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銭湯通信
#04
横浜・川崎の
銭湯ブランディング

text : mana saito photo : ondesgin

130超の銭湯を取りまとめ、季節ごとの催しや地域福祉との連携を行う神奈川県公衆浴場業生活衛生同業組合。一軒、また一軒と、近所の銭湯がなくなって寂しいという声を聞きますが、現場の方たちは今どんなことを感じているのでしょうか。これまでつくったオリジナルトートバッグやTシャツ、ポスターが所狭しと並ぶオフィスで、副理事長の星野実(星乃湯)さんと山口繁(日吉湯)さんにお話を伺いました。

 

@横浜・阪東橋(神奈川県公衆浴場業生活衛生同業組合

組合のオフィスには過去のポスターやノボリなどが飾られている。

 

説備投資型商売の厳しさ

編集部 川崎と横浜のエリアをご担当されているということですが、エリアの特徴などはありますか。

星野 横浜は市の規模も大きいので浴場の軒数は多いですが、密度でいうと川崎のほうが多いと思います。蒲田、大森あたりの大田区(東京)や川崎は京浜工業地帯の中心的な役割を担ってきた工場町で、風呂なしのアパートが大半でした。昭和40年ぐらいからオリンピックのインフラを整備するのにあたって地方からどんどん人が流入してきたんですが、浴場の軒数もそのころがピークだと言われています。仕事終わりでみなさん体を流してから帰るので、もう夕飯前の時間くらいは芋洗い状態だったんですね。
 その後は住環境もかなり良くなって、住宅を新築するのに浴室がないと許可が下りなくなったんです。自家風呂の普及率が急速に上がって、昔のままの考え方では経営が成り立たなくなってきた。

編集部 古い建物はとくに、設備投資が大きくなってしまうと厳しいとお聞きしました。

星野 定期的にいじっていかないと傷んでしまうんですね。普通の建物より湿度が高いから、梁が下がってきてしまう。

山口 台風で煙突が倒れたとかね。震災のときも、目に見える被害はすぐ補修すれば良かったけど、配管の場合はあとからくるんですよ。

星野 一時、震災後に配管がやられてしまって、直すにはタイルもぜんぶ剥がしてパイプを掘り起こさないといけない、お金がかかりすぎるということで営業をやめてしまった浴場が相次ぎました。

山口 それと昔は、解体業者に木材を提供してもらったり、ガソリンスタンドに廃油をもらったり、燃料は安く調達できましたが、横浜は成分を確認しないといけなくなって、そういうものは燃やせず、経費がかさむようになりました。ガスに切り替えると、ボタンひとつでできますし、煙突掃除もいらないですからすごく楽ですが、コストが一気に上がってしまうんです。
 まだ50代だったら修理や新しい設備に投資しようと思えるけど、70代になってから建て替えても、あとに残すものが大きすぎますからね。

神奈川県公衆浴場業生活衛生同業組合副理事の「星乃湯」の星野さん(左)と「日吉湯」の山口さん(右)

 

新築銭湯に期待!!

星野 ただ、ここ数年、廃業のペースはちょっと止まってきたような気もしますね。川崎は去年は廃業はなかったんですよ。新築というかリニューアルの建て替えが一軒ありましたしね。

編集部 そうなんですね。

星野 武蔵新城の「千年温泉」なんですが、ちょうど、オリンピックを念頭に外国人客向けにポケトークという翻訳機を導入してみないか、と行政から話があって、川崎の銭湯経営者たちを集めた使い方の講習会を千年温泉でやったんですよ。
 あとスポーツバーみたいに、Jリーグの川崎フロンターレの試合をパブリックビューイングにしてやりましたね。

編集部 川崎フロンターレとは、「おフロんた~れの日」っていうコラボ企画もやっていましたよね。優勝したときにシャーレでなく風呂桶を掲げていたのも面白かったです。ほかに、注目しているお風呂屋さんはありますか。

「おフロんたーれの日」は2月24日に開催

山口 横浜には、18区中、10区しかお風呂屋さんがないんです。自分の地区を一歩外に出てしまうとなかなか交流がない。ソフトボールをやったり、個人的な付き合いはあるんですけどね。たしか、草津湯(南区)さんは、いち早くPayPayなどを導入して、積極的にやっていますね。

過去に制作されたオリジナルの暖簾やTシャツ

 

若い視点と個性で見出す
新しいお風呂の楽しみ方

編集部 ご自身のところはどうですか。

山口 日吉湯の近くに慶應大学がありますが、「将来的にお風呂屋さんをやりたい」と起業した学生たちがいるんです。うちで実習をして、「鏡磨き大変だな」なんて言いながら、「ゆず湯の日」や「お子さん無料入浴の日」をSNSで発信してもらったり。
 6畳の和室がたまたまあるので、勉強会みたいなのを開いたらいいんじゃないか、と。席料は無料だけど、最初にお風呂に入ってもらって、持ち込みは自由で、ほかのお客さんに迷惑にならなければ好きにやっていいよ、と。それを定期的にやっていて、今日も夕方から15人くらいに来てもらうんですけど。すぐ前に飲食店があるので、たとえばお風呂上がりに焼き鳥やビールを注文して持ってきてもらえるように提案したらどうかとか、アイデアももらってね。

編集部 一定年齢以上の人は、銭湯というと「家にお風呂がない人が行く」というイメージかもしれませんが、若い人の銭湯に対する見方も昔と違っていそうですね。

山口 それはあると思います。このあいだもびっくりしたのは、タブレットを持ち込みたいというお客さんがいたので、「カメラ機能が付いてなければいいですよ」とOKしたら、「じつは本を読みたいんです」って。防水のものもありますからね。

編集部 なるほど〜。今後は、お風呂で読める防水仕様の本を貸し出すとか、お風呂に入りながら何かを楽しめる、新しいお風呂の入り方みたいなことが、いろんなお風呂ごとに提案できそうですね。

星野 小さい商売なので、最終的には経営者の色が出やすいと思うんですよ。「面白いおやじがいる」とか、「面白い女将さんがいる」みたいな雰囲気があるほうがいいのかもしれないですね。風呂屋はいい時代が昔あったがゆえにそのイメージが捨てきれないんですが、そのまま頑なになって気付いたら売り上げが下がって、にっちもさっちもいかないような状態では、子どもが継ぎたいと思わない。今やっている人が面白がってやらないと、新しい面白いものも生まれてこないですよね。個店の努力ももちろんありますが、もっと情報交換をしながら全体でイメージを上げていきたいですね。♨︎

聞き手>編集部/齊藤真菜(ライター)・長堀美季(オンデザイン )

 

『 銭 湯 通 信 #04 』 取 材 後 記

設備投資問題、後継者問題など避けられない課題がある中で、銭湯という文化を守りたいという強い思いを感じました。地域に向けて様々な取組みをされており、利用者それぞれが銭湯の楽しみ方を見つけて、再び活気ある銭湯になることを願います。(長堀)

 
次回は、川崎周辺の銭湯を巡る小さな旅をレポートします。お楽しみに!
 
過去の記事
銭湯通信#01 プロローグ「わたしは銭湯が好きだ」
銭湯通信#02 インタビュー・日野祥太郎(東京銭湯代表)
銭湯通信#03 「銭湯の数だけコミュニティがある」(蒲田編)