Dance Base Yokohama
コンテンポラリーの聖地、
横浜に誕生!
横浜は日本有数のコンテンポラリーの聖地としても知られる。横浜市政100周年を記念し、1989年に開催された「ヨコハマ・アート・ウェーブ」をきっかけに、「神奈川芸術フェスティバル」「横浜ダンスコレクション」「Dance Dance Dance@YOKOHAMA」など、これまでにも多くのダンスフェスティバルを開催。市内にあるBankArt1929、KAATといった劇場でも、定期的にダンス公演やワークショップを行なってきた。この4月には「Dance Base Yokohama」がオープンし、あらためて注目が集まっている。
横浜に、2020年6月、新しいパフォーミングアーツの拠点「Dance Base Yokohama」(以下、DaBY/デイビー)が誕生した。DaBYは、若手の育成や制作のサポート、他ジャンルのクリエイターとの交流の場、そしてトライアウト(試験公演)の開催など、ダンスを取り巻くあらゆる環境をひとつの場で実現するプラットフォームを目指す、新しいタイプのダンス施設だ。
DaBYが入る建物「KITANAKA BRICK&WHITE」は、1926年に竣工した旧横浜生糸検査所生糸絹物倉庫&事務所を復元・改築したもの。横浜市の指定文化財でもある歴史的建造物を保存しながら、新しいスタイルの施設をつくりあげるには、建築的にどのようなアプローチが必要だったのか。設計を担当したオンデザインの一色ヒロタカさんと小澤成美さんに話を聞いた。
「復元建築を活用するために手を加えるスキームはとても素晴らしいのですが、空間の中央に大きな4つの柱が存在し、壁は壊せず、天井も低い。建築条件としては、決して良いと言えるものではなく、正直腕を試されている感じでしたね」(一色)
可変する空間づくりの試み
劇場の舞台を想像すればわかりやすいが、創作や演出の可能性を追求するならば、高い天井から自由に照明を吊るなどして、空間を多様にアレンジしていく必要がある。ところが、本物件は制限がとにかく多く、大掛かりな変更ができない。そのため従来にはないセッティングを考える必要があった。
「延床面積380㎡のなかには、十分な広さのアクティングエリア(スタジオ)を確保しながら、楽屋、シャワールーム、キッチン、倉庫、オフィスなども併設しなければなりませんでした。全体のバランスをとりながら、すべての空間がアクティブになるために考えたのが、セミオープンの回廊で空間を仕切ることでした」(一色)
平面図を見ると、ダンスの書籍や情報を集積したアーカイブエリアと呼ばれる通路が、中央のアクティングエリアの四方をぐるりと囲むように設置されているのがわかる。アクティングエリアに面した内壁には、外壁の開口とリンクするように、大きさの異なる扉がいくつも設置されている。さらに、内壁は黒いカーテンで覆うことができ、全部を閉めれば一気にブラックボックス空間になり、雰囲気も一変する。注目すべきは、従来の「舞台設備」を再構築するように設計した、スタジオ内に置かれている什器だ。
「舞台も兼ねる平台は、積み重ねれば客席になりますし、ウマ脚の上に載せればテーブルとしても使えます。ボックス型ライトタワーの什器には、下部にキャスターをつけ、周囲をぐるりと単管パイプで囲みました。キャスターを転がし好きな場所に移動しながら、単管パイプに照明を設置。内部は、椅子や小物の収納スペースとしても活用できます。ワークショップや振り付けの確認などに使う大型の全身鏡も什器の裏側に付けられており、すべてのものの役割が可変、兼務できるよう提案しました」(小澤)
ダンスを軸に発揮される創造力
機能的なアプローチに加え、設計側が考えたのは空間の公共性だ。
「つねに進行形の創作が行われる場ですから、空間がその邪魔をせず、どこまでも自由な感覚でいられるようにしたいと考えました。スタジオでありながら、ダンサーがまるで家にいるように、気兼ねなく日常を過ごす。ショーイング時には客席としても利用される椅子も同じもので揃えるのはなく、住宅で使うようなダイニングチェアを数種類用意し、好みに応じて使い分けられるようにしています」(小澤)
「ダンス関係者だけでなく、音楽、美術といった他分野クリエイター、さらには観客の方々まで、この場所には多様な人が訪れ、空間を共有します。異なる感覚の存在を受け入れるためには発生するノイズをバランスよく受け止め、調整していかなければなりません。最初から建築が決めてかかるのではなく、ユーザーの行為を許容する余白が必要だと感じました」(一色)
新型コロナの影響を受け、施設の正式なオープンは延期されたが、6月25日にようやくグランドオープン。徐々に作品創作(クリエイション)やワークショップ、トークイベントなどが開催さえている。
「現場を訪れると、自分たちが想定していたのとはまったく異なる手法で、ユーザーが自由に空間を使っていることに驚かされます。ダンスを軸としたクリエイティブな力がこの場所で存分に発揮されている様子を見るのは本当にうれしいです」(一色)
さらなるクリエイションの可能性を探るために、オンデザインのメンバーは、「DaBYのコレクティブダンスプロジェクト」にも参加。ダンサーに加え、音楽家、映像作家、ドラマトゥルク(リサーチャー)、建築家など、異ジャンルのクリエイターが協働する実験的な創作を通し、次世代のパフォーミングアーツをつくりあげている。