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銭湯通信
#05
番頭さんに感じる
銭湯の地域性

text:miki nagahori 

 

日頃の銭湯好きがきっかけとなりスタートした『銭湯通信』。5号目は銭湯のあるまちをリサーチしながら巡る旅。「蒲田編」に続き「川崎編」をお届けします。

 

リサーチ同行者:近藤拓馬、長堀美季

 

川崎市もまた、銭湯が多い地域である。

今回は、川崎駅から工場地帯側へ走る「新川通り」沿いの3軒を巡ることにした。

旅の友は、この銭湯企画に以前から興味を持ってくれていた、オンデザインの同僚の近藤さん。

先日、神奈川県浴場組合でインタビューさせていただいたご縁から、まずは星野さんが営む「星乃湯」にお邪魔させていただくことにした。

 

一湯目、「星乃湯」。

川崎駅からバスで10分程乗車した停留所で降りると、すぐのところにあり、場所は公園の近くに位置していた。

開業前に、内部の写真撮影とお話しをきく時間をいただいた。

早く着いて店前を探索していると、「まだ開かないよ、ここは3時からだよ」と通り掛りのおばあさんが教えてくれた。

時間になり、早速、浴場を見せていただいた。

壁面には、富士山ではなく、幾何学的な陶版と星柄のタイルが並べられていて、素敵な空間だった。

対面の壁には「星乃湯」という名前にちなみ、12星座が描かれていた。

オリオン座には「集まる」という意味があるそうで「人が集まる場所になると良いな」という願いを込めたそう。

スタッフルームの入口は、「星乃湯」を中心に川崎の名所が描かれていた。

また、この日は雨だったのでのれんは出していなかったが、のれんには「My Third Place」と書かれており、随所に星野さんの遊び心と思いが詰め込まれている。

営業時間になりシャッターを開けると、同時にたくさんの人が入ってきた。

数人の子どももやってきた、彼らは常連客なんだそう。

子どもたちは、仲良くお金を払い浴場へ向かった。

近藤さんがたまたま男湯で彼らが深刻な顔で言い合いをしている様子を見て、声をかけたそうだ。

そうすると、「大人は口を出さないで」と言われ、子どもにもプライドと小さな社会があると思ったそう。

しばらくして、みんな仲良く湯から上がってくる様子を見て、銭湯を通じて小さな社会は回り、育っているんだな、と感じたそうだ。

星野さんはお客さんとは「付かず離れずの程よい距離感が良いんです」と話していた。

仲良く揃って番台で湯上りの飲み物を選ぶ子どもたちと話す星野さんは、小さい頃に通い詰めた近所の駄菓子屋のおばちゃんの存在のようだった。

優しく見守る様子もまた、星野さんの言う「程よい距離感」なんだなと思った。

近くに古くからの劇場があり、そのオーナーさんが役者さんのために100枚の入浴券を買っていかれた。

ドーランを塗ったままの役者さんが入りにくることもあるそうだ。

地域の人にとって、この銭湯はなくてはならない存在なんだと思った。

この辺りの銭湯は、20年で1/4くらいの数になってしまったそうだが、今でも比較的多い地域である。

近くの銭湯が休みになると「星乃湯」にお客さんが来たり、逆もあったり。

一定の数があるからこその相互関係が成り立っているようだ。

今回は、星野さんのご好意で、特別に入浴させていただいたが、次はプライベートでゆっくり訪れたいなと思う心地のよい銭湯であった。

(星野さん、ありがとうございました!)

右が、「星乃湯」の星野さん

 

二湯目、「バーデンハウス」。

「星乃湯」から数分バスに乗り、川崎駅方面に向かい、二湯目の銭湯を訪れた。

外観は、和風と洋風が混和した特徴的なファサードだった。

中に入ると、待合はバーカウンターのような番台が中心にある造りになっていた。

開放的な岩風呂で入浴を堪能した後、番頭さんに話しを聞くことができた。

改装時に、従来の閉ざされた番台ではなく、お客さんと気軽に話せるようにと今のオープンなカウンター形で設えたらしい。

目を引く銭湯の名称には、「〇〇湯」が多い中、カタカナはどうかと思い、ドイツの温泉保養地であるバーデンバーデン市から取り、「バーデンハウス」と名付けたそうだ。

話しをしていただいている間にも、たくさんのお客さんがやってきて、挨拶を交わす。

「星乃湯」、「バーデンハウス」のどちらも番頭さんの顔が見えやすい番台になっていて、地域の常連さんとの関係性をすごく大事にしていることが感じ取れた。

 

三湯目、「政乃湯」。

また数分バスに乗り、川崎駅から徒歩圏内の場所まで帰ってきた。

新川通りから一本中に入った「政の湯通り」という、まさに銭湯名から名付けられた通りに位置していた。

番頭さんの話しでは、ここはかつて「赤線区域」と呼ばれるディープなエリアだったらしく、当時は客が多く訪れたそうだ。

今は駅が近いこともあってか、お客さんは観光客がメインだそう。

スポーツ帰りに団体で来て風呂に入って、飲んで帰るお客さんもいるそうだ。

浴場は、歴史を感じる味のある空間で、ほっとする時間を過ごした。

一緒に巡ってくれた、近藤さん

前の2軒は住宅街にあり、最後の1軒は歓楽街にあった。

少し距離が離れただけなのに、客層も異なり、対照的な待合のつくりをしていた。

工業地帯が近いため、かつては労働者が利用する目的で、この辺り一帯は銭湯が多く存在したのかなと思っていたが、もっと小さな単位の地域ごとに求められる銭湯の違いがあり、銭湯が存在しているのだと気付いた。

今回は、銭湯の地域性を感じる旅だった。

また、各番頭さんからいろいろな出来事や思いを聞けて、これまでと違った「銭湯」を知ることができた。

近藤さんは、一言で「銭湯」といっても、立地によって客層や地域との関係、番頭さんのこだわりにこんなにも違いがあるのかと驚かされたそうだ。

こんなに番頭さんの思いが素直に出るプログラムはないかもしれないね、と話しながら旅は終わった。

良い一日であった。♨︎

 

♨️ 次回もお楽しみに!
過去の記事
銭湯通信#01 プロローグ「わたしは銭湯が好きだ」
銭湯通信#02 インタビュー・日野祥太郎(東京銭湯代表)
銭湯通信#03 蒲田編「銭湯の数だけコニュニティがある」
銭湯通信#04 インタビュー・山口繁(日吉湯)、星野実(星乃湯)

執筆者プロフィール
長堀美季(ながほりみき) / 大阪府生まれ。2018年よりオンデザインに。生まれも育ちも生粋の大阪人は、東京と横浜での不慣れな生活に日々奮闘中。