update

半ドアライフ×都市
#04
inside→outdoor 2
リビングを外に持ち出す

「アウトドア」と「インドア」をあべこべにしてみたら、どんな“ゆらぎ”を感じ、どんな発見ができるだろうか? 全5回の連載、「半ドアライフ×都市」の4回目は、リビングを外に持ち出すことについて考察します。

 

外で過ごす人が増えることは、まちにとって良い効果をもたらします。そしてさらに、半ドアライフには、外で過ごす人を増やす効果があるように思うのです。

 

沖縄の離島、久米島で暮らすいしおです。家の中でアウトドア道具を使ったり、家の外でインドアの家具を使ったりして暮らす「半ドアライフ」を続けています。今回は、「アウトドアでインドアのようにくつろぐと何が起こるのか」ついて考えます。

 
野外でこたつにあたるおばあちゃん達

たとえば、僕が以前住んでいた隠岐の島では、毎年「産業文化祭」というお祭りがあります。地域の農産物や特産品が展示・販売されたり、芸能発表会があったり、イベント終了時には老若男女が夢中になる餅まきが行われたりする、ローカルな楽しいイベントです。

そこでは毎年、なんだかほっこりしてしまう光景が見られます。それは何かと言いますと。ある集落のおばあちゃん達が、ブルーシートを敷いて、こたつを用意し、ぬくぬくと温まるのです。こたつの上にはみかんも添えてあったりなんかして、集落のお友達と仲良さそうに過ごしています。

イメージ

その光景は、見ているこちらまで温かくなるような微笑ましいものでした。

 

ソファを持って旅する男性

またある人は、なんと室内用のソファを持って一人旅に出たことがあるそうです。理由を聞くと、「電車の待ち時間や車内は、座っている時間が長い。だから、ソファーでくつろげたらいいと思ったから」とのことでした。

イメージ

実際のところ移動はとても大変だったそうですが(笑)、駅のホームでソファーに腰掛けくつろぐ人を見たら、ちょっと笑ってしまいつつ「なんかいいな」と思ってしまうことでしょう。

 

「野点」もいいよね

野外でお茶をたてる「野点」という文化が日本にはあります。 「毛せん」と呼ばれるマットを敷き、室内でやるお茶会よりはちょっとカジュアルにお茶を楽しむのです。

和風アウトドア、といった感じですが、野点をしている風景を見ると、えもいわれぬ風情がありますよね。

 

野外でゲームに興じる姿も

たとえば、特に海外で多いですが、公園やカフェに地元の人たちが集まって、将棋やチェス、トランプで遊んでいるような光景を見かけたことはありませんか? あれも楽しそうでいいなと思うのです。

たとえばこんなのとか、

 

こんな感じの光景ですね。

 

あと見ていただきたいのが、この動画。昔のネスカフェのCMなのですが、この動画でいう1:10~1:13の間の一瞬が、最高にいいんです。

そりゃそうなるわな、っていう(笑)。

 

ちなみに、この連載を監修してくれているオンデザインの谷さんは、山の上に雀卓を持っていって、仲間と山頂で麻雀したそうです。なにそれ楽しそう。

南アルプス・塩見岳の山頂付近にて

 

人が外にいないと地域の魅力は伝わらない

ここまで、外で家のようにくつろぐ人たちの例を列挙してきました。ここからは、半ドアライフの都市における価値について解説していきたいと思います。

そもそもの前提として、「外にいる人は視認できる」ということについて触れておかなければなりません。当たり前のような話で恐縮ですが。

 

僕は以前、地域活性化で有名な海士町に住んでいました。小さい島ながらも元気で魅力あふれる人が多く、その取組のユニークさから島外から視察に来る人も絶えませんでした。ところで、視察にいらっしゃる方によく言われたことがあります。それは、「思ったより活気がないですね」と。こう言われるたびに残念で悔しい思いをしたのですが、その理由を考えてみた結果、わかりました。

外でイキイキとしている人の姿が見えないからです。元気で面白い人が島にはたくさんいるのに、その姿が町を歩いただけでは見えなかったのです。そのため、訪れる人に活気がない印象を与えていたのでした。

特に冬の時期は、みんな家にこもりがちです。寒いですから。そのため訪れる人には「寒村」というイメージを与えてしまいます。

人は外にいないと他の人からは見えない。外でくつろぐ人をふやすことは、地域の魅力や活力を伝える上でも重要なのです。

 

外でくつろぐ人の姿は心休まる景観になる

そして外で家のようにくつろぐ人が増えると、それが地域の美しくユニークな景観になります。

やっぱり僕ら人間は、自然や建築といった景観も良いですが、人の暮らしや営みが感じられるような景観が好きなんだと思います。そして、外で人が思い思いに過ごしているような光景は、それだけで素晴らしい景観になるのだと。

田んぼだけ見ても十分美しいですが、農作業したり休憩中に仲間と談笑したりしている人の姿をみたときに、より心が動かされます。

きれいに整備された公園も美しいですが、そこで本を読んだりボール遊びをしたり、ピクニックをしたりしておもいおもいに過ごす人の姿をみたときに、確実に琴線に触れる何かがあります。

 

