update

Workshop Report
つくって、見て、話す
模型づくりタイケン

text: itsuki yasuhara , mizuki ohkawa  photos: ondesign

オンデザインの模型づくりワークショップは年に数回、関内周辺のまちなかや小学校、美術館など様々な場所で行われています。2016年に始まったこの取り組みも今年で7年目。子どもたちにモノづくりの楽しさを体感してもらうだけでなく、ふだん建築を生業とする私たちも模型を扱うことの意味について考えさせられたり、子どもたちの柔軟な発想から刺激を受けたり、建築の起源をかいま見たり!?……と、毎回新たな気づきが得られる貴重な機会になっています。
「矢口西小サマーチャレンジ2023」では、今年も夏休み恒例の模型づくりワークショップを開催。今回はなんと過去最多の40人の子どもたちが集まりました。さっそく当日の模様をレポートします!

@大田区立矢口西小学校

 

 

小さな建築家たち

「聞いて聞いて!」

袖を引っ張られ、彼についていくと、「あのね、これはね」と説明が始まります。

「ここは○○で~、それでここは××で~…」

登場人物や設定など、事細かに息を切らしながら説明する姿に、たった2時間程度のワークショップでこんなにも想像力が膨らむものかと驚きました。

しかし、夢中で説明を続けるその目はこちらを見ているわけではなく、絶えずまだ製作中の模型と小さな手元を見つめています。

(ああそうか、彼らは私たちに話しかけているようで、声に出すことで自分のアイデアを整理しているんだろうな)

そう思うと同時に、それはふだん建築の設計をしている私たちが、同僚や周りの人に求めていることでもあると気づき、ハッとさせられます。彼らの建築家さながらの試行を目の当たりにし、ひとり感心していると、今度は……

「先生~、こののり全然くっつかない~」

と腕を引かれます。どうやら床を水平に固定できないようです。

今回のワークショップでは木の枝を一本の樹に見立て、ツリーハウスをつくっています。発泡スチロールを削り出してつくった土台に、木の枝を差して、色とりどりの材料で飾り付け。最後にそれぞれの模型を合体させて、『にじ色の森』をつくります。その中でも、床となる小さな木の板を、枝に水平に固定することが難関のひとつでした。

「どうしたら上手くいくと思う?」

「うーん……」

目線の高さを合わせてそう問いかけると、彼は腰に手を当てて考えこんでいましたが、しばらくすると木の枝の一部を折って土台に突き刺しました。

そう、柱の誕生です。

床が傾いてしまうから柱を立てて支えよう、という、小さな男の子がとっさの判断で導き出した、当たり前だけど究極にシンプルな解決策に、建築の誕生をかいま見ました。便利な道具を教えることも、代わりにつくってあげることも簡単です。しかし、歪な柱が刺さったその小さな模型の迫力に、原初の建築『プリミティヴ・ハット』を重ねずにはいられません。

「こうして建築は誕生したのか!」

※プリミティヴハット:大昔の人間が最初に建てた建築とされる原始的な小屋のこと。外部環境から身を守るために、木の幹を利用した柱など、必要最小限の構造から構成される。

 

44人の対話

興奮冷めやらぬうちに、四方八方から肩をたたかれ、服を引っ張られ……。40人の斬新かつ柔軟なアイデアが飛び交う図工室には、ひとり悠長に考え事をしている隙などありません。しかし、ふと耳を澄ますと……

「こことここ、くっつけてみようよ!」

「いいね!! やってみよう!」

と話す声が聞こえてきます。声のほうに目をやると、同じテーブルの仲間たちでお互いの模型を覗き込んで話し合いをしていますようです。

ワークショップも後半戦。だんだんとできあがった模型を合体させるフェーズに入りつつあるようです。

他にも覗き込んで見たり、遠くから離れて見たり……。自分の模型を真剣に観察しては手直しをするテーブルが増えてきました。その姿はまるで、プレゼンの前に設計の確認を行う建築家そのものです。

そんな大人顔負けの真剣な表情で自分の作品とむき合う彼らとは対照的に(ある意味同じように?)、スタッフは皆、子どものような笑顔で楽しそうな様子。

やがてそれぞれの模型が完成し、ワークショップも終盤。40人のツリーハウスを合体させ、大きな森をつくることに。しかし、バラバラにつくられた40個の模型をひとつにまとめるのは難しく、スタッフが

「この模型どこにくっつければいいかわかる人いる―??」

と、彼らに尋ねています。

「こっちだよ!」

「先生貸して!!」

と率先して教えてくれる小さな建築家たちとそれに従うスタッフたち。

(これではどっちが先生か分からないな)

しかし一方で、このワークショップを通じて彼らから教えられたことが数多くありました。

それらは「模型」という、一緒に触って一緒に覗き込めるツールを通して、彼らから伝えられました。

模型を囲んで、覗き込んでいる時間は、年齢や立場は関係なく、モノづくりに没頭する対等な関係性でいられます。

すなわち「誰もが建築家になることができる」。

模型にはそんな不思議な魅力があるようです。