update

高校生×都市
#02
なぜ高校生は街でイベントを開くと
毎日が楽しくなるのか?

 

学校の枠を超えて「都市」を舞台に活動することは、「高校生」にとってどんな価値になるだろうか。

高校生と都市の共創関係を考える「都市を科学する〜高校生編」。第2回は、横浜駅近くの広場で地元高校生有志が開いた「ヨコハマ TEENS PARTY」を事例に、高校生の側から見た「街の価値」を、関わった高校生の声を交えて整理する。

 

高校生にとって、街で活動する価値は?

「学校とは違う友達ができました」
「“お客さん側”から“街の側”に回れた」
「通学する街に、愛着がわきました」

 

 

はじまりは、「いろんな高校と仲良くなりたい」

横浜の街なかの広場で2019年4月に、複数の高校が合同で企画・実施した「ヨコハマ TEENS PARTY」。発端になったのは、地元に通う高校生のこんな思いだった。

「この街には高校がたくさんあって、いろんな高校生が行き来しているのに、お互いを知らない。それぞれの高校に友達ができれば、街をもっと身近に、楽しく感じられるかもしれない」

言い出したのは、横浜駅からほど近い平沼高校に通う星野拓実さん。同じ高校の生徒と6人で、周辺市街地の活性化や賑わいづくりに取り組む「横浜西口エリアマネジメント」組織の活動に、若者目線を盛り込むために関わっていた。

横浜西口エリアは、高校生にとっては学校までの通学路であり、商業施設が並ぶ街でもある。ただ、大人向けの店舗が多いことに加え、自宅から電車で30分以上かけて通学する生徒も多く、特に入学したばかりの1年生にとっては、あまり馴染みやすい場所ではなかった。そんな街を高校生にも楽しい場所にしようと考えて生まれたのが、「友達をたくさんつくって、街を楽しもう」という発想。イベントを実施する半年ほど前のことだった。

飲食店や商業施設が立ち並ぶ横浜駅西口周辺は、大人に交じり多くの高校生が行き来する

 

街で仲間と出会い、存在を感じる

高校生が自分たちを表現しながら交流し、お互いを知り合える場をつくろう−−。そんなイベントの企画案を作り、近くにある翠嵐高校の生徒を勧誘。合同文化祭「ヨコハマ TEENS PARTY」の実行委員会を有志で立ち上げた。学校が異なり、会って話し合えるのは多くても週2回。それでもLINEツールなどでこまめに連絡をとりながら、急ピッチで準備を進めていった。

「翠嵐高校の人たちは、校風も考え方もぜんぜん違って、何ていうか、いい意味で“おかしい”んですよ。同じものをつくっていく中で、僕らが思いつかない『そんな目線があるんだ』という意見を出してくるし、刺激になって楽しかったですね」(星野さん)

ヨコハマ TEENS PARTY実行委員会の打ち合わせの様子。平沼高と翠嵐高の生徒が協力しながら準備を進めた

 

実行委員会が準備段階から実現していた「お互いを知り合う」は、「ヨコハマ TEENS PARTY」の当日、出演者や来場者にも波及。両校の軽音部や、全国レベルで活躍する平沼高のダンス部をはじめとする出演者たちが、刺激し合っていた。

「違う高校の同じ軽音部に友だちができました」

「平沼高校のダンス部は、格が違った」

「翠嵐高校の最後に出てきたバンドの楽曲的センスとか、全体のバランスとか、参考になる所が多くてとてもいい刺激になりました。今まで見た高校生バンドの中で、1番うまかった」

学校内とは異なる、同年代との出会い。友達が増えることもあるだろうし、たとえ一期一会であっても、刺激し、共感し合える同年代の「仲間」が同じ街にいることは、確かに感じられた。

学校の枠を超え、同年代の“仲間”で楽しみながら刺激し合う(星野さん撮影)

 

お客さんの側から、街の側へ

街を舞台に活動することの「高校生にとっての価値」で、もう一つ考えたいのは、社会や大人との接点が生まれることについてだ。イベント後の実行委員から、興味深い感想があった。

「高校生でも街でイベントができると知って、街の見方が少し変わった」

「横浜という街の“お客さん”でしかなかった自分たちが、今回は“街の側の一部”になれた気がした」

多くの高校生にとって、街は、過ごしたり、ものを買ったり、どちらかと言えば「受け身」になる場所だ。その認識がイベントを開くことで、「自分たちから、何かを企画し、提供することもできる」と変わっていった。

「ヨコハマ TEENS PARTY」の会場を下見する実行委員会のメンバー

 

晴天にも恵まれ、結果として延べ約1200人もの聴衆を動員した「ヨコハマ TEENS PARTY」。街の人に向けて公演するのは、計100人以上にもなる軽音やダンスの出演者も、ほとんどが初めてだった。

「学校外や通行人の方に足を止めて見てもらえたのが、とても嬉しかった」

「思った以上にお客さんが来てくれて、私たちもすごく楽しめたし、引退前ラストのイベントとしてすごく思い出になりました」

学校外の人が行き交う街でのパフォーマンスは、新鮮な挑戦であり、喜びでもある(星野さん撮影)

 

学校の恒例行事のような「安心感」や「成功イメージ」を得にくい状況だからこその緊張感や達成感が、あった。そして、街の「お客さん側」ではなく「ホスト側」に回る喜びを実感した。

「軽音やダンスは“学校の中だけではもったいない”、って学校の文化祭で思ったんですよ。街の人に見てもらえれば、やっている側の励みにもなるし、学生が頑張る姿から大人に何かを感じてもらえるかもしれない。だから当日、出演者も通りがかりの人も含めてみんな笑顔になってくれたのが、“街そのものが青春している”ように感じられて、本当に嬉しかったです」(星野さん)

引退が近い3年生にとっては特に、通学した街でのパフォーマンスが大きな思い出になった

 

街に愛着を持てる価値

街が活動の舞台となることで、高校生は「たくさんの仲間がいる実感」「主体的なチャレンジの機会」「街の一員として“ホスト”の側に回る経験」などを得ることができる。結果として、街への愛着を深めることにつながっていく。高校生の立場から考えると、「ヨコハマ TEENS PARTY」の事例はそんなこと示唆していると言えそうだ。

では、通学する街へ愛着を持てることは、高校生にとってどんな価値になるのだろう?

星野さんが、笑顔に実感を込めて語ってくれた。

「その街で過ごす時間が、圧倒的に増えると思います。だって、友達がいるし、楽しいこともありそうじゃないですか。用がなくても『なんとなく、遊びに行こう』ってなる。僕たちは、そういう街があること自体が嬉しいし、学校の近くがそういう街なら、毎日がもっと楽しくなります」

会場となったniigo広場でイベントを振り返る星野さん。学校行事の代休に、ちょうど街に遊びに来ていたところで話を聞かせてくれた

(了)
<文、写真:谷明洋>

 

【都市科学メモ】

※次回は「都市」の側から、高校生が都市で活動することの意義を考えます。

 

「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
アーバン・サイエンス・ラボ記事一覧

「高校生編」では、「高校生が都市と関わることは、どのような価値を生み出すだろうか?」という問いを立て、「高校生」と「都市」の双方にとっての価値を整理しながら、「共創関係」を生み出すヒントをさぐっていきます。
「都市を科学する〜高校生編〜」記事一覧