銭湯通信
#01
プロローグ
私は銭湯が好きだ。
今、さまざまなメディアで注目を集める“銭湯”。建築をなりわいとするオンデザインにも、 銭湯好きは少なくありません。なかでも休日のたびに銭湯通いする所員が……約1名。 聞けば「銭湯がその周辺のまちに及ぼす関係性」について気になっているのだとか……。 そこで、ビヨンドアーキテクチャーは『銭湯通信』という新たなコンテンツをスタートさせます。 今後、銭湯の役割について、みなさんと楽しみながらさぐっていく予定。まずは手はじめに本企画を立案したオンデザインの長堀さんが、銭湯への思いをしたためます。
東京都大田区。
縁もゆかりもないこの土地に、ある日から住むことになった。
知り合いもいなく、坂道が多くて買い物をするところは近くにない。
思い描いていた煌びやかな大都市・東京とは、少し違う。
そんなことを思いながら、大田区を知ろうとインターネットで調べてみると、
銭湯の数が23区内で一番多いということを知った。
以前より温泉が好きだったこともあり、銭湯通いをはじめることにした。
大田区は下町から高級住宅街まで広範囲に渡る。
エリアの異なる銭湯にいくと、銭湯に通う人との会話から、
地域の違いを感じ、さまざまな情報を得られた。
わたしは大田区を「銭湯」から学んだ。
銭湯を利用する人の理由はさまざまだ。
癒しを求める人、観光で利用する人、スポーツ後に利用する人。
かつては多くの銭湯が日常の一部として使われていたが、家庭風呂の普及に伴い、
銭湯の数は年々減少している。
年(平成) | 都総数 | 23区 | 市 |
30年 | 544 | 491 | 53 |
29年 | 562 | 508 | 54 |
28年 | 602 | 548 | 54 |
27年 | 628 | 574 | 54 |
26年 | 669 | 612 | 57 |
25年 | 706 | 645 | 61 |
24年 | 741 | 675 | 66 |
23年 | 766 | 698 | 68 |
22年 | 801 | 730 | 71 |
21年 | 840 | 762 | 78 |
20年 | 879 | 797 | 82 |
19年 | 923 | 837 | 86 |
18年 | 963 | 873 | 90 |
17年 | 1,025 | 931 | 94 |
東京都生活文化局消費生活部より |
都道府県ごとに差はあるが、ワンコイン以下で入浴することができることもあり、
近年は銭湯の魅力が見直されてきている。
「銭湯フェス」「銭湯ヨガ」「銭湯シアター」「銭湯オフィス」・・・
東京では、若者をターゲットにした銭湯のコンテンツは数多く見られる。
味のある昔ながらの銭湯や、新しくリノベーションされた銭湯は、遠方からも人を引き寄せる。
若者だけでなく、地域の人にとっての銭湯とは、どんな存在なんだろう?
半年前にオンデザインに入り、それから「まち」との関わり方をよく考えるようになった。
ある日行った銭湯に、古いお釜型ドライヤーがあった。
使い方をさぐっていると、横で見ていたおばあさんが教えてくれた。
「近くに住んでいるの?」「ここは年寄りばっかりだけど、また来てくださいね」
そう、声を掛けてくれた。
自分の家ではないのに、出迎えてくれる。
この銭湯は、おばあさんの「ホーム」なのだと感じた。
わたしはたびたび思うことがある。
「ほどよいおせっかい」が好きなのだと。
”おせっかい“は、ただの世話焼きではない。
そこに、優しさと思いやりが存在する。
(生まれも育ちも大阪のわたしとそうでない人との「おせっかい」の捉え方は違うのかも知れないが)
身も包まず、心も解放される銭湯は、そんな「おせっかい」が生まれる場所であると思う。
それは、まちの人にとって、重要な場所なのではないか。
誰が近くに住んでいるか分からないでもなく、強制的なコミュニティでもなく。
そうだ、銭湯を知るための旅に出てみよう。
まちごとで、銭湯がどんな役割をしているのかを感じてみよう。
そして、銭湯業界の方に、話を聞いてみよう。
「また来てくださいね」
そう声を掛けてくれた、おばあさんや銭湯のある「まち」のことを考えたい。
銭湯の減少を食い止めたいだなんて、大きなことは思わない。
銭湯がまちに開き、「ほどよいおせっかい」が生まれるきっかけになれば。
さあ、銭湯へ出かけよう。
♨️ 次回は9月初旬の公開予定です。ご期待ください!
coming soon !
・インタビュー「銭湯を伝える人」(東京銭湯代表・日野祥太郎さん)
・勝手に銭湯計画(蒲田編)(川崎編)(横浜編) ……etc