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万博を歩く
#03
ふるまいを引き出す建築

text&photo:hanako yashiro

 

2005年の「愛・地球博」以来20年ぶり、また大阪開催は1970年の「日本万博博覧会」(大阪万博)に続いて2回目という「大阪・関西万博 EXPO2025」。連日多くの来場者で賑わいをみせるなか、会期も残りわずか。さっそく前回に引き続き、編集部員が現地を訪れ、見て聞いて感じたことをレポートしていきます! 今回のテーマは「ふるまいを引き出す建築」です。 

 

reporter profile
矢代花子 hanako yashiro

対話の積み重ねや複数の視点から考えることがわくわくする空間を生むと日々実感しています。オンデザインの一員として、自分の好きなことを活かしながら、建築の使い方や街の楽しみ方まで皆さんと一緒に考えていきたいです。

1999年 東京都生まれ
2022年 オンデザイン/BEYOND ARCHITECTURE


遊んで楽しい万博のまちなみ

建築の魅力は、日常の中で静かに人を支える「縁の下の力持ち」的なあり方だと思っています。生活に欠かせないけれど、普段はあまり意識されない存在。でも、今回の万博では、建築が人の行動を引き出し、万博のまちなみ全体が「遊びの場」になっていました。建築と人の関係性がいつもと少し違って見えたのです。今回のレポートでは、万博建築が引き出す人のふるまいに注目しながら、万博建築の“遊び方”をお届けします!

 

「座る」「よじ登る」 : フィリピンパビリオン

「万博の建築って、いつもと違うかも!」と最初に感じたのは、「フィリピンパビリオン」に並んでいた時でした。外壁には、セブ島で織られた弧を描いたラタンが1000枚近く使われているそうです。その外壁に並んで腰かけ、アイスクリームを食べる親子がいました。「この外壁、座れるんだ!」と驚きました。さらに隣では、ラタンの弧の中で遊びながら順番を待つ子どもがいました……!

フィリピンパビリオン/Carlo Calma Consultancy Inc. &cat

彼らのふるまいから、建築が人に使い方を委ね、「座るもの」「遊ぶもの」になっていて、いつもと違う建築のあり方を見つけた瞬間でした!

 

「身を寄せる」「登る」「語らう」「腰掛ける」 : 大屋根リング

その次は、今回の目玉である「大屋根リング」。上からすべてのパビリオンを眺めることができるのはもちろんですが、夢洲(ゆめしま)の自然と時間の移ろいを感じることができます。昼間は太陽から避難するように、リングの下が休憩スペースになります。この日はとくに暑かったので、リング下はぎゅうぎゅう。日陰を求めて自然と人が集まり、「身を寄せる」場所になっていました。

そして、日が沈む時間になると、まるで合図があったかのように、みんなが上へ登っていきます。夕日のほうを向いて思い思いに過ごす、リング上のいちばん良い時間です。

夜になると、芝生広場に腰をかけて、夜風を感じながらの万博の思い出を語り合う人たちの姿がありました。

「みんな、この大屋根リングの楽しみ方を熟知している……!」という驚きがありました。この日は、綺麗なお月様も見えて、夜まで大満足。建築が時間の変化とともに使われ方を変え、人のふるまいを受け止めていました。

 

「包まれる」「触れる」 : パキスタン館(コモンズD館)

空間を通して、その国の素材を体験できたのが、「コモンズD館」にあるパキスタンの展示でした。
特徴的な建材であるイスラムタイルは展示してあるのみで、空間そのものは特産品であるピンクソルトで構成されています。床も壁も塩に包まれていて、誰もが絶対に触りたくなるそんな空間でした。通常の建築ではなかなか使われない素材を空間全体で楽しめるのは万博ならではの体験です。

 

「ぶら下がる」「腰掛ける」 : 休憩所4

休憩所4/MIDW+Niimori Jamison

「休憩所4」は、波打つ地面と、それを覆うメッシュ状の鉄筋屋根で構成された、でこぼこ空間でした。
暑い日だったのにもかかわらず、子どもたちはこの起伏のある地面を行ったり来たり……、追いかけっこが始まったり、屋根にぶら下がったり、遊び場になっていました。ベンチも設置されていましたが、でこぼこした地面にそのまま腰掛ける人もいて、ふるまいが限定されていないところに建築の包容力を感じました。

 

「触れる」「回る」 : チェコパビリオン

チェコパビリオン/Apropos Architects with Tereza Šváchová

「チェコパビリオン」では、最初に外壁素材の説明がありました。

外壁に使われているボヘミアンガラス

外壁に使われているのは、ボコボコと波打つ220枚の「ボヘミアンクリスタルパネル」。その質感を間近で見て、実際に触れることもできます。詳細な説明に驚きの声があがるたび、みんなの視線が今自分たちがいる建築の外壁に向けられます。建築に「触れる」面白さに気付かされる瞬間でした。

チェコパビリオンの屋上から見る大屋根リング

このパビリオンはボヘミアンガラスに覆われた廊下を上に進んでいくと最後、屋上テラスにたどり着きます。そこからは大屋根リングを内側から、ほぼ同じ高さで眺めることができるのでおすすめです! 建築への興味の接点が多いのも、世界中の最先端技術が集合する万博ならでは。ここで建築に「触れる」面白さを知ったら、他のパビリオンの見え方がまた変わるはずです。

ちなみに、みんながぐるぐる回っていく様子を外から眺められるのも面白いです!

 

編集後記

日常生活で建築に触れる機会は、そう多くはありませんが、万博では、全身で建築を楽しむ人たちをたくさん見ることができました。

いくつもの素材が共存し、まちを形成する中で、建築をじっと観察したり、思わず触れたくなる瞬間があったり、座ったり、くぐったり……、体験したくなる建築であふれていました。何より印象的だったのが、万博に来ている人たちが、当たり前にそれを楽しみ、建築と人との距離がいつもより何倍も近かったことです。それは、子どもも大人も。

とにかく暑い日でしたが、強い日差しのおかげで万博のまちなみはキラキラ輝いて、建築が人のふるまいを引き出し、受け止める様子がとても魅力的に見えました。