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半ドアライフ×都市
#01
中のモノを
外に持ち出す

「アウトドア」と「インドア」をあべこべにしてみたら、どんな“ゆらぎ”を感じ、どんな発見ができるだろうか? アーバンサイエンスラボの連載第7弾は「半ドアライフ」。沖縄県は久米島での暮らしを満喫する いしお が、客員研究員として実体験から考察します。

 

布団や漫画を持ち出たら、
新鮮な楽しさがありました。
アウトドアの“当たり前”を、
インドアの日常によって覆す。
その応用が、都市を考える
ヒントになると思うのです。

 

半ドアライフとは

はじめまして、いしおと申します。沖縄の離島、久米島という所で暮らしています。

突然ですが、みなさん、「半ドアライフ」って言葉、ご存知ですか?

……ご存知じゃないですよね。だって僕が考えた造語ですから(なんかいきなりすいません)。

半ドアライフとは、「アウトドア」と「インドア」があべこべになった生活のことです。たとえば室内でアウトドア道具を使って暮らすとか、屋外でインドアな家具を持ち出して過ごすような感じ。

 

アウトドアのモノをインドアで、インドアのモノをアウトドアで、半分ずつ使うような感じだから、「半ドア」。

外で楽しんでることを家でやってみる。家の中の暮らしを外に持ち出してみる。そうすると、なんといいますか、いつも当たり前だと思っていた色んなことが、ちょっとだけ「ゆらぐ」。その「ゆらぎ」の中に、なにかひらめきの片鱗というか、良いニオイというか、そんなものがある気がするんです。

 

そしてその「ゆらぎ」の中に見えるなにかに、「都市」っていう、僕らの生活の基盤として当たり前にあるモノを考え直す上でのヒントがあるんじゃないか。そんなことを思ってます。

この連載では、僕が「半ドアライフ」というライフスタイルをおくりながら、見えたり見えなかったりしたものを紹介していければと思っております。

 

はじまりは、漁港で布団

半ドアライフのはじまりは、とある思いつきでした。もう5年ほど前の話です。

当時僕は、島根県は隠岐諸島の1つ、海士町(あまちょう)という町の、漁港の近くに暮らしていました。

ある月のきれいな秋の夜のことです。僕は、年の近い男友達と2人で、家で酒を飲んでいました。ふと夜空を見に外に出たのです。ほろ酔い気分で、「あー、とてもきれいだ……良い夜だ……」と、月を見上げながら、二人してつぶやいておりました。

ところで、月を見上げるときって、顔を上に向けるので、首にけっこう負担がかかるじゃないですか。だから、一番楽な姿勢ってなにかでいうと、ごろんと寝っ転がった体勢。でも、秋なので、地面にそのまま寝るにはちょっと寒い。そこで僕らはひらめきました。

「そうだ、布団をひっぱりだして、寝れば良いんだ」

酔った勢いで僕の家から布団を2組ひっぱりだしてきて、アスファルトの上に敷き、布団に入る。

これがもう、幸せの極み。虫の音を遠くに聴きながら、美しい月を目線の先に眺める。そして、ぬくぬくと布団にくるまっているわけです。

二人して、「くはっ……! 最高だっ……!!」「死ぬには良い日だ……」などとのたまっていました。(ちなみに、後ほど釣りに来た車にちょっと轢かれそうになったのは内緒です)

そこから、家の中のモノを外に持ち出したり、逆に家の外で使うモノを中で使ってみたりすると、楽しさがほとばしるのでは、という「半ドアライフ」のアイデアが生まれたのです。

 

ソファを外に持ち出す

たとえば、友達とキャンプをして遊んだときの話。友達の軽トラにソファとか家具を積み込んで、ゴザをしいて、こんな感じでセッティングしてました。

あらためて絵面を見るとちょっとしょぼいのですが(笑)、当時はこれ、本当に最高だったんです。バーベキューをやりながら、ゴザでゴロゴロしたり、ソファでゴロゴロしたり。途中雨が降ったりもしましたが、思いのほか最後まで快適に過ごせました。

 

なにが面白くさせるのか

この「中のモノを外に持ち出す」ことの、なにが面白いのか、ちょっと考えてみました。

 

中のモノは「快適性」を重視して作られている

だいたい、室内のモノって、こんな特徴があると思うんです。

・快適性を追求している
・持ち運ぶには重い
・雨や汚れに弱い

一方、野外で使うモノは、こんな感じの特徴があります。

・快適性は室内で使うモノに劣る
・持ち運び用に軽くできている
・雨や汚れに強い

だから、雨や汚れ、持ち運びの面倒くささをクリアすれば、野外でも室内のモノを使ったほうが快適。寝袋とマットで寝るより布団のほうが眠りやすいですし、パイプ製の折りたたみベンチよりも、ふかふかのソファのほうが座り心地がいいですよね。今、グランピング(グラマラスなキャンピング)って流行ってますけど、グランピングも半ドアライフと同じ考えだと思います。

 

非日常の日常を、日常をもって非日常化する

これ、なにをいっているのかわからないと思うのですが(笑)。つまり、「アウトドア(非日常)の当たり前・既定路線(日常)を、インドア生活から持ち出すなにか(日常)をもって非日常化する」という感じです。もうちょっと詳しく説明しますね。

