スタジアム×都市#13
いろんな人の
いろんな関わり方
都市に対する多様な役割を、
スタジアムが実際に担うには、
誰が何をすれば良いのだろう?
それぞれの要素のつながりを、
「見える化」してみた。
スタジアムは、都市における複合的な施設。関わる人も、持っている役割も、都市の様々な業界、シーンとつながっている。そんな一種の“生態系”のような複雑な構造を理解する方法に、「システム思考」という考え方がある。それぞれの要素の相関を“見える化”しながら、全体像を把握することができる。
今回の記事では、これまでのスタジアム編で見えてきた「スタジアムが都市に果たす役割」を、システム思考の考え方で整理する。都市の「誰」が「どんな」アプローチすることができるのか、またそれによって、スタジアムの都市における「役割」をどう変えていけるのか、より俯瞰的に見渡してみたい。
具体的に抽出した「要素」や「つなぎ方」は、仮説や主観に基づいているから正しいとは言えないかもしれない。それでもこうした考え方は、スタジアムを通じて都市の未来をつくっていく際の、有効的な視点になるのではないだろうか。
スタジアムの「役割」や「要素」を、「できること」からつなぐ
次のような手順で、図を作成した。
- これまでの連載で挙がった「役割」や、そのために必要な「要素」を抽出する
- 役割や要素は「観客数」や「シンボル度」というように、増減するようなラベルをつける(定量評価できなくても構わない)
- 相関する要素をつないでいく。(Aが増えればBも増えるならば、A→Bと矢印でつなぐ)
- 都市の事業として働きかけができることを考える
これまでの連載で、様々な要素が「都市のシンボルとして育つ」ことにつながっていきそうだと考察できたので、図の中心を「都市におけるスタジアムのシンボル度、存在感」とした。そうして完成させたのが、下の図だ。赤数字は連載番号との対応、黄色いボックスは事業としてアクセスできることを示している。
「都市におけるスタジアムのシンボル度」は、「人々が共有した“コト”」の質・量が大きく影響してくるし、それはスタジアム「内」のことと「外」のことに分けられる。では、それぞれの質・量を高める要素は何なのか。連載で言及した内容を意識しながら、順に見てみたい。
スタジアム内のコトの質・量を増やす
まずは、スタジアム内の、それも野球に関する部分だ。
観客数が増えれば、スタシアムで共有されるコトの量は増える。そのために効いてくるのは、チームの強さや人気。チームが強くなり、観客数が増えれば、人々が共有できる楽しいことが増え、またチームの人気が上がる。そんなループはとてもシンプルで、想像しやすい。
ただ、最近のスタジアムは、チーム強化とは違ったアプローチからも、集まる人を増やそうとしている。たとえば連載02で紹介したような、単に動員数を増やすのではなく、顧客のターゲット層を拡大する方向性だ。具体的にはベントや演出、BBQシートやジャグジープールのようなユニークな空間づくりなどが、ここに効いてくる。
それでも、チームや試合がコンテンツとして、人々が共有するコトの質に大きく関わることは変わらない。多様なアプローチと、野球の魅力が相乗効果を生み出すようなバランスが重要になりそうだ。
続いて、スタジアムの野球以外の場面での「コトの質・量」を考えてみたい。
野球がなくても人が集まる要素として、飲食店のような日常的なサービス提供を担保する「使い方の多様性」という要素がある。これらは建築の設計で高められるし、計画段階でのコンセプトが重大になってくる部分でもある。
スタジアム外でのアプローチ
スタジアムの「外」で市民が共有するコトの質・量はどうだろうか。ここでは、イメージしやすいように「まちで野球を感じる度合い」として考えてみる。
設計で担うことができる「スタジアムとまちの連続性」に加え、「関連事業の創発力」や「まちへ波及する賑わい」などが要素になりそうだ。
いろいろな立場の人がいる都市が舞台となるだけに、アプローチもいろいろと考えられるが、都市の人を巻き込んで主体的な関係者を増やしていく工夫や、スタジアムの外を意識した企画運営などが考えられる。
誰が、どこからアプローチするのか
さまざまな要素から「都市におけるスタジアムのシンボル度」が高まっていくと、ホームチームの価値に波及し、さらに観客数が増えたり、関連事業が生まれたりという循環につながっていく。逆に、そうした循環も元をたどっていくと、黄色で示したアプローチから生み出されていくと理解することができるのだ。
都市のどんな立場の人は、それぞれどんなアプローチでスタジアムに働きかけることができるのか。それによって、スタジアムのどんな役割を高め、どんな価値を生み出すことができるのか。その全体像が、スタジアムを取り巻く都市の人たちの“生態系”をシステムのように捉え、図を描くことによって見えてくる。
これを、いま目の前にある都市とスタジアムで、あるいは、これからつくろうと思っているスタジアムで、応用してみてはどうだろう。
いま活かしきれていない強みや、生み出したい価値のために不足している要素を明らかにしたり、参画や連携を求める相手を探したり、あるいは自分の立場から起こせるアクションを探したりするヒントになる。それが、都市とスタジアムの新たな関係を生み出すことにつながっていくはずだ。
(了)
<文:谷 明洋>
【都市科学メモ】 | |
問い、視点 |
・スタジアムが都市で役割を果たすための必要素は何だろう? |
「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
アーバン・サイエンス・ラボ記事一覧
「スタジアム編」では、「スタジアムは、都市において、どんな役割を果たすのだろう?」という問いを立て、さまざまな事例を調査、意味付け、整理して紹介しています。
「都市を科学する〜スタジアム編〜」記事一覧
【参考サイト】
システム思考(チェンジ・エージェント)
谷 明洋(Akihiro Tani) アーバン・サイエンス・ラボ主任研究員/科学コミュニケーター/宇宙と星空の案内人 1980年静岡市生まれ。天文少年→農学部→新聞記者→科学コミュニケーター(日本科学未来館)を経て、2018年からオンデザイン内の「アーバン・サイエンス・ラボ」主任研究員。「科学」して「伝える」活動を、「都市」をテーマに実践してます。新たな「問い」や「視点」との出合いが楽しみ。個人活動で「宇宙と星空の案内人」「私たちと地球のお話(出前授業)」などもやっています。 |