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万博を歩く
#01
“輪郭”を与える建築

text :yusuke matsui photo:beyond architecture

 

2005年の「愛・地球博」以来20年ぶり、また大阪開催は1970年の「日本万博博覧会」(大阪万博)に続いて2回目という「大阪・関西万博 EXPO2025」。コンセプトは「いのち輝く未来社会のデザイン」。大屋根リングをはじめ、著名建築家が手がけるパビリオンも話題となり、連日多くの来場者で賑わいをみせています。編集部もさっそく炎天下の夏の日、現地を訪れました。連載では、万博会場を歩いて感じたこと、考えたことをリレーでレポートしていきます。初回のテーマは「“輪郭”を与える建築」です!

 

案内人 profile
松井勇介 yusuke matsui

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日々の暮らしの中で感じる居心地や愛着を手がかりに、身の丈のスケールから建築や場づくりを考えることを大切にしている。日常の些細な出来事に価値を見出し、“楽しさ“へと変えられる試みを模索中。

1996年 石川県生まれ
2020年 オンデザイン/BEYOND ARCHITECTURE


万博を視る、“輪郭”という視点

私が建築を考えるとき、“輪郭”というキーワードを大切にしています。そもそも“輪郭”とは、一般的には“物の周りを形づくっている線”という意味をさします。つまりは、建築(ハード)でいう外形線(アウトライン)のようなものであり、なんでもない土地を建築により切り取り、新たな風景を生み出すものと言えます。同時に、私は「物の周り」という言葉にもう少し多義的な視点をもち込むことを意識しています。つまりは、事物がもつ本来の意味を違う角度で捉え、見つめ直すための大枠(ガイドライン)のようなものです。

今回の(私の)レポートでは、この個人的視点を下地に、多方面でも話題となっている大屋根リングにフォーカスします。万博会場の核ともなる大屋根リングは、来訪者の活動を受け止め、シーンや距離感の変化によってさまざまに様相を変える、まさしく“輪郭”を与える建築でした。現地を歩き、体感したからこそ見えてきた、私なりの気づきのレポートをお届けします。

 

▽現地レポート▽

入口ゲートを抜けた先、真っ先に目に飛び込む大屋根リングは、まるで壁のようにそびえ立ち、まだ行き先の定まらない来場者にとっての目印となります。細やかな木組の連続、どこまでも横に連なるその佇まいは、どこか万博を象徴するランドマークのような存在感を放っています。

まるで壁のような圧倒的存在感を放つ大屋根リング

大屋根リングの足元に行くと、先程まで見えていた立面の様相とは異なり、奥へのアプローチを促すゲートとしての役割を果たしています。奥に行くにつれて低くなるゲートの先には各国のパヴィリオンが切り取られ、別世界へと誘う高揚感を演出しています。

大屋根リングの先にはパビリオンが見える

リングの中には、ささやかに設らえられた居場所、各パビリオンへと誘導するサインが配置されています。一定のピッチで落とされた柱と柱の間の約4畳ほどのスペースは、誰かを待つ人、次の行き先を話し合っているカップル、休憩スポットとして利用する家族など、多様な属性を受け止めています。来訪者のさまざまな目的が交錯する万博において、会場周囲にオープンに開かれ、利用することのできるこのスペースは、どこか日本の軒下や縁側を想起させる、余白を纏った空間と言えます。

来訪者それぞれの居方を受け止める柱群

柱間のスペースにはベンチが置かれ休憩スペースとして機能している

大屋根リングの上部にあがると、デッキとその脇一面に芝生が敷かれています。幅広なデッキは、次の目的地へ移動する歩行空間として機能する一方で、芝生上には、ちょうど寝転がることができるほどの緩い勾配がかかっており、移動に疲れた人を受け止める休憩エリアとして機能しています。グランドレベルの賑わいとは対照的に、下界と切り離され、万博会場全体を俯瞰できるような、おおらかな空間が屋根上には広がっています。

移動空間としての屋根上。デッキ上面にはキャラクターのグラフィックが貼られている

芝生エリアに寝転がりくつろぐ様子

会場全体を円でに囲うように配置された大屋根リング。果てしなく続くリングの屋根上を歩きながら周囲を見渡すと、海上に水平に浮かぶリングが現れます。リング上には次の目的地に向かって歩く人が列を成して並んでおり、夕日の日差しが海に反射しています。人工物でありながらもどこか山脈を見渡しているようなその光景は、万博がつくり出す新しい風景と言えます。

夕日に照らされる大屋根リング

歩いてみて

万博の仮設群を囲うように配置された、大屋根リング。

会場全体を縁取る“輪郭”としてのこの建築は、時に強く、時に弱く、シーンに応じてその“輪郭”のあり方を変える。

ランドマークとして、みんなのシンボルとなり、

縁側として、みんなの居場所に寄り添い、

水平線の風景の一部として、みんなの記憶に刻まれる。

様相を変えながら、私たち一人一人に寄り添うガイドとしてのこのリングは、万博という非日常な時間/空間における特別な体験を支えている。

デッキに描かれた万博キャラクターのグラフィック。親子が手を取り寄り添う姿は、まるで来訪者に寄り添う大屋根リングのよう