Another City
#04
空っぽの鞄
文 筆 家 ・ 佐 伯 誠 の
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使い込んでボロボロになった鞄を、
一年越しに修復士の友人にあずけていた。
それが、戻ってきた。
みごとに直っていながら、古びたテイストはそのままになっていて、
ちょっとしたヴィンテージものだ。
パスポートが切れてしまったのを放っていたけれど、
旅の虫がムズムズし始めた。
鞄といえば、
作家のポール・ボウルズは、
七つの鞄を携えて旅をしたという。
映画化された『シェルタリング・スカイ』でも、船に積まれた
いくつもの鞄が印象的だった。
彼は、せわしない飛行機の旅は好まず、もっぱら優雅な船旅だった。
帰ることを前提にしているのはtourist、
travellerは、帰らないかもしれない旅人だという定義は
かすかな痛みとともに胸に刻まれている。
カラカラという音がするので、
鞄を開けてみたら、
小さな木の枝と小石が出てきた。
どこで拾ったんだろう?
どうして捨てずにいたんだろう?
もう、すっかり忘れてしまっている。
i would teach my feet to fly.
profile
佐伯 誠 makoto saeki
walker+cyclist+文章家。ヨコハマとの縁は長くて深い。どこを歩いても、何かを思い出す。ヨコハマで、街を一冊の本のように読むというたのしみを知った。街も人も老いる。嘆いても仕方ない、それに対して敬意を持つべきだ。
松本祥孝 yoshitaka matsumoto
photographer +横浜関内にてmatsumoto coffee roasters 主宰。料理写真、街歩き写真が得意分野。コーヒー焙煎と白黒暗室の奇妙な関係を探索中。コーヒーの出前屋台や出前授業なども行う。横浜野毛ジャズ喫茶ちぐさで日替りマスター隔週金曜日担当中。