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空間再編の新前提
#03
空間・時間・意味を
再編集する問い

 

インターネットに接続した実空間は、どんな特性を持つのでしょうか? あらためて整理して、オンライン化を主体的・創造的に進めるための問いを考えます。

「空間」と、過ごす時間の「意味」が、無限の組み合わせを持つ。
=人が、実空間とオンライン上で、2つのアドレスを同時に持つ。

 

1つの部屋が、どこにでもなり得る

「今、どこにいる?」

誰かに、そう尋ねたとして。

以前は、答えから相手が何をしているのかも想像しやすかった。

「自宅」ならばプライベートや家事、「会社」なら仕事、「スポーツジム」なら運動の時間、「会社近くの居酒屋」なら同僚との親睦、ということになる。

人がいる「空間」が、過ごす時間の「意味」を限定していたのだ。

 

ところが、オンライン化やリモート化が進むと、この「空間」と「意味」の関係は無限の組み合わせを持つようになる。

冒頭の問いに「自宅」と返ってきても、会社のオンライン会議に参加中かもしれないし、ヨガのサークルでインストラクターとつないでいるかもしれないし、同僚とオンライン飲み会をしているかもしれない。

逆の考え方もできる。

個人的な話になるが、先日オンラインで結婚式を上げたところ、ゲストは首都圏だけでなく、故郷の静岡、赴任先の海外、あるいは休憩時間の勤務先、などからつないでくれた。物理的に異なる場所にいても、オンライン上ではみんな「結婚式会場」に集まっていた。

実空間では「自宅」に、オンライン上で「飲み会会場」に。写真:photoAC

 

人が、実空間とオンライン上で、2つのアドレスを同時に持つようになった、と考えても良いかもしれない。

冒頭の問いに対し、「身体は自宅にあって、意識はオンライン上の会議室に」「職場にいるけど、30分だけ結婚式場につないでる」などの答えが成立するのだ。

 

コロナ禍によって急加速した「オンライン化」によって、「空間」の捉え方が大きく変わりつつある。

それを踏まえると、どんな空間や場をつくることができるようになるのだろうか。

 

 

オンライン化した空間の特性を整理する

可能性を追求するために、オンライン化した空間の特性を整理してみたい。

例えば、高速インターネットが使い放題の部屋は、どんな特性を持つだろうか?

 

実装できる機能やコンテンツが無数

インターネットは、接続先の選択肢が無数にある。オンライン化できる部屋は、会議室にも、学校の教室にも、区役所にも、ヨガ教室にも、それこそ結婚式場にもなるのだ。コロナ禍によるコンテンツの多様化や、5G といった通信の大容量高速化、VRやARの発展なども考慮すると、インターネットを通じて部屋に実装できる機能は、質も選択肢も、増え続けていくだろう。

 

部屋に実装する機能を、簡単に切り替えられる

部屋の機能を、時間で簡単に切り替えることができるのも、オンライン化の特徴だ。接続先を変えるだけなので、大掛かりなモノの搬入出を伴わない。一つの部屋を、昼間は会議室、夕方はヨガ教室、夜は居酒屋として、簡単に切り替えながら使うことができる。

マットを敷いてインターネットを繋げば、キッチンは一時的にヨガ教室に切り替わる。写真:photoAC

 

握手や、食べ物のシェア、音楽セッションなどは難しい

ただし当然、実空間に集わないオンラインでは不可能なこともある。握手や柔道などの身体性を伴った接触、食べ物の共有は不可能。このほか、完全な同期が必要な音楽のセッションなど、「オンラインでも技術的にできないことはないかもしれないが、リアルの一体感とは異なる」ようなアクティビティは少なからずある。部屋をオンライン化しても、柔道場や名物料理店、ライブステージにすることは難しいのだ。

 

前後の時間、周辺の空間がない

オンライン上の場所には、一瞬でつながることができる。つまり、前後の時間をまったく別のことに自由に使うことができる。反面、たとえばイベント会場が近づきながら高鳴る気持ちを味わったり、会議の終了後に“オフレコ”で本音をのぞかせ合ったりするような時間をつくるには、ひと工夫が必要になる。

 

記録と共有、追体験の容易さ

オンライン上の出来事は、すべてデジタルデータ化されているので、そのまま記録して共有することができる。リアルな空間がそもそも存在しないので、実際の体験と、記録による追体験の差も小さい。たとえば、オンライン会議の画面収録はあとから確認しても、会議室での話し合いをカメラで映像化した場合に比べ、出席者と同じような空気感を味わいやすい。

 

