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半ドアライフ×都市
#03
outside→indoor
家具のかわりにアウトドア用品で生活する

「アウトドア」と「インドア」をあべこべにしてみたら、どんな“ゆらぎ”を感じ、どんな発見ができるだろうか? 全5回の連載、「半ドアライフ×都市」の3回目です。今回は、家の中の家具をアウトドア用品でそろえてみたら、どんなライフスタイルになるのか? 試してみました。

「自分の望むライフスタイルは何か」
をさぐる、良い機会になりました。

 

「アウトドア用品で家具家電をそろえたら、どんな暮らしになるんだろう?」

みなさん、こんにちは。

キャンプのときはだいたいこんなかんじのいしおです。

僕が今暮らす沖縄・久米島に引っ越してきたときには、家財道具や家電はあらかた引き払い、身軽な状態で移動しました。引っ越し費用を抑えるためですね。引っ越した先で買いそろえたほうが、安くあがるだろうと思ったのです。

アパートも決まり、「さて、家具や家電を買いそろえよう」と思ったのですが、このときふとあるアイデアが脳裏をよぎりました。

「アウトドア用品で家具家電をそろえたら、どんな暮らしになるんだろう?」

 

フットワーク軽く生きたい

なぜアウトドア用品で家具家電をそろえようと思ったか。それは、一言でいうと「フットワーク軽く生きたいから」です。今後また引っ越しがあったときに、コンパクトに収納できるアウトドア用品ならスムーズだなあと。

そしてそもそも、フットワーク軽く移動できるようにするためには、あんまり家具家電をもたないほうがいいな、とも思いました。だから、

  • いらない家具家電は買わないようにした上で、
  • 必要な家具家電はアウトドア用品でそろえ、
  • どうしてもアウトドア用品で事足りなければインドア用のアイテムを買う

ようにしようと決めたのです。

 

今回の実験

というわけで、今回の実験です。僕の移り住んだアパートは、エアコンだけは備え付けてありましたが、あとの家具家電はついていませんでした。

こんな感じで。

がらんとしていました。

 

この状態から、

  1. 必要ない家具家電は買わない
  2. 必要な家具家電はできるだけアウトドア用品でそろえる
  3. インドア用の家具家電は本当に必要なものだけ買う

というルールで、家具や家電をそろえていきました。

そしてこの実験は、結果として、「自分の望むライフスタイルは何か」を探る良い機会となったのです。

 

結果

1年にわたる実験結果として、

  • アウトドア用品で足りた家具・家電
  • アウトドア用品で置き換えられなかった家具・家電
  • 買わなくてよかった家具・家電

を表にして整理してみました。

これから引っ越す方で、家具や家電をアウトドアでも使えるものにそろえようと考えている(奇特な)方の参考になれば幸いです。

 

アウトドア用品で足りた家具・家電

アウトドア用品で置き換えられた家具・家電は以下です。

No 品名 代用物 コメント
1 テーブル アウトドアテーブル 余裕
2 リビングチェア アウトドアチェア お客さんが来たときだけ出す。普段場所取らなくて便利
3 カーペット アウトドアラグ 洗いやすいし悪くない
4 ガスコンロ カセットコンロ、ガスストーブ ガスボンベ代は月500円~1000円分くらいは使う。備え付けのガスコンロよりリーズナブルだし、コンロまわりを掃除しやすくて便利だが、空のボンベがゴミになりかさばる
5 カーテン タープテント用の横幕とインド製の大きい布 布のほうは日が差して眩しかった

 

たとえば、カーテンのかわりはこんな感じ。

カーテンは買っても良いかも、と思いましたが、それ以外は普通にアウトドア用品のほうが優れている気がしました。軽いしよごれに強いし、不要なときは収納しておけるので、スッキリした部屋をつくれます。

また、この中で特にオススメなのは、ガスコンロをカセットコンロに置き換えること。

まず、備え付けのガスコンロより掃除がしやすいです。よごれがたまりやすいコンロまわりをキレイに保てるのは、非常に大きなメリットではないでしょうか。

こんな感じです。スッキリしていますね。

さらに、カセットコンロの利用は、経済的なメリットも大きいです。

ガスコンロは数万円しますが、カセットコンロの場合は数千円で購入できますし、ガス代も毎月500円~1000円程度と、安くすみます。料理のためだけにガスを契約するなら、カセットコンロを使ったほうがはるかに安上がりになりますよ。