景観に記憶や感情が刻まれ、情景となる

そして外で愉快に過ごした記憶や感情は、その景観に刻まれます。記憶や感情が景観と紐づくと、情景となるのです。

例えば僕にとっての半ドアライフの始まりは、友達と一緒に漁港で布団を敷いて寝たことでした。 静かな月夜に、あったかい布団にくるまって寝た思い出やその喜びは、今でも覚えています。そして僕はその漁港に訪れるたびに、その月夜のことを思い出します。その土地に思い出が鮮明に刻まれているのです。

ある人にとっては何の変哲もない公園でも、その場所はあなたがご飯を食べたり、お酒をのだり、時には寝っ転がったりして過ごした公園かもしれません。そしてあなたは、その公園に訪れると、その楽しい思い出がノスタルジックな感情とともに蘇るはずです。

外で家のようにくつろぐ人の姿を増やすことは、その都市の愛着を高めることにつながります。都市の中に、過去のあなたの残像を見つけることができるからです。

 

半ドアライフは外で過ごす人を増やす(かもしれない)

ここまで解説したように、外で過ごす人が増えることは、まちにとって良い効果をもたらします。そしてさらに、半ドアライフには、外で過ごす人を増やす効果があるように思うのです。

半ドアライフはいわゆるキャンプやピクニックと異なり、見ている人に刺激を与えます。「変わったことして楽しんでる人がいるな」と、記憶に残るのです。実際、この記事の冒頭に列挙した例を見て「面白い」と思ってくれた人がいたとしたら、それがまさに半ドアライフの価値だと思います。

そして受けた刺激に感化されて、「私も何かやってみたい」と(人によっては)思うかもしれません。僕が野外でこたつでぬくまるおばあちゃん達を見て刺激を受けたように。

実際に、僕がかつて仲間たちと楽しんでいた家のソファを野外に持ち出してダラける遊びは、今でもちょくちょく続いているそうです。

 
まとめ

外で家のようにくつろぐ半ドアライフの都市への価値や可能性をまとめると、次のように整理できます。

  1. 愛着の醸成効果:外で過ごすことにより都市が思い出の場となり、記憶から愛着へとつながる
  2. 地域ならではの景観形成効果:外で過ごす人自体が心休まる景観となる
  3. 波及効果:愉快な過ごし方が連鎖的に広がっていき、外で過ごす人が増える

このうち1の「愛着の醸成効果」や2の「地域ならではの景観形成効果」は、ピクニックやアウトドアを楽しんだり、農作業をしたりするのでも同様の効果があります。しかし3の「波及効果」は半ドアライフ特有です。

それはなぜでしょうか。半ドアライフは

  • 人に刺激を与えて
  • 誰にでもできて
  • 余白がある

からです。

たとえばキャンプは、「日常的にキャンプを楽しむ人」と「そうでない人」の境界が、ある程度しっかりと引かれています。キャンプに興味がない人にとっては、キャンプをしている風景は自分にとって無縁なものです。

ですが、半ドアライフの場合は違います。半ドアライフでは、誰かの室内での日常が外に持ち出されます。違和感だらけなので、どうしても目を引きます。そしてその日常は、あなたにとっても無縁ではありません。あなたにとっても、身近なものです。あなたが普段使っているものを使っているのですから。

そして家のものを外に持ち出してくつろぐ人は、そんなにはいません。何を持ち出したら楽しいかはまだまだ未開拓。手垢のついてない新鮮な遊びなんです。

家の外で、家の中のようにくつろぐ。そんなライフスタイルが当たり前になれば、今の都市の姿も大きく変わるかもしれません。

(了)
<文、写真:石坂 達>

 

【都市科学メモ】
実験:外で家のようにくつろぐ
結果:情景となる。活気が生まれる。人に刺激を与える
考察:半ドアライフならではの波及効果が存在する
転用:シビックプライドや愛着の醸成、地域の活気を「見せる」効果

 

石坂 達(いしお)
埼玉県朝霞市出身。東京農工大学農学部卒業後、ITメガベンチャーにて、教育・評価システムを中心に、ERPパッケージソフトの導入・保守コンサルタントとして勤務。2012年10月、まちづくりで有名な隠岐の島・海士町へ移住。株式会社巡の環にて、地域づくり・教育事業コーディネーターとして働く。2016年5月からは、沖縄県久米島町にて,地域おこし協力隊「島ぐらしコンシェルジュ」として活動。移住定住に関する相談窓口の立ち上げと運営システム設計、官民連携のまちづくり活動支援、地域おこし協力隊の採用支援などを行う。田舎を舞台に、変動の激しい時代でも「生きていける感」のある人を増やすこと、持たずにシェアで豊かな暮らしをつくることを目指し、合同会社PLUCKを起業。ソシオデザイン客員研究員・オンデザイン客員研究員。YOSOMON!パートナー。キャンプが好き。いしおのブログ

 

「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
アーバン・サイエンス・ラボ記事一覧

「半ドアライフ編」は、「アウトドアの道具をインドアで」「インドアの道具をアウトドアで」使うことにより、屋外・室内の当たり前を揺らがせます。それにより、インドア・アウトドアをメタ認知しつつ、人の生活や都市のあり方がどう変化しうるのか、それとも変化しないのか(可変性と普遍性)を探求します。
「都市を科学する〜半ドアライフ編〜」記事一覧