銭湯通信
#03
銭湯の数だけ
コミュニティがある
『銭湯通信』では、「まちと銭湯」を知るための新たな企画をスタートします。蒲田、川崎、横浜と、銭湯のあるまちをリサーチしながらめぐる旅。。。第一回目は「大田区蒲田周辺」です。
リサーチ同行者:塩脇 祥、谷 明洋、長堀美季
ある夏の日、オンデザインの塩脇、先日まで蒲田に住んでいた谷、そして、長堀という銭湯好きのメンバーがあつまって、リサーチも兼ねた銭湯の旅に出ることにした。
その日、14時半に待ち合わせをすると、谷さんはロードバイクで颯爽とやってきた。
わたしは、「この季節、自転車を漕いだ後の銭湯は最高だろうなあ」と思いながら……。
まずは、
一湯目 「久ヶ原湯」へ。
蒲田から少し離れたエリアだが、私の自宅の近くに位置し、よく利用する銭湯のひとつであるため、ここからめぐってみたいと思った。
ちなみに銭湯の隣には、呑み屋さんがある。
銭湯は、ふだん夜に行くことが多いが、昼に行くと陽の光の差し込みがあり、新鮮な気持ちだった。
いつもと変わらず、炭酸泉も黒湯も気持ちがよかった。
夜ほど人は多くなかったが、数組が、話しをしながら銭湯を楽しんでいた。
番頭さんによると、心地いい温度の炭酸泉が人気で、それを求めてわざわざ遠方から来られる常連さんもいるそうだ。
わたしたちが湯上がり場にいるときも、常連さんが番頭さんと楽しそうに話しをしていた。
常連さんがここに通う理由は、きっと炭酸泉だけでなく番頭さんにもあるんだろうな、と感じた。
前回の東京銭湯・日野さんへのインタビューでも感じたが、番頭さんの存在は、まちにとって本当に尊いものである。
そして、
二湯目 「はすぬま温泉」へ。
商店街の近くに位置し、向かう道中では居酒屋やスナックをちらほら見かけた。
かわいい看板に心を惹かれながら中へ入ると、懐かしさを感じさせる雰囲気で出迎えられた。
浴室に入ると、女湯では若い女性が数人、パックをしながら湯船に寝そべっていた。
かなり、自分を解放できる場になっていることは間違いない。
湯上がりに待合いに出ると、ある女性が床に埋め込まれたモニターを覗き込んでいた。
モニターには池や鯉の映像が流れていて、数分に一度、レアキャラが現れるそう。
その女性によれば、何度も銭湯を訪れたことはあるが、いまだにレアキャラを見たことがなく、「今日は絶対見て帰るんだ」と言って、待ち時間を楽しんでいた。
番頭さんに聞くと、ここにはかつて池があり、
改装時に、その池を復活させたいとの店主さんの願いを建築家さんが叶えてくれたそう。
2017年12月に銭湯建築家・今井健太郎さんによってリノベーションされた「はすぬま温泉」は、
若い世代を中心に多くの人が訪れ、週末には、入場待ちをする日もあるそうだ。
店主さんは、「銭湯をテーマパーク化したい」という強い思いがある方で、
その遊び心は、銭湯の中にたくさん詰まっていた。
まるで日常の中で小旅行をしているような気分になり、「また来たい!」と感じさせる銭湯であった。
最後、
三湯目は 「蒲田温泉」へ。
ここも商店街の中にあり、建物の二階には宴会ができる大広間がある、有名な銭湯だ。
営業案内の看板には、「何度でも入浴が一日中楽しめます」(原文ママ)と書かれていた。
女湯では、ここでもおかあさん二人組が浸かったり上がったりを繰り返しながら会話を楽しんでいた。
ふと学生時代、学校近くの銭湯の露天風呂で友人と長時間話し込んで、「もう閉めますよ!」と番頭さんに度々言われたことを思い出した。
その当時は頻繁に銭湯に行くほどでもなかったが、「心から話したいときは、やっぱり銭湯だったな」と。
せっかくなので、湯上がりに二階の大広間で、軽く一杯呑んで帰ることにした。
呑むには少し早い時間なのか、はじめは貸切状態だったが、
あとから若い客が増え、待ち合わせをしている人もいるようだった。
なるほど、そんな利用の仕方もあるのか。
仕事終わりに、銭湯に入って、軽く呑みながら家族と待ち合わせをして帰る、
なんて幸せそうなんだ!
谷さんによると、男湯では温度計が壊れていて、
「今日のお湯は熱いね!」という会話が生まれていたそう。
「銭湯密集地の蒲田には、銭湯ごとにファンがいて、日々状況が変わり、
つねに一様ではない何かがコミュニティを生み出すのではないか」と谷さん。
塩脇さんは「歴史を辿ったり、なぜ銭湯の隣に呑み屋があるのかを調べると面白そうだ」と言っていた。
確かに、井戸端会議の延長のような銭湯の様子は、歴史と深く関係している気がする。
食事のほうがある程度食べ終わっても、頼んだビールはなかなか出てこない。
至らずでも大らかに受け止める気持ちが込み上げるのは、湯に浸かった後だからかもしれない。
呑み屋も多く、銭湯も賑わうまち、蒲田。
この界隈では、既存のコミュニティを深めるツールのひとつとして、銭湯が存在しているのかもしれない。
(しかしながら、三湯を一度にめぐるのは贅沢ではあるが、なかなか疲れるなぁと感じた一日でもあった・笑)♨︎