アウトドアのなにが楽しいかって、やっぱり、自然の中、日常と違う体験ができることだと思います。つまり、「非日常」を楽しむのが、アウトドア。

だけど、アウトドアにも、当たり前というか、既定路線というか、そんなものが出てくるわけです。だいたいこんな感じ。

・寝るのはテントと寝袋とマット
・遊びはフリスビーとか焚き火とか
・食べるのはカレーとかBBQとか

 どれも最高に楽しいし僕は何回やっても好きなのですが、やっぱり慣れが生じるといいますか、真新しさは無くなってきますよね。

だから、アウトドアの既定路線を、「家の中の日常的に使っているモノ(日常)」をもって揺るがしてあげる(非日常化)んです。そうすると、また新鮮な楽しさが湧いてくる。

 

たとえば、冬のアウトドアで、友人達と一緒に普段はアウトドアでやらないような「熱燗とおでん」を楽しむ会を開いたのですが、これはなかなかどうして最高でした。

 

あとは、アウトドアでひたすらゴロゴロしながら「ジョジョの奇妙な冒険」を読みまくる「ジョジョンピング」もやりました。家の中で友人と漫画を回し読みするのってすごい楽しいと思うのですが、それを外でやる感じ。まさに「最高に「ハイ!」ってやつ」でした。

 

応用してみる

「非日常の日常を、日常をもって非日常化する」。これって実は、今までもいろんな人が試してきたことです。

 

たとえば、音楽。次の動画を、ちょっと見てみてください。


Typewriter – Brandenburger Symphoniker – YouTube

オフィスワークの風景をユーモラスに表現した作品です。オーケストラの演奏は、とても非日常的な素晴らしい体験ですが、この曲はそれに「日常」を持ち込むことで、一度聴いたら忘れられないような印象を我々に与えてくれます。テーブルの上の小道具を揃えるあたり、ユーモアに富んでますよね。

 


Stomp Live – Part 1 – Brooms

普通、パーカッションの演奏といえば打楽器を用いますが、ストンプではデッキブラシとかマッチとか、そのへんにあるモノで演奏します。それがパフォーマンスとしての面白みを生んでいますよね。

 

マルセル・デュシャン「泉」(出典: Artpedia アートペディア / わかる、近代美術と現代美術)

僕は直接この作品を見たことないのですが、これが展示されている美術館に行くと、ガラスケースに覆われた便器を目撃することになるそうです。美術館という非日常を、便器という日常で揺るがした良い例だなと。

でも、アート作品を持ち出すとちょっと大げさに思えるかもしれませんが、半ドアライフの場合は、そんな難しいことはいりません。家具や家財道具を外に運び出して使うだけ、いつも家でやっていることを外でやるだけで楽しくなるんです。

たとえば、ある島にいった女子大生が、島で面白いモノを見つけたそうです。それは何かというと、外に置かれ物置として使われていた冷蔵庫でした。

こんな感じのゆるさで、ぜひ、色々なパターンをみなさんも考えて試してみてもらえればと思います。

 
次回は、「仕事環境」をアウトドアへ持ち出します

次回は、「仕事環境」というインドアを、アウトドアに持ち出すことを考えます。

「都市を科学する」で扱う「都市」は、いわば 「人が仕事をしやすくなるために、自然界と住み分けようとしている空間」とも言える気がしています。そこで敢えて、自然界に仕事環境を持ち出してみるとどうなるのか。今回のように「当たり前」を揺らがせることで、人にとって何が大事で、何はそれほど大事ではないのか、浮かび上がってくることをもとに考えてみたいと思います。

(了)
<文、写真:石坂 達>

 

【都市科学メモ】
実験:外に中のモノを持ち出す
結果:底抜けに楽しくなる
考察:非日常の日常を、日常をもって非日常化できる
応用:いつも家でやっていることを、外でやってみる。家の中にあるモノを、外に持ち出す。

 

石坂 達(いしお)
埼玉県朝霞市出身。東京農工大学農学部卒業後、ITメガベンチャーにて、教育・評価システムを中心に、ERPパッケージソフトの導入・保守コンサルタントとして勤務。2012年10月、まちづくりで有名な隠岐の島・海士町へ移住。株式会社巡の環にて、地域づくり・教育事業コーディネーターとして働く。2016年5月からは、沖縄県久米島町にて,地域おこし協力隊「島ぐらしコンシェルジュ」として活動。移住定住に関する相談窓口の立ち上げと運営システム設計、官民連携のまちづくり活動支援、地域おこし協力隊の採用支援などを行う。田舎を舞台に、変動の激しい時代でも「生きていける感」のある人を増やすこと、持たずにシェアで豊かな暮らしをつくることを目指し、合同会社PLUCKを起業。ソシオデザイン客員研究員・オンデザイン客員研究員。YOSOMON!パートナー。キャンプが好き。いしおのブログ

 

「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
アーバン・サイエンス・ラボ記事一覧

「半ドアライフ編」は、「アウトドアの道具をインドアで」「インドアの道具をアウトドアで」使うことにより、屋外・室内の当たり前を揺らがせます。それにより、インドア・アウトドアをメタ認知しつつ、人の生活や都市のあり方がどう変化しうるのか、それとも変化しないのか(可変性と普遍性)を探求します。
「都市を科学する〜半ドアライフ編〜」記事一覧