Interview
スティーブン・ホール
「建築の本質は自由だ」
現在、建築倉庫ミュージアムにて開催中の「Steven Holl : Making Architecture」。先日、会場に姿を現したスティーブン・ホール氏に、13年ぶりとなる日本での個展を通して浮き彫りとなった建築思想を聞いた。
建築にはすべてを変える力がある
2006年の「ギャラ間」以来となる大規模な個展を開催したスティーブン・ホール。70歳を超えてもなお精力的に活躍し続ける世界的建築家の代表作の数々を紹介する「Steven Holl : Making Architecture」展は、ニューヨークを皮切りにスタートし、このたび日本へ。本展では、建築模型40点に加え、ホール自身が手がけた水彩デッサン100点や映像などを展示。彼の建築的思考がいかに生まれ、発展していったのかを段階的に知ることができる。
「僕は建築にはすべてを変える力があると信じています。なぜなら、建築はアートそのものだから。すべてが予定調和で進行していく現在においても、建築の本質は自由なままなのです」
彼がそれを自ら実証する方法こそ、繊細なタッチと鮮やかな彩りで描き続ける水彩画だ。
「僕にとって水彩画は信仰のようなもの。毎日欠かすことなく、朝起きて一番に水彩を描いています。たとえ朝早くに出かけなければならない日でも、さらに早くに起きて絵を描いているのです」
取材当日も北京から東京へ移動するのに、午前6時30分には滞在先を出発しなければならなかったが、ホールは午前5時に起床して筆を取っていたという。しかし、なぜ水彩画を好むのだろう。
「イメージが伝わりやすく、どこでも簡単に道具を持ち運びできるからです。水さえあれば、飛行機の移動中でも描くことができる。いまはスマートフォンがありますから、描いたものを撮影して、ニューヨークや上海にいるスタッフに画像を送ればスムーズに指示ができますからね」
建築家に必要な宇宙的視点
ホールは同時に、建築家による表現することの重要性にも触れる。
「絵でなくとも、文章をしたためるのでもよいのです。自身が考える建築について、きちんとポイントをまとめ、整理しておくこと。なんの思考も伴わない情報が飛び交う現代だからこそ、自己の意思をきちんと表明することが大切なのです」
そして、さらにホールの意識は、広く世界、宇宙へと広がっていく。
「建築家は、自己の表現をいかに世界へと関連させていけるかにも考えを及ぼす必要があります。地球はもとより、宇宙は塵(ちり)のようなものから生まれたのです。それらの自然現象や環境にまつわるものすべてにおいて完全調和を繰り返し、現在の状態が成立しています。しかし、そこに人間が何かを加えることで、バランスが徐々に崩れはじめてしまった。近代化によって社会は大きく発展しましたが、同時に進行を止めることができなくなり、調和が乱れてしまっているのも事実。現代建築はその乱れを調整し、新たな作用を生み出すことが求められているのです」
新たな流れを起こすためには、国家などの大きな力に頼らずともよい、とホールは力強く語る。
「近代的な進化の多くはナショナリズムから生まれたものですが、ひとつの国家だけが成長しても意味はありません。一定の方向に流れ続ける海流は、何もひとつだけで成立しているのではなく、世界の海流すべてが作用し合うことで均衡を保ち、豊かな自然を形成しています。これと同じように、建築家もより広く、より大きな視点で世界を、そして宇宙を捉えてみる必要があると思うのです」
本展には、こうしたホールの思想を体感できる模型や映像資料が数多く展示されている。その眼でじっくり、そしてその耳で、ホールの建築を身近に捉えてみてほしい。
DATA
Steven Holl:Making Architecture
会期:2019年11月8日(金)〜2020年1月18 日(土)
時間: 11時~19時(火曜~日曜)/最終入館18時、月曜休(月曜祝日の場合、翌火曜休)
会場:建築倉庫ミュージアム(東京都品川区東品川2-6-10)
入場料:一般 3,100円、大学生/専門学校2,000円、高校生以下1,000円
詳細はこちらより> https://archi-depot.com/exhibition/steven-holl_in-tokyo