One day
#04
ラスト・ショー
i n t r o d u c t i o n
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街が老いて、ゆっくりと死んでいくのを見守るのはつらい。
豆腐屋がなくなる。
タバコ屋が消える。
文房具店が閉店になる。
乾物屋の夫婦が、いつのまにか老人ホームへ入ったという。
新しいパンケーキの店に、長い、長い、行列ができている。
顔見知りが消えてしまって、すれ違うのはトゲトゲした顔ばかりになっていく。
だれかに騙されてるんじゃないかと辻に立ちすくんでしまう。
やがて、恐れていたことが起こる。
古い映画館が、とうとうたて壊されるという。
いいじゃないか、ボロっちいのが壊されて、スッキリするんだから。
どうせ、ちょっと出かけりゃ、シネコンがあるじゃないか。
そんなふうに、もうひとりの自分がなだめにかかる。
座り心地のわるい椅子がきしむとか、トイレが狭いとか、
ケチばかりつけていたのがいけなかったのか。胸がチクっと痛い。
まるきり、ボグダノヴィッチの映画『ラスト・ショー/The Last Picture Show』そのままだ。
うそ寒い毎日、吹きっさらしの、ほこりっぽい、ザラついた街で、
そこだけは夢を見れるところ、そこにいるのは、みんな空きっ腹ばっかり。
どんなにハッピーエンドでも、エンドマークが出て、明るくなるのがイヤだった。
それは、たった一つ、手をかざせる街の残り火だったから。
いくつになっても、いつまでたっても、慣れることができない。
人も、街も、老いるということに。
(なにもできない自分のケツを蹴飛ばしたくなる。)
Just go to bed, now.Quickly.Quickly and slowly.
profile
佐伯 誠 makoto saeki
walker+cyclist+文筆家。音楽、映画、文学、アートの分野に造詣が深く、雑誌、ウエブ、広告など、多様な媒体で執筆を行う。「よそ者として無遠慮にヨコハマをうろつくのは、occupied japanの残り香を嗅ぎたいから。この街には、東京が隠蔽してしまったものが残されているから」
松本祥孝 yoshitaka matsumoto
photographer +横浜関内にてmatsumoto coffee roasters 主宰。料理写真、街歩き写真が得意分野。コーヒー焙煎と白黒暗室の奇妙な関係を探索中。コーヒーの出前屋台や出前授業なども行う。横浜野毛ジャズ喫茶ちぐさで日替りマスター隔週金曜日担当中。