様な媒体で執筆を行う。「よそ者として無遠慮にヨコハマをうろつくのは、occupied japanの残り香を嗅ぎたいから。この街には、東京が隠蔽してしまったものが残されているから」

松本祥孝 yoshitaka matsumoto
photographer +横浜関内にてmatsumoto coffee roasters 主宰。料理写真、街歩き写真が得意分野。コーヒー焙煎と白黒暗室の奇妙な関係を探索中。コーヒーの出前屋台や出前授業なども行う。横浜野毛ジャズ喫茶ちぐさで日替りマスター隔週金曜日担当中。