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建築家の職能
#02(公開研究会)
新しい肩書きを
つけてみる

 

オンデザインの建築家が
担ってきた役割や機能を
あらためて言語化してみます

 

公開研究会のワークショップで「肩書き」を考える

建築家は、社会や都市において、どんな「役割」や「機能」を担うことができるのだろう?

リサーチの手始めに、オンデザインの建築家たちを集めた公開研究会を行った。簡易ワークショップを行い、自分たちがやっていること・できることを少し具体的にイメージさせる「肩書き」「役割名」「機能名」を考えてもらった。

 

【実施内容】
日時:2021年7月
場所:オンデザインのオンライン会議
参加者:46名
方法:4〜5人のグループでワークシートを活用し、自分たちの機能や役割を伝えるための「肩書き」「役割名」「機能名」を考える

公開研究会で活用した簡易ワークシート

 

ワークショップの結果、建築家の機能や役割を現す30以上の表現が集まった。

「人をつなぐ仲介人」「超DIYer」「クラブのチーママ」など、機能や役割を具体的に説明するものからユニークなメタファーで言い表したものまで多岐に渡った。

本記事では、それらの表現を観点別に紹介する。

オンラインでの公開研究会の様子

 

「家をつくる楽しさを共有する人」

まず目についたのは、住宅を設計するプロセスでの、施主との関係性や立ち位置を言葉にしたものだ。

「つくる楽しさを共有する人」

建築家は「施主の希望を聞いて形にする」立ち位置なのだけど、そのやり取りは一度や二度ではない。建築家の提案によってお施主さんのイメージが膨らみ、「もっとこうしたら楽しそう」「だとすれば、こんな形も」というクリエイティブな対話が生まれる。建築家は、そうしたプロセス自体もお施主さんにとって価値あるものにしながら、希望を一緒に実現していく。

このほか、「一緒につくる」というニュアンスが込められた類似表現に、「話をよく聞き、何を欲しているか一緒に考える人」「暮らしの世界観を一緒につくるストーリーメーカー」などがあった。

また、「つくる楽しさ」に着目したものとしては、イベントや出前授業でワークショップをおこなっている建築家の振る舞いにフォーカスしたものもあった。

「空間づくりの楽しさを伝える人」

オンデザインは、イベントや出前授業で「模型づくりワークショップ」をやっている。施主だけでなく、子供から大人まで幅広い人に対して「空間づくりの楽しさを伝える人」になれるのではないか。

建築模型を囲みながらの対話は「家をつくる楽しさ」を共有する時間でもある

 

「ガジェット系男子」「超DIYer」「何でも屋」…

個々のプロジェクト経験から言語化された表現からは、多彩なスキルを状況やニーズに応じて柔軟に発揮する建築家の特性が浮かび上がった。

「ガジェット系男子」

空間や環境に関する設備機器を扱い、適切な空間構成をプロデュースする(事務所の最適な空調設定を調査・実践する社内プロジェクトにて)。

「アートディレクター」

都市空間の見えていないモノ・コトを、アートによって見える化するプロジェクトに取り組んだ。都市の価値を再発見し、様々な文脈をつなぎ、都市をめぐるルートを設計することにより、新たな視点を提供した。視点が変われば、都市空間の価値が変わる。何かを作り直したわけではないが、「リノベーター」でもあった。

「超DIYer」

空間の設計から制作・調整までを一気通貫した、レベルの高いDIYになった(お施主さんの希望を、実際につくりながら明確にしていく、店舗リノベーションプロジェクトにて)。

プロジェクトに特有な建築家の役割を表したものは、ほかにも「現在地の探求者」「肩書き創造家」「暮らしプロフェッショナル」「何でも屋」「調和人」などがあった。

端材でDIYした家具がならぶ「水谷基地」のプロジェクト

 

地域の人たちの「コーディネーター」「応援者」

まちづくりや公共施設のプロジェクトに関しては、さまざまな人との関係をつくっていく立ち位置を言い表したものが多かった。

「まちづくり伝道者」

これまで建築は設計指示を出すような上流の役割だったが、いまは現場から全体統括まで、ネットワーク型で業務を縦に横断している(エリアマネジメントのプロジェクトにて)。

