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屋上考現学
#02
屋上から“時間の移ろい”を考える

text :okujyou kougengaku photo:ai fukumori

 

ただ広い場所、乱雑に置かれた設備機器、
メンテナンスのための階段、落下防止のための柵……。
それが“屋上”の一般的なイメージ

つまり、“何もない空間”である。

そんな屋上も、
映画やドラマでは、恋する男女の告白シーンに使われたり、
追い詰められた犯人が自供するシーンに使われたりする。
またMVでは、
ミュージシャンの熱唱シーンの撮影に使われたり……。

スクリーン(画面)ごしに見る屋上は、
つねに僕たちの沸きでる思いを受け止めてくれる大切な存在のように感じる。

僕たちは何もないはずの“屋上”に惹かれ、
どこか見えない魅力に心地よさを感じてしまうときがある。
必要ではないけれど、あるとなぜかいい。 

 

そんな屋上の、まだ見ぬ可能性を探っていく。

 

 

「屋上考現学」は、屋上を取り巻くモノ、コトを様々な分野から深掘りし、新たなカルチャーを生み出すための研究活動記録である。メンバーは、松井勇介(オンデザイン/Beyond architecture編集部)、片山浩一(創造系不動産)、三上奈々(千葉大学博士前期課程)、中川晃太(土木設計/写真家)という業種は異なれど屋上に関心を寄せる4人。これまで注目されてこなかった「屋上」に対して、毎回さまざまな分野を切り口に現代(現在)をどのように捉えられるかを探求していく、座談会シリーズ企画である。

第2回となる今回は、“時間の移ろい”をテーマに赤崎雄大(rooftop floor ground)さんをゲストとしてお招きし、屋上から都市にまつわるあれこれを深掘りしていく。

テーマ
「屋上から“時間の移ろい”を考える」
@品川の屋上

 

 

屋上との出会い、タイムカクテルを始めるきっかけ

片山 今日はよろしくお願いします。まずは赤崎さんの自己紹介からお願いします。

赤崎 もともとは建築設計事務所で設計を10年ぐらいやっていたんですが、そこを辞めて今はフリーランスで活動しながら設計の仕事をしています。あとは今日のテーマでもあると思いますが、屋上で定期的にタイムカクテルを出していますね。

松井 赤崎さんは屋上付きの賃貸物件に住んでらっしゃって、今回のインタビューもその屋上で行ってるんですが、そもそも赤崎さんの屋上との出会いは何だったんですか?

赤崎 元々は中目黒の旗竿地に住んでいたんですが、日中は陽も入らないようなジメジメした場所に住んでいて、その反発から屋上のような開放的な場所に住みたいと思ったんだと思います。もう一つは、前職で改修の案件を担当することが多かったんですが、結構使われていない屋上を見る機会があったんですよね。実際、管理も大変だから使いにくい部分はありながら、もったいないなあと思う気持ちもありましたね。

中川 そういう屋上多いですよね。

赤崎 そうなんです。それなら自分で住んでみて使ってしまおうと思ったんです(笑)。当時は駆け出しの設計事務所所員だったので時間もお金もない中で、自分だけの暮らし方やスペースを持てることに贅沢ささえ感じてましたね。

中川 屋上の物件って簡単に見つかるんですか?

赤崎 屋上は北側斜線制限などの法規的な要因やエリアごとの都市計画的な側面から自ずと生まれますよね。なので逆算的にエリアや条件を絞って、屋上を探すことができましたね。

中川 なるほど!

松井 先ほど少しタイムカクテルというキーワードが出てましたけど、タイムカクテルを始めたきっかけは何なんですか?

赤崎 きっかけはやっぱり屋上にありますね。屋上にいると、環境の移ろいを肌身で感じたり、ぼーっと友達と話していると気が付いたら夜になってたりということが結構あるんですよね。そういうなんとも言えない時間の移り変わりを体験できる飲み物があると、面白いんじゃないかと思ったのがきっかけですね。

松井 ちなみに、いま目の前に準備して下さってるカクテルがすごく気になります。

赤崎 これはリンゴンベリーと言って、IKEAにも売ってたりするジャムなんですが、甘みと酸味の両方を楽しめるんです。

 

16:13 リンゴンベリーの鮮やかな赤色が、屋上へ差し込む日によってキラキラと反射している。

 

片山 今回このリンゴンベリーを選んだ理由って何かあるんですか?

赤崎 みんな駅から建物の屋上まで歩いてきているし、軽く汗もかいているだろうし爽やかな甘味と酸味のあるドリンクがいいかなと思って選びましたね。時間もちょうど日が暮れそうだから、色も赤色とかがいいかなと思いまして。

三上 理由がすごく素敵ですね。

 

16:15 グラスに炭酸を注ぐ。
    炭酸が弾けるシュワ〜という爽やかな音。

 

三上 めっちゃ綺麗。

赤崎 お酒が好きな人は、お好みでジンを入れるなりしてもいいよ。

松井 僕入れてもいいですか。お酒が飲みたい気分です(笑)

三上 私もいいですか(笑)

一同 カンパーイ!

 

16:20 乾杯して、取材再開。

 

 

アンビエントバーテンダーという肩書き

片山 タイムカクテルを出す時、アルコールを飲める人と飲めない人がいると思うんですが、赤崎さんはみんなが同じテイストを楽しめるようにドリンクを選んでいるように感じました。

赤崎 そうですね。飲み屋とかに行くと、お酒はご飯とか気分に合わせて色々選択肢があるけど、ソフトドリンクは烏龍茶とオレンジジュースしかないみたいなことが多いですよね。結構僕の周りはあんまりお酒を飲まない友達が多いので、それでも同じ体験を共有したいなと思ってます。

中川 僕はお酒が飲めないので、それはとても嬉しいですね。

松井 経験を共有できる飲み物、いい言葉ですね。

赤崎 環境を体験する感覚の違いはみんなそこまで変わらないと思ってます。日差しが強いとみんな暑いと思うし、空が晴れてるとみんななんとなく気持ちがいいと思うだろうし、僕のタイムカクテルはその環境をみんなが一緒に楽しめるアイテムのような感じですね。

三上 面白いですね。屋上だからこそ、いい意味でみんな環境に振り回されるというか。

赤崎 バーとかも店内の明るさのトーンを落として手元の明かりで世界観を作ったりすることが多いんですけど、屋上もこの環境ならではの世界観にしてあげられると、気持ちがいいと思うんです。

片山 ちなみに赤崎さんにはアンビエントバーテンダーという肩書きがあると思うんですけど、どういう意味なんですか?

赤崎 「周囲の」とか「環境の」という意味があるんですが、本質的には、それこそさっき言ってた即席的にその場の環境を読み取ってドリンクを出すことを示していますね。アンビエントバーテンダーを名乗っている人はおそらく僕以外にいないと思いますよ(笑)。僕は初めて街を訪れる時にバーに行くことが多くて、そこでのバーテンダーの所作とかふるまいはすごく参考にしてますね。マスターは空気を読むのがすごくうまくて、アドリブ力がすごく高いんですよ。

中川 バーから学んだアドリブ力に加えて、屋上という外部環境を読み解き即興的に反応する。面白いですね!

赤崎 屋上の環境は変化が激しいからそれに反応するのは大変なんだけど、唯一変化しないのは時間だからタイムカクテルをテーマにしたというのはあるね。どんな日でも日暮れはやってくるからね。

三上 屋上にいると風とか匂いを敏感に感じる分、五感がより刺激されると思うんですよね。飲み物も同じで、秋の空気が澄んでいるときは香りが強く感じられたり。

赤崎 季節に応じて反応も変わりますよね。春先はみんな鼻がつまる傾向にあるから、生姜を多めに入れてもいいかな〜とか。

中川 その瞬間の環境と提供するドリンクのセットを記録したりすると、とても面白そうですね。僕の好きな写真集の中で、風景写真とそれにインスパイアされた服のスタイリングをセットで記録するという本があるんですけど、それがすごくお気に入りなんですよね。カクテルバージョンも絶対にいいなと思いました。

赤崎 それすごくいいですね、ぜひやりましょう!

 

 

「開かれていないからこその、特別感がいいんです。」

片山 屋上に住んでいると休みの日とかは屋上で飲むことも多いと思うんですが、バーや居酒屋との違いはなんだと思いますか?

赤崎 一つは、気分は宅飲みなのに環境としては完全に外ということが面白いですよね。日差しが強かったり、風が強かったりと過酷な状況もあるんですが、その時は家に避難もできるという安心感がありますよね。あとは、開かれていないからこその、特別感がいいんです。

三上 屋上飲みに招待された身としては非日常を体験できることも魅力ですよね。屋上自体がどこか秘密基地的なわくわく感がありますし。

中川 完全に外という点でいうと、公園との違いは何なんですかね?

三上 やっぱり公園みたいなみんなのための場所ではなくて、ごく限られた人によって場や振る舞いが共有される感じがいいように感じますね。

赤崎 屋上のいいところですよね。

松井 日常の延長にある特別感みたいなところによさがあると思いますね。

片山 普通こういうカクテル飲みのようなことを公園でやろうとすると、イベント感が出たりパフォーマンスっぽくなると思うんだよね。でも屋上の場合は「これはただの宅飲みなんだぞ!」というか。まさにエクストリーム宅飲み感というか。

松井 エクストリーム宅飲みやばいですね(笑)

赤崎 公園ってすごく広い空間だけど、パーソナルな領域はほんと身の周りに絞られる感じがあると思うんですよね。でも屋上の場合は、端から端まで私の領域として楽しみ尽くせる感じがいいと思うんです。急に酔っ払いが絡んでこないという安心感もありますしね。

松井 先ほど話しながら、視線の先に窓の清掃を行ってる業者のおじちゃんがいたんですけど、その人くらいしか気にしてなかったです(笑)。

中川 なんか楽しいことやってるな〜くらいに思ってたんじゃないかな(笑)。

赤崎 盛り上がってきたので、2杯目のカクテルでも飲みますか。陽が暮れてきたんで、暖かいお茶も出しますね。ジンもお好みでどうぞ。

 

17:10 日が暮れてきて、肌寒い風が吹く。暖かいお茶がちょうどいい時間帯。

三上 うわ!ジンもとても美味しい。

赤崎 バラとかベリー系の香りがするジンだから、リンゴンベリーにも合うかもね!

 

 

屋上から感じる街という体験

片山 話を聞いていると、タイムカクテルと周囲の環境はとても大事だと思うんだけど、ここの屋上の環境も面白いよね。目の前にはグラウンドがあって少年野球が観れますよね。練習の声も聞こえてきます。

 

17:15 グランドから響く練習の声

17:16 屋上から見える街並み

赤崎 グラウンドもそうだけど、他にも商店街や線路があって、視線が抜ける感じも面白いよね。同時に思うのは、街のオブジェクトが鑑賞物になるというか、庭の鯉を眺めてるような気分になるんですよね。

三上 その感覚、面白いですね。

 

17:12 屋上のまわりを見渡してみる。

 

赤崎 あそこに見える建物には屋上に松の盆栽があって、眺めると趣がありますよね。

 

17:16 隣屋上の松の盆栽に差し込む夕日

三上 改めて見渡すと、いろんな使い方をした屋上がたくさんありますね。

赤崎 そうなんですよ。あの家はベンチを出してタバコを吸ってるおじさんがいたり、中華屋さんの屋上には物干し竿に作業着が干してあって、お疲れ様です!みたいなね。

 

17:21 隣の中華屋さんの屋上には作業着が干されている

 

松井 屋上って作られる段階では、ごくごく一般的な屋上になりがちだと思うんですけど、今のお話を聞いていると、建物の特徴や住んでいる人の個性が現れる場所でもあるのかもしれないですね。よりパーソナルな特徴が現れることが面白いなと。

中川 ちなみにこのケーブルは何なんですか?

 

 

赤崎 これは電話線だね(笑)。こんな所に露出されてていいのかなとか思っちゃうけどね(笑)。

片山 でも、そういう剥き出し感というか、許される感じは屋上の魅力だよね。あとは飲み物や食べ物をこぼしたりしても、ある程度いいよいいよとなっちゃう感じもいいよね。

赤崎 雰囲気でいうと、キャンプに行った時のテントを張り終えて少し疲れてだらだら話してる感じに近いのかもしれないですね。家の中よりも入ってくる情報が限られるから、体験がすごくプリミティブになるというか、目的のない時間を楽しむというか。

片山 なるほど。その雰囲気はわかりやすいですね。

松井 目的のない時間を楽しむってすごくいい表現ですね。屋上での体験って言葉にしたり、共感してもらうのってなかなか難しいけど、タイムカクテルを通して共有の幅が広がるのは面白いですね。今日はインタビューありがとうございました。

赤崎 こちらこそ、ありがとうございました!また屋上遊びにきてください!

 

17:50 取材を終えた赤崎さんの手にはタイムカクテル

 

屋上にいると感じるささやかな風、匂い、音…
そんなささやかな環境や時間の移ろいを、赤崎さんの「タイムカクテル」は教えてくれる。
目的のない時間やなんかいいを他者と分かち合い、楽しむことのできる「タイムカクテル」は、
屋上には欠かせないアイテムなのかもしれない。

 

archive gallery(photo : ai fukumori

 

#3「屋上から“〇〇”を考える」 coming soon…

 

屋上考現学member profile

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松井 勇介
yusuke matsui
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1996年、石川県生まれ。株式会社オンデザインパートナーズに勤務し、小屋PJ、美術館+公園PJを主に担当している。同社のオウンドメディアであるBEYONDARCHITECTUREのメンバーとして「ケンチクとカルチャーを言語化する」をテーマに編集活動を行う。関係性の中に立ち現れる空間に興味がある。屋上好きの有志を募り、屋上から「屋上考現学」を立ち上げる。

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片山 浩一
koichi katayama
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普段は建築と不動産のあいだを追究するカンパニー「創造系不動産」にて建築家のプロジェクトを専門とする建築不動産コンサルタントとして、不動産売買仲介・不動産活用を行う。その他の時間は屋上と映画と漫画と哲学のことばかり考えてるひと。あらゆるモノ・コトがデータ化されコンテンツ化され強い文脈に飲み込まれる現代(の都市に)おいて、環境に呼応したり文化に呼応しながら弱い文脈を編み込んでいくことを探求中。

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中川 晃太
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1994年、愛知県生まれ。土木設計や都市計画に関する業務に従事する傍ら、「都市と土木と写真」をテーマに創作・リサーチ活動を行う。スケールの大小を行き来しながら、異なる領域をつなげることに興味がある。2022年、街のちいさな風景を集めた写真集『NEIGHBORHOOD』を製作。屋上でコンサートをひらくのが夢。

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三上 奈々
nana mikami
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1998年、東京都生まれ。2021年に東京藝術大学美術学部芸術学科を卒業後、千葉大学環境園芸学研究科ランドスケープ学コースに進学。博士前期課程にて、庭師の身体の動きと環境の相互性による作庭のプロセスの研究をアクションカメラを用いて行う。職人の暗黙知や身体知、庭の五感で感じる魅力に関心がある。研究の傍ら、展覧会のキュレーションも行う(『TSUMUGU Exhibition』in Ueno 2018, 『色語り展』in Mashiko 2022)。