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都市科学概論
#04
人々の“生態系”と
願いや希望をさぐる

 

建築の形や機能から、
人の「願い」を読み解く。
関わる人たちの役割から、
都市の「生態系」を紐解く。
「都市を科学する」とは、
人々の営みをさぐることだ。

 

「都市を科学する」意味はなんだろう? どんな気付きや発見が得られるのだろうか?

都市科学概論の第3回までで整理した、

  1. 科学する=さぐる・分かること。工学(=つくる)と異なるプロセス
  2. 都市=規模の大小にかかわらず、人が集まり関わり合って生活しているところ
  3. 方法論=テーマ(小屋、スタジアムなど)を定めて事例集め、意味付けとグループ化によって、テーマと都市の関係を整理する

のプロセスの先にある、さらなる整理と、考察について考えてみたい。

 

複雑な「生態系」や、人々の「願い」をさぐる

上記の方法を、いくつかのテーマで試してみたところ、大きく2つの考察の方向が見つかった。

ひとつは、そのテーマを通じて都市に関わる人たちの、「関係性」を把握していくこと。

もうひとつは、テーマを切り口に、都市の人たちの社会への「願い」とその「背景」をさぐることだ。

 

前者は、人々の複雑な“生態系”を見ていくことで、世界観を面的に広げていく感覚。

後者は、建築を切り口とした“文化人類学”のように、深く洞察していく感覚がある。

順に見ていこう。

 

複雑系の理解

都市の人々の“生態系”は、多くの人が関わる施設などをテーマとして中心に据えることで見えてくる。

テーマとして分かりやすいのは、「スタジアム」だ。

スタジアムとその周辺の都市で起こるさまざまな現象、取り組み、イベントなどを整理した上で、スタジアムが生み出している多様な価値や、そのための必要素同士の相関関係を考えていく。

そこにある因果関係や波及効果を、ひたすら挙げて、つないでいくイメージだ。

「スタジアムが都市に果たす役割」と関連要素のつながり。黄色いボックスは事業としてアクセスできることを示している

このように整理することで、たとえば右下の「企画、演出」から、「野球の楽しみ方を多様化させる」ことによって、「観客層を多様化させる」ことができ、「より多様な人にスタジアムでの時間を共有してもらう」ことによって、「スタジアムのシンボル度」が上がり、「チームの人気」がさらに高まり……などと考えることができる。

スタジアムを通じて、都市のどんな未来をつくることができるのか、そのために誰がどこからアプローチするのか、目の前にあるスタジアムや自分が置かれている立場から何ができるのか。さまざまな問いを立てることができる。

 

スタジアムのほか、「実証実験」や「高校生」といったソフトなものをテーマに据えても面白い。

まちの将来のために高校生に働きかけるならば、「高校生の街への愛着を醸成する」だけでなく、「将来も街が魅力的であり続けるよう努力する」ことも重要だと整理できる

 

ステークホルダーが多岐にわたる都市を、複雑さを残したまま俯瞰的に把握する。

即効性がありそうなポイントや、持続性を高めそうな循環を探すヒントになる。

いま取り組むアクションと、つくりたい未来を、呼応させながら考えていくことができる。

 

「願い」さらにはその「背景」に迫る

都市の人たちの「願い」やその「背景」は、階層を深く掘り下げていくことで見えてくる。

“生態系”を面的に広げて理解していくのは、考察の方向軸が縦横で異なる。

 

小屋のようなシンプルな建築をテーマにすると、「願い」への洞察がしやすい。

 

建築には、「形」があり、果たしている「機能」がある。

その「機能」が、都市の人に求められているものだとしたら、そこには「願い」や「欲求」がある。

さらにその「願い」が生まれてきた「背景」を考えると、現代の都市がどのようなもので、建築やまちづくりが応えるべきことのヒントになる。

どんな小屋が、なぜほしいのか? さまざまな事例から、「希望」や「社会背景」を仮説としてさぐっていくことができる

 

「願い」やその「背景」が見えてきたら、切り口にしたテーマとは異なるハードやソフトで応えていくこともできるはずだ。

 

スタジアムのような複合的な施設でも、機能をひとつずつ抽出することで同じように考えることができる。

 

そして、階層を行き来しながら背景を探っていくこの方法は、筆者の恋愛感情の分析でも応用することができた。

完全に余談になるが、考察方法の汎用性の高さを示すものとして、記すことにする。

いろいろな「小屋の形」を眺めながら「機能」→「願い」→「背景」と掘り下げていったのと、考え方は同じ。

これまでに心が動いた「異性の存在」を列挙し、「その人が持つ存在感」→「自分自身の願い・欲求」→「その願い・欲求が生まれた深層心理」と掘り下げた。

詳しい内容は恥ずかしいので割愛するが、結果として、自分の感情が反応する異性の「存在感」にはいくつかの要素があること、要素ごとに異なる「願い・欲求」が対応していること、その「深層心理」の方向性が「自分自身の欠乏感を埋める」と「もっと健全で純粋に楽しい」の2つに大別できることがクリアになった。

恋愛感情を科学した例(実際はひとりが複数要素を持っていたりして、もっと複雑です)

そして、この考察を踏まえることによって、後者の方向性を大切にしながら関係をつくるように、自分の行動を変えていくことができた。

 

ともあれ同じように、小屋をはじめとする様々なものから、都市の人の「願い」や時には「背景」までをさぐることで、何にどう応えていくのかを考えられると思うのだ。

 

都市の人々の営みに、広く、深く、思いを馳せる

視野を広げる「“生態系”の把握」と、深く掘り下げる「願いや背景の洞察」。

横と縦の2つの考察はいずれも、都市の人へと興味が向いている。

「都市」や「科学」という響きには、巨大で無機質な印象があるかもしれないけれど。

「都市を科学する」とは、人々の営みに思いを馳せ、仮説として見える化していくことなのだ。

そうして生まれた新たな仮説が、都市をつくったり、更新したりするヒントになるはずだ。

(了)
<文、資料:谷明洋>

 

「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。
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谷 明洋(Akihiro Tani)
アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/宇宙と星空の案内人
1980年静岡市生まれ。天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。「科学」して「伝える」活動を、「都市」をテーマに実践してます。新たな「問い」や「視点」との出合いが楽しみ。個人活動で「宇宙と星空の案内人」「私たちと地球のお話(出前授業)」などもやっています。