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建築家の職能
#01(問い)
建築家の
役割や機能は?

 

建築家は
社会や都市において
どんな役割や機能を
果たし得るのだろうか

 

建築家は何をする人だろう?

「建築家」という言葉からは、どんなイメージが思い浮かぶだろうか?

どんな仕事をする人だろう?

どんな能力を持つ人だろう?

どんな価値を生み出す人だろう?

 

デジタル大辞泉を引いてみれば、「建築家」は「​​建物の設計や工事の監理などを職業とする人」とある。

だが現実社会の建築家たちの仕事は、明らかにその範疇を超えている。

 

「幸せな時間と空間をつくる」ために、いろいろなプロセスがある

建築家の仕事はなぜ、「建物をつくる」という範疇を超えていくのだろうか?

それはおそらく、「建物をつくる」という行為の上位に、「人が幸せに過ごせる時間と空間をつくる」という目的があるからだろう。

「建物をつくる」ことは、そのための大切な手段のひとつではあるけれど。

時にそれだけでは不十分で、新しい時代に合ったライフスタイルを考えたり、空間を活かす時間の使い方も含めてデザインしたり、地域の人たちに空間への親しみや愛着を持ってもらったり、などといったプロセスが必要になることがあるのだ。

だから建築家たちは、自ら二拠点生活を試してみたり、まちに住み着いて地域の良さを探求したり、未来像を分かりやすい絵で表現したり、屋外空間で地元の人が活躍できるイベントを企画運営したり、と「建物をつくる」に限らない、いろいろなことに取り組んでいるのだ。

 

プロセスにある「機能」や「役割」を切り出す

それらはいずれも最終的には、「人が幸せに過ごせる時間と空間をつくる」ことにつながっていくのだけれど。

ひとつひとつのプロセスをあらためて切り出してみると、「建築家」のイメージを広げるような「機能」や「役割」が浮かび上がってはこないだろうか。

たとえば先に挙げたケースなら、建築家たちは時間と空間をつくるプロセスの中で一時的に、「ライフスタイル研究家」「地域のディープな取材者」「未来のビジョンを可視化する係」「地元クリエイターのプロデューサー」などの役割を担っていると思うのだ。

こうして言葉にすることで、「建物をつくる」の範疇を超えた建築家の人物像が、少し鮮明になってくるはずだ。

 
建築家の能力が、社会でもっと活かされるために

建築家の「機能」や「役割」をあらためて言語化するというのは、社会の課題やニーズが多様化する中で、建築家の「職能」をあらためて見つめ直すことなのかもしれない。

そこには、大きく2つの意味があると考えている。

 

ひとつは、応用の可能性が広がることだ。

建築家の多彩で創造的な「機能」や「役割」は、「建物や空間をつくる」ためのプロセスに限らず、社会のさまざまな場面やフィールドで活用でき、確かな価値を発揮できるのではないだろうか。

誰に相談したら良いのか分からない課題を抱えた人が、「これ、建物をつくる案件じゃないけど、建築家なら解決してくれるんじゃないか」と思う場面が、もっと増えても良いと思うのだ。

その可能性を広げるために、これまでは「建物や空間をつくるプロセス」として見過ごされがちだった場面のひとつひとつで、建築家がどんなことをやっていたのかを切り出してみたい。

 

これからの建築に求められる能力を、再認識するために

もうひとつは、建築で求められる能力を再認識できることだ。

「人が幸せに過ごせる時間と空間をつくる」ためのアプローチや、そのために必要な建築家の「機能」「役割」を整理することは、これからの建築にどんな「職能」を複合して取り組んでいくのかを考えることにつながるのではないだろうか。

若い建築家が「次はこの職能を手に入れよう」などと成長戦略を描いたり、建築以外の立場で「時間と空間をつくる」人たちが建築家から何かを学んだりするためのヒントにもなるかもしれない。

たとえば、コロナ禍での屋外空間活用のプロデュースは、建築家のどんな「職能」によるものだろうか?

 

オンデザインをケーススタディとして

この連載は、具体的なプロジェクトなどの事例から、建築家の「機能」や「役割」を言葉にし、その機能や役割を発揮するために重要な「スキル」「特性」「素養」と、その機能や役割のさらなる「応用の可能性」を考察する、という方法で進めたい。

思考プロセスのイメージ。具体事例から「職能」や「スキル」と、応用の可能性を考える

 

ケーススタディとして、オンデザインの建築家やプロジェクトを中心に扱うけれど、オンデザインに限らず通ずるような内容や考え方の整理を目指す。

建築家とは、社会や都市において、どんな役目を果たすことができる人たちなのだろうか。

(文:谷明洋)

 

【都市科学メモ】

 

「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
アーバン・サイエンス・ラボ記事一覧

「建築家編」は、おもにオンデザインのプロジェクトや建築家をケーススタディとして、建築家が都市で担っている「機能」や「役割」を言語化しながら整理していきます。
「都市を科学する〜建築家編〜」記事一覧