高校生×都市
#03
なぜ街は高校生の
活動に期待するのか
高校生が学校の枠を超えて街で活動することは、「都市」にとってどんな意味を持つだろうか。
高校生と都市の良い相互関係を考える「都市を科学する〜高校生編」。高校生の視点から街の価値を考えた前回に引き続き、横浜駅近くで開かれた「ヨコハマ TEENS PARTY」を事例に、今回は都市の側から見た「高校生」の存在感を整理する。
街にとって、高校生の存在は?
「若い世代、応援したくなる!」
「治安悪いイメージが変わるかも」
「20年後のメインターゲット」
「学生の手作り感がいいね!」
2019年4月、爽やかな晴天のもとで開かれた「ヨコハマ TEENS PARTY」。横浜駅近くの商業施設前広場の特設ステージで奮闘する高校生の姿に、通りがかった買い物客が思わず声を上げた。
「高校生が手作りで頑張ってます!って感じが良いよねー」
「治安が悪いイメージを変えようとして、やっているのかな」
その時に会場で行われていたのは、じゃんけん大会。司会を務めた高校生のアイデアだ。「はい、このお菓子欲しい人は手を上げて〜。最初はグー、じゃんけんぽい」。さしたる変哲もない駄菓子を懸けたゲームは、絶妙にゆるく、和気あいあいと盛り上がっていた。
「ヨコハマ TEENS PARTY」は、音楽ライブやダンスをはじめとするコンテンツだけでなく、MCやアトラクション、会場装飾や運営まですべてが高校生の手作り。そこには、コンテンツのクオリティとはまた別の魅力があった。
街の爽やかな“アイコン”に
「ヨコハマ TEENS PARTY」が開かれた横浜西口エリアは、商業施設や居酒屋などで古くから栄えてきたエリア。劇的な再開発が進んだ「みなとみらい地区」等とは対照的で、周辺エリアには「治安があまり良くない」「ゴミが多くて汚い」(イベントでのアンケートより)など、ネガティブなイメージが先行していた。
ただ、毎日通学する高校生から見た「いまの西口」の印象は、少し異なるようだった。実行委員会のひとりが、準備段階で次のように話していた。
「昔を知る両親からは『横浜西口は治安が悪いから近づくな』と言われたんですが、通学してみると高校生が楽しめる場所もあるし、良いところはあると思うんです。だから、私たちが楽しんでいる姿を見せることで、街に対する大人たちの印象も変わっていけば良いですよね」
イベントに通りがかった買い物客の言葉は、そんな思いが通じた結果だったのかもしれない。奮闘する若者たちの姿には、街のイメージを爽やかに変えていく“アイコン”となる力がありそうだ。
都市の将来への“投資”
商業や地域経済という観点から見ると、街が高校生にとっても魅力的な場所にしていく意義は何だろうか。エリアの活性化に取り組む「横浜西口エリアマネジメント」は、高校生を巻き込んで活動していながら、明確な答えをなかなか見つけられないでいた。
1日200万人以上が乗降する横浜駅の周辺はビジネス街であり、商業地でもある。地元の鉄道事業の関連会社や商店街などで構成するエリアマネジメント組織にとって、大きな指標の1つとなるのはやはり経済。周辺へ通学する高校生は、数こそ多いものの、その購買力はそれほど大きくない。
「商業を考えるとつい、社会人や子育て世代を意識してしまう。でも、高校生は10年〜20年後のメインターゲット層ですよね」
「いまこのあたりで働いている人たちは、『昔この街で遊んで、いい思い出があるから懐かしい』って、よく聞くなぁ」
そんなエリアマネジメントの議論はひとまず、次のような長期的視点での結論に落ち着いた。
「いま街に親しんで魅力を感じてもらうことは、将来、仕事の場や家族で過ごす場として選んでもらうために必要なんじゃないか」
地元の高校生による合同文化祭「ヨコハマ TEENS PARTY」が開かれたのは、その約半年後の2019年4月。約1200人を動員する盛況ぶりで、前回記事でも触れたとおり、高校生の街に対する愛着は深まっていった。
関連記事:高校生×都市#02「高校生は街でイベントを開くと なぜ毎日が楽しくなるのか」
「応援したい」を受け止められる街に
では、その愛着は、大人になってからのその街との関わり方に、どう影響していくのだろうか。イベントに関わった高校生に尋ねると、「大人になってみないと分からないけど」とは言いつつも、興味深い答えを返してくれた。
「大学生になっても、こういうイベントがあれば手伝いに来たい。自分たちが楽しんだような体験を色んな人にしてもらいたいし、大人になってからも高校生を応援すると思います」
「ここに自分の子どもを連れて来て、楽しく過ごせたら良いですね。買い物するついでに、自分がイベントをやった思い出を、自慢したくなるかもしれない」
長期的に街や商業を活性化させていく、「布石」にはなっているようだ。
ただ、次のような声もあった。
「愛着が湧いた街だからこそ、楽しかったところが変わってしまったら、寂しさも大きくなるかも」
「自分がいくら応援したい、関わりたいと思っても、街を良くするって、ほんの数人ではどうにもならないと思うんですよ。だから将来も魅力があって、みんなで楽しめる場であるように、街にも頑張っていてほしい」
いまの高校生は、インターネットが当たり前に存在する世界で育ってきた「Z世代」。さまざまな情報に触れることができ、仕事や暮らし方の選択肢も広がっている。そんな彼らが将来、愛着を持った街に「関わりたい」「応援したい」と思った時、街はそれを十分に受け止めることができるだろうか。
横浜西口エリアマネジメントの石幡勝事務局長が、高校生の持つポテンシャルを目の当たりにし、言い聞かせるように話した。
「彼らをがっかりさせない、魅力ある街にしていかなきゃいけない。そのために、街を進化させていくことが、僕ら大人たちの義務なんだろうな」
街にとって、街を舞台に活動する高校生は、将来への期待をかけたくなる存在。だとすれば、肝心の街そのものが10年後20年後も魅力的であり続けることが大切だ。今の「高校生との関係づくり」と、継続的な「まちの魅力づくり」。その両方を大事にしてこそ、高校生との長期的な「共創関係」は実を結びやすくなる。
(了)
<文、写真:谷明洋>
【都市科学メモ】
【関連リンク】
横浜西口エリアマネジメント
都市を科学する〜高校生編#01〜なぜ高校生は街でイベントを開くと毎日が楽しくなるのか?
「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
アーバン・サイエンス・ラボ記事一覧
「高校生編」では、「高校生が都市と関わることは、どのような価値を生み出すだろうか?」という問いを立て、「高校生」と「都市」の双方にとっての価値を整理しながら、「共創関係」を生み出すヒントをさぐっていきます。
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谷 明洋(Akihiro Tani) アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/宇宙と星空の案内人 1980年静岡市生まれ。天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。「科学」して「伝える」活動を、「都市」をテーマに実践してます。新たな「問い」や「視点」との出合いが楽しみ。個人活動で「宇宙と星空の案内人」「私たちと地球のお話(出前授業)」などもやっています。 |