備え付けのガスコンロがない部屋に入る人は、カセットコンロでの生活を、一度ぜひ試してみてくださいね。

 

アウトドア用品で置き換えられなかった家具・家電

アウトドア用品では十分でなく、インドア用の家具家電を買ったものとしては、以下のようになりました。

No 品名 代用を試したもの 結果
1 ベッド・敷き布団 銀マット・EVAフォームマット、コット 寝心地が悪く、疲れがたまったためマットレスを購入
2 掛け布団 布、寝袋 比較的寝袋などでも暮らせるが寝心地的には物足りない。タオルケットを購入し、毛布は前使っていたものを取り寄せた
3 まくら インフレータブルピロー アウトドア用のインフレータブルピローや、タオルを丸めたものなどでも暮らせるが寝心地を追求してしまった
4 ビジネスチェア アウトドアチェア ぱたんと折りたたむタイプのアウトドアチェアは半年~1年程度で壊れた。もうひとつは、ずっと使っていると座面が沈みこみ、腰痛がひどくなってしまった。ビジネスチェアを購入
5 冷蔵庫 なし 冷蔵庫がなくても暮らせるか試す。しかし、沖縄の高温多湿な環境により、食材や料理が保存できずに困る。結果、冷蔵庫を購入
6 洗濯機 なし バックパッカー時代に覚えた「体と洗濯物を同時に洗う技」を駆使するが、やはり不便だった。結果、洗濯機を人からもらう
7 照明(デスクライト) アウトドア用のランプ、ランタン アウトドア用のライトは明かりが拡散して、夜デスクワークをしたり本を読んだりするのに目にやさしくなかった。デスクライトを購入

これらは、僕にとって現代的な生活をおくるのに、まさに「なくてはならないもの」でした。

 

布団やビジネスチェアなどは、どうしてもアウトドア用品では、インドア用のものと比べ快適性に劣りました。また、冷蔵庫や洗濯機など、ないと生活の時間配分が不便な方向に大きく変わるものは、手放せませんでした。

 

買わなくてよかった家具・家電

買わなくてすんだ家具・家電は以下のようになりました。

No 品名 備考
1 掃除機 ただしホウキは買った
2 電子レンジ 基本再度火にかけて温める。ただし、冷凍したご飯を解凍するときにはちょっと困った。おかゆにしていた
3 テレビ もともとテレビのない生活をおくっていた
4 炊飯器 ご飯は飯ごうや鍋で炊く。そっちのほうが美味しいし
5 ドライヤー 坊主頭だったのですぐ乾いた

これらはつまり、「アウトドア用品で置き換えられなかった家具・家電」と違い、「あれば便利だけどなくても差し支えないもの」ということになりますね。

悩みどころは、炊飯器。予約機能や保温機能など、確かにあれば便利です。ですが、僕は炊きたてのご飯が好きなので、あの美味さと比べると、まあなくても事足りるものでした。

 

どんなライフスタイルになるのか

さてここからは、インドアの家具・家電をアウトドア用品で置き換えると、どんなライフスタイルになるのかを紹介したいと思います。

 

模様替えが楽しい

アウトドア用品は軽いため移動しやすく、折りたたみができるものも多いため収納しやすいというメリットがあります。つまり、模様替えしやすいのです。

たとえば、僕の好きなマグリットのポスターを張ってある部屋に、リクライニングチェアとラグだけを敷く。そうすると、「絵に向き合うためだけの部屋」が出来上がります。

 

飲み会があるときも、こんなふうにレイアウトを変更。部屋が自由に使えるんです。

 

室内なのにアウトドア気分

室内というインドア環境で、アウトドアを楽しめるのも大きなメリット。

たとえばこんなふうに、テントを飾るガーランドで室内を装飾したり、

燻製をしたり、ダッチオーブン料理をつくったりと、アウトドアならではの料理も家で楽しみやすくなります。

 

気軽にアウトドアに行くようになる

家で使っている家財道具をそのままヒョイヒョイと車に積み、ビーチでも山でも好きなところに行ってたたずむ。そんなふうに、アウトドアへの行きやすさがはるかに増すのも大きなメリットでした。

