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スタジアム×都市
#03
野球がない日も
人を集める

text : akihiro tani, illustration : yuki

 

プロ野球のホーム球場でも、公式戦は年間70〜80試合ほど。
むしろ大半を占める「オフ」の日の、スタジアムのあり方を考えてみたい。
野球がなくても人を集めるのは、どんなスタジアムだろう?
 「スポーツをやる・見る」以外に、どんな使い方や役割があるだろうか?

 

飲食や商業で定常稼働

アメリカのニューヨーク・ヤンキースの本拠地ヤンキー・スタジアムは、グレートホールと呼ばれる大きなコンコースがあり、さまざまな店舗が軒を連ねている。

横浜スタジアム改修のヒントを求めてスタジアムの視察を重ねた、横浜DeNAベイスターズの池田純前社長が、感想をこう記している。

球場の中に足を踏み入れれば、開放感のある天高のコンコースが広がり「ハードロックカフェ」など多彩なショップが軒を連ねる。試合が開催されない日でも営業しており、商業施設としての役割も果たしているところが、現代的と言えるだろう。
各地から「ヤンキー・スタジアムをひと目見よう」と、大勢の観光客が集まり、球団や旅行会社も手慣れたようにツアーを組み、人々を誘う。新たなヤンキー・スタジアムは収益性もしっかりと計算し、運営されているわけだ。

『スタジアムミシュラン』ヤンキースタジアム#03より引用

ヤンキー・スタジアムのグレートホール By Y2kcrazyjoker4, CC BY 3.0,

ヤンキー・スタジアムにあるハードロックカフェ By Marco Verch, CC BY 2.0,

飲食や物販、観光などは、定常的な稼働につなげやすい。野球がなくても成立する事業の誘致は、スタジアムの経営にもつなげられる。

 

ビジネス拠点も含め、多機能を複合

スイス・バーゼルのサッカー専用スタジアム「ザンクト・ヤコブ・パルク」は、地下3階建てのショッピングモールに加え、高齢者居住施設や、フィットネスクラブ、オフィスなどを併設している。

さまざま機能を複合したスイス・バーゼルのサッカースタジアム「ザンクト・ヤコブ・パルク」- Google Earth より

商業施設の収益はサッカー収益とほぼ同等で、スタジアム収益の約3割にあたるという(以上、スタジアム・アリーナ改革ガイドブックより)。野球よりも試合が少ないサッカーのスタジアムということもあるが、スタジアムの経営を考える上で参考にしたい事例だ。

ザンクト・ヤコブ・パルクの外周部分 By Luca-bs, CC BY-SA 3.0,

 

大きなグラウンドを活かすイベント

スタジアムの特徴でもある広大なグラウンドは、コンサートや展示会などでも活かすことができる。

米・フィラデルフィアにあるフィリーズの本拠地シチズンズ・バンク・パークでのコンサート・イベントの様子 By slgckgc, CC BY 2.0,

イベントの事例は、東京ドームや福岡ドームといった、屋根付きスタジアムに多い傾向がある。全天候型によってグラウンド部分の活用の幅も広がるようだ。

アメリカンフットボールの試合でも活用される東京ドーム東京ドームで毎年開かれている「世界らん展」 By Newspace, CC BY-SA 3.0,

商業施設やオフィス、興行などで多機