空間ごと、つながる

オンライン結婚式で印象的だったのは、友人が過ごしている家庭の日常が、画面から見えてきたことだった。子供をあやしていたり、懐かしい幼なじみの親御さんが一緒に祝ってくれたりした。式場に人だけが集う式と異なり、「友人の家のリビング」という空間のひとつひとつが、結婚式場の一部になったような感覚だった。人と人だけでなく、空間と空間がつながるのは、オンラインの大きな特性だ。(プライベートを明確に切り分けたい会議などではマイナスにも働き得るが。)

実際のオンライン挙式の様子。参加者のリビングがまるごと結婚式会場になり、その家族が一緒に祝福してくれた

 
継続的なアップデートが必要

オンラインのツールやコンテンツは、常に発展し続けている。セキュリティ等の観点からも、継続的なアップデートの必要がある。それはアプリケーションなどのソフトだけでなく、使い手のリテラシー、さらにパソコン設備などのハード面にもおよび、時間や金銭、精神にコストが発生する。

 

オンライン化の特徴を整理すると、特に、多様な機能を容易に切り替えながら実装できることは、空間づくりの前提として大きな意味を持ちそうだ。「時間」と「意味」が無数の組み合わせを持つという感覚、つまり、現代建築で追求されてきた“空間の使い方の自由さ”や“タイムシェア”の感覚が、住居やオフィスなどにも広く浸透していく可能性がある。

オンライン化はこのほか、自分がいる空間ごと接続先に見せることができ、記録や時間差での追体験がしやすい。ただし、オンライン化が難しい機能もあるし、ある程度の頻度でアップデートしていく必要がある。

 

 

特性を踏まえ、新しい空間を創造するための問い

コロナの感染拡大が収束すれば、オンライン化は選択肢のひとつとなる。外出できずオンライン化「するしかなかった」非常事態対応と異なり、選択的に活用していくことができる。

また、もう少し中長期的な視点で考えれば、環境やライフスタイルから整えていくこともできる。自宅などの「今ある環境を前提に」進めた非常事態対応より、もっと自由に、創造的になれるはずだ。

 

それを踏まえると、たとえば前回記事で扱った「仕事のオンライン化」は、次のような問いを行き来することになる。

(もちろん「仕事」以外の、たとえば「学校」や「エンターテイメント」などの未来を考えるときも、同じように問いを行き来できる)

 

通常であれば、「3,どんな働き方を、したい(させたい)?」を考え、それに応じて「4,どんな機能を、どこに、どう実装するか」の設計に進めば良かった。

ただ、オンライン化で空間の使い方が変わっていくことを踏まえると、「2,どんな働き方が、考えられる?」という“そもそも”の部分、もしくは「1,どんな機能を実装することができる?」まで立ち返らないと、3を考えるための選択肢は揃わない。

その際にヒントとなるのが、「空間と意味の対応関係が複数になる」という前提や、先程整理した「オンライン化した空間の特性」だ。

 

あるいは「3,どんな働き方をしたい(させたい)?」を、これまでになかった多様な選択肢の中から考えるにあたっては、「5,大切にしたいことは何?」という問いかけも必要になるだろう。

生産性や効率性なのか、変化に対応できる柔軟性なのか、それとも将来に向けた成長や、ひとりひとりの幸福感なのか。理屈だけでは答えが出しにくく、これまでの常識に囚われすぎてもいけない、価値観への問いかけだ。

 

関連する問いがある分だけ、新しい創造の余白が多様に、たくさんあることを意味している。

ある程度決まった「③願い」を、すでにある選択肢を応用して、どう「④叶える」かの設計にとどまらない。

オンラインの使い方を考えて、「①機能」や「②選択肢」を新しく増やすことも、「③願い」や「⑤価値観」を更新していくこともできるのだ。

 

 

こうした、前提を変えながら問いを行き来する思考法自体は、決して新しいものではない。

テクノロジーを活かしたイノベーション創出に通ずるし、創造的な建築の設計でも、以前から繰り返されてきただろう。

その思考法が、社会の多様な場面で今まで以上に求められるのが、これからの世界ではないだろうか。

なぜならコロナ禍で、社会の多くの人がオンラインを体験し、働き方・暮らし方・生き方を更新するヒントや必要性、可能性を実感したからだ。

 

空間の捉え方が変わるという前提を踏まえ、問いを行き来しながら建築的に思考する。

それが、コロナ禍を「未来の課題の先取り」ととらえ、社会を創造的に更新していくことだと思うのだ。

 

※次回の記事では、具体的にどんな空間や場を設計することができるのか、考えます。

(つづく)

 

谷 明洋(Akihiro Tani)
アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/さとのば大学講師
天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。新たな「問い」や「視点」との出合いを楽しみに、「都市」を「科学」しています。