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Book Log
#03
オンデザイン読書会
テーマ「女子的」

text:aya sakurai  photo:ondesign

 
「女子的」思考はオンデザインの設計プロセスとリンクしている!?

西田 3.11以降、建築の意匠性評価だけでなく、建築のつくられ方や、建築と社会との関係性のあり方が評価されているように思います。
 設計手法としても、そのプロセスの中で、エンドユーザーや地域の人を巻き込んでワークショップをしたり、設計事務所同士が協働したりする場面が多く見られます。建築を取り巻く関係性を設計に生かす姿勢は、この本で語られているように「関係の原理」で動いているんだなと感じます。そう考えると最近の建築は「女子的」だと言えるのかもしれません。

櫻井 そう考えると、オンデザインのパートナー制も「関係の原理」で動いていると言える?

西田 はい、対話という設計手法自体が、他者との関係性をベースにしてますもんね。オンデザインもはじめは西田さんの頭の中にある世界を構築していくっていう、いわば「所有の原理」をもとにした設計をしていたと思うけど、その手法に限界を感じて、他者との対話の中に生まれる共感をもとに設計するパートナー制をはじめたのは、同様の考え方と言えそうだね。

西田さん、鶴田さん(中央)

鶴田 言語化を繰り返すのは文系の感覚ですよね。オンデザインで働いている男性が「女子的」だと言われるのはそういうところにも関係していて、男女に関わらず、ふだんから設計で用いてる「関係の原理」が染み付いている人が多いということなのかもしれません。

櫻井 代表である西田さんと若手の間に20歳くらいの年齢差があることを、西田さんご自身がよく口にされていますよね。

驚きが共感に変わる(※一部抜粋)

えー? この人、自分とこんなに年齢が離れているのに同じ事考えているの!? という楽しい誤算から来る驚きが共感に変わる場合もあるのだ。

「4 Unique Girls—人生の主役になるための63のルール—」より抜粋

櫻井 この部分って、対話の中で自分と相手の意見の“差異”を客観的に認識した時、それまでは価値観のズレだと感じていたことが、共感に変わる感覚。それは対話相手の個性や、物事の考え方を最初から認識していれば、価値観のズレは感じないのだと思います。

西田 つまり、所有の原理で動いている人と関係の原理で動いている人は絶対に相容れないけど、相手がどういう原理で動いているのかを認識しておくだけで他人の意見や考えに対して寛容になれると。

鶴田  そういう意味ではパートナー制でプロジェクトごとにチームを組む際、「オンデザインの設計プロセスが女子的である」前提で考え方を理解しておくっていうことはすごく大切なことですね。

西田 そう思います。今のオンデザインの「働く環境」は、必然的に女子的考え方が必要とされる設計手法になっています。とくに「対話することで共感しながら設計していく」ところは象徴的な部分ですね。

伊藤  それって、ボトムアップ的な進め方ってことですよね。とあるトークイベントの際に、「オンデザインで設計した物件が当初予定していたのと違う使われ方をしていたらどう対応するか」という質問があったけど、「むしろそういう使い方もあったのか!」と予想外の使われ方を楽しんでいるような話をされていて、それと同じような感覚ですよね。

櫻井  それはつまり、わくわくする感じにも近いですよね。

西田  そうそう。設計した建物が「自分で思っていた通りに使われていない」というフラストレーションはまさに「所有の原理」にあてはまると思うけど、逆に「そういう使われ方もいいね!」のようなリアルの状況を良しとするのも、まさに女子的な考え方だと思います。

 

私たちなりの仕事の仕方

西田  個人的には「対話だけで設計のすべてをカバーできるのか」というと、必ずしもそうではないと考えています。確かに対話の中で生まれる共感をもとに建築を考えていく能力はオンデザインの強みだし特色だと思うけど、同時にその建築を具体化して構築していく能力も絶対に必要だと思います。

櫻井 それぞれ考え方に個性があるのを良しとして、みんなで共有していくことももちろんだけど、当たり前のことなのかもしれませんが、そのあとに共有したものを積み重ねてアウトプットをリンクさせていくことが大事だと感じました。生まれた体験や知識が他のプロジェクトにも生かされていく、そういうステップが大事なんだなと。

西田 なるほど。

共感脳とシステム脳(※一部抜粋)

女性は「共感脳」を持っている。共感脳は、相手が感じたり考えたりしていることを察知し、それに反応して適切な感情を催す傾向を持つ脳のことである。他者への配慮にすぐれている反面、他者の感情に左右されやすいという問題もある。これに対し男性は、「システム脳」を持っている。システム脳は、対象をシステムとしてとらえ、そこにあるパターンや因果関係を論理的に理解することを得意とする脳のことだ。しかしそのぶん、他者への共感は不得手であり、攻撃的になりやすいという問題もある。

「関係する女 所有する男」より抜粋

西田 例えば所内のミーティングの時にそれぞれの考えを共有するのが「共感脳」で、それをどういう風にステップアップさせて積み上げていくか、思考をブラッシュアップしていくことが「システム脳」ということになると思います。

伊藤 そのふたつの力が必要ということですね。

西田 私たちが意識しておくべきは、アウトプットまでの「積み重ねのクオリティ」の担保なのかなと思います。

伊藤 現場で起こっていることに対応することと、プロジェクト全体をコントロールし、マネジメントしていくのは、その役目も使う頭も違うからね。

西田 現場主義というのも今思えば、そこで起こっていることを大切にしていこうという、とても女子的な考え方で、最終的にかたちにしないといけない時、それをどう構築していくかということがやはり大事になってくると思います。
 その際、プロジェクトをコントロールしていく人が必要で、今このタイミングで誰が何をやるか、そのあと何をやったらいいのかを把握できるようにならないといけないと最近すごく感じます。

伊藤 結局、どの仕事も、やはり自分で経験していかないとなかなか力にならないですよね。

伊藤さん

西田 若手はプロジェクト数が多く断片的に仕事をしなきゃいけないこともあるので、それらをコントロールすることが経験につながってないような気がします。僕はもう3年目になるので、相当な危機感を持っています。

鶴田 確かに実感値がまだ少ないです。

櫻井 でもそれって各自がちゃんと意識していないといけない部分ですよね。

西田 どうしてもプロジェクトへの関わり方が断片的だと作業的になってしまい、そのプロジェクト全体の流れが理解できなくなります。そうするとその作業の後に何をすればいいのかがわからなくなって……。だから理解して吸収することを常に意識するようにしています。でも、気づいたら「女子的」というテーマがどこかにいってしまったような気もしますが、結論を言うと「女子的」を優先しすぎないようにしたいということでしょうか。

櫻井 確かにそうなのかもしれません。「女子的」であると意識しているだけでもこれからの動き方は少し変わる気がします。

 


profile
鶴田 爽 (つるだ・さやか)1992年兵庫県生まれ。2016年京都大学大学院修了。
伊藤彩良(いとう・さら)1993年岐阜県生まれ。2016年静岡文化芸術大学卒業。
西田幸平(にしだ・こうへい)1991年奈良県生まれ。2016年東京理科大学大学院修了。
櫻井 彩(さくらい・あや)1991年千葉県生まれ。2016 年千葉工業大学大学院修了。