そもそも、椅子やテーブル、調理道具などを庭やベランダまでズルズルひっぱっていけば、そこはもうアウトドアです。庭でよくバーベキューをしました。

 
考察

さて、この結果から、僕らは何を学べたのでしょうか。整理します。

 

家具・家電を変えると、ライフスタイルが変わる

家具や家電は、人のライフスタイルを大きく変えるものだと痛感しました。

たとえば、冷蔵庫がないと毎回食材を調達し、料理して食べるような生活になります。家にハンモックがあればうたたねがはかどります。椅子がローチェアだと視点が変わって楽しいですが、ビジネスチェアがないと家で仕事ははかどりません。家具としてアウトドア用品が家にあふれていると、そのまま外に持っていって、アウトドアを楽しみたくなります。

 

有名なコンサルタントである大前研一氏は「人間が変わる方法には3つしかない」として、以下の方法を挙げています。

・ひとつ目は時間配分を変えること。
・ふたつ目は住む場所を変えること。
・みっつ目は付き合う人を変えること。

そして振り返ると、「家具家電をアウトドア用品に変えること」は、この中の「時間配分」および「住む場所(の中)」を、環境から間接的に変えていくことだと捉えることができます。

今のライフスタイルを変えたい人は、家具や家電を見直し、アウトドア用品にしてみるのも悪くありません。

 

変えたくないライフスタイルもある

ただし、やはり諦めきれないインドア用の家具・家電というものは間違いなくあるな、と。それは僕の場合、たとえば洗濯機や冷蔵庫であり、ベッドやビジネスチェアでした。

でも、このようにインドア用品とアウトドア用品をあべこべに使い、かつ不要なインドア用品は買わないようにすると、「自分がおくりたいライフスタイルとは何か」がわかるようになります。

僕はガスで炊いたご飯が好きなので炊飯器がなくてもすみましたが、ボタンひとつで予約できる炊飯器がないとつらい人もいるでしょう。僕は洗濯機は生活上マストでしたが、たとえば洗濯が好きで、できるだけ手洗いした方が幸せ、という人もいるかもしれません。

「自分らしい生活とは何か」、それを探るためのヒントが、半ドアライフにはあるのです。

(了)
<文、写真:石坂 達>

 

【都市科学メモ】
実験:アウトドアギアで生活する
結果①ゆらぐ:模様替えがしやすく毎日に変化が生まれる
室内なのにアウトドア気分で過ごせる
気軽にアウトドアに行くようになる
結果②ゆらがない:冷蔵庫や洗濯機などの「ないとライフスタイルが大きく変わるもの」は置き換えづらい
考察:家具家電をアウトドア用品に変えたり手放したりすることは、自身のライフスタイルに変化を出しやすい。その変化が望ましければ半ドアライフを楽しみ、望ましくなければ従来のライフスタイルに戻ればOK。自分にとって何が本当に大切なのか、価値観が浮き彫りになる。
転用:「自分らしい生活」を試すための半ドアライフ、という可能性

 

石坂 達(いしお)
埼玉県朝霞市出身。東京農工大学農学部卒業後、ITメガベンチャーにて、教育・評価システムを中心に、ERPパッケージソフトの導入・保守コンサルタントとして勤務。2012年10月、まちづくりで有名な隠岐の島・海士町へ移住。株式会社巡の環にて、地域づくり・教育事業コーディネーターとして働く。2016年5月からは、沖縄県久米島町にて,地域おこし協力隊「島ぐらしコンシェルジュ」として活動。移住定住に関する相談窓口の立ち上げと運営システム設計、官民連携のまちづくり活動支援、地域おこし協力隊の採用支援などを行う。田舎を舞台に、変動の激しい時代でも「生きていける感」のある人を増やすこと、持たずにシェアで豊かな暮らしをつくることを目指し、合同会社PLUCKを起業。ソシオデザイン客員研究員・オンデザイン客員研究員。YOSOMON!パートナー。キャンプが好き。いしおのブログ

 

「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
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「半ドアライフ編」は、「アウトドアの道具をインドアで」「インドアの道具をアウトドアで」使うことにより、屋外・室内の当たり前を揺らがせます。それにより、インドア・アウトドアをメタ認知しつつ、人の生活や都市のあり方がどう変化しうるのか、それとも変化しないのか(可変性と普遍性)を探求します。
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