「情熱発掘応援団」

まちに対する情熱を持った地元の人々を探して、後押ししたり、活躍の場をつくったりする。まちの人と同じくらいの熱量を持ちながら、必要な気遣いや気配りをする「応援団」のような立ち位置(地域拠点の運営プロジェクトにて)。

「地域巻き込み型バディ」

初めての土地に行っても、強靭なメンタルや、土地のコトを知る力、馴染み力などを発揮し、地域の人を巻き込んで一緒にコト・モノをつくる。

類似のものとして、「人をつなぐ仲介人」「まちのコーディネーター」「地域巻き込み型バディ」「技術者と一般の人の橋渡し屋さん」「コミュニケーター」などがあった。

まちに入り込み、まちのいろいろな人たちをつないでコミュニケーションをする場面も多い

 

未来を見る・見せる人

関わる人が多いプロジェクトにおいては特に、「こんな未来をつくれたら良いな」というビジョンを明確にする役割が重要なようだった。

「ビジョンのカウンセラー」

まちの人たちが思い描く風景を引き出す。その人が気付いていないことまで深掘りし、他の人につなげながら実現していく

「まちの人がやりたいことの翻訳家・実現家」

まちの人がやってみたいことを、まずイメージで具現化し、それを実現していく。未来的な話をする時に必要。

「企業と地域を繋げるビジョン調整職人」「預言者(未来を見る人)」「見える化マン」「可視化係」「共通理解をつくる人」などからも、イメージを見える化して共通理解をつくることの重要性が読み取れた。

横浜スタジアムの未来を考えたイメージ図。ビジョンがイメージ化されることで、多くの人の共通理解となる

 

建築家とは「システム」である

このようにさまざまな能力を持ち合わせた建築家を、「システム」と捉える考え方も。

「人や集団の潜在的イメージを実現化するシステム」

あらゆるスケールを横断して思考できるスキルで、頼まれていることや、時には頼まれていないこと(でも社会に必要とされていること)を実現する。

 

例えるなら「花屋」「キャバ嬢」「琵琶法師」

ユニークな比喩で、建築家の立ち位置や振る舞いを言い表しているものもあった。

「キャバ嬢」

対話や相談の相手となる力が必要で、クライアントによってそのやり方も変わってくる。「お客さん第一」を前提に、「その時間を一緒にどう楽しめるか」を考えている。雰囲気を大事にしながら、柔軟に対応して、深いコミュニケーションを取っていくあたりは、もしかするとキャバ嬢に通ずるのかもしれない。

「花屋」

話を聞いて、お客さんが想像し得なかった視点から新たな提案をする。いろいろな“引き出し”を組み合わせ、期待以上のものを返したい。

ほかにも「クラブのチーママ」「琵琶法師」「アスリート」「まちのヒロイン」などの表現があった。

 

「役割」や「機能」を言葉にする

このように、オンデザインでのワークショップでは建築家の「役割」や「機能」あるいは「存在感」のようなものが「言語化」され、建築家の立ち位置や可能性を再確認することができた。

きょうの話を聞いていて、建築家の変遷は「アイドル」とも似ているなぁ、と。

昔のアイドルは、歌とダンスがうまくて可愛いというものでしたが、近年はバラエティで性格を見せたり対面の握手会でコミュニケーション力したりして、応援やファンを獲得しています。建築も、設計だけが求められる時代ではないんだなと思いました(ワークショップ終了後の感想より)。

これらの情報をもとに、次回以降は具体的なプロジェクトや人物にフォーカスするケーススタディによって、建築家の「役割」や「機能」のさらなる整理を進めていきたい。

(文:谷明洋)

 

「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
アーバン・サイエンス・ラボ記事一覧

「建築家編」は、おもにオンデザインのプロジェクトや建築家をケーススタディとして、建築家が都市で担っている「機能」や「役割」を言語化しながら整理していきます。
「都市を科学する〜建築家編〜」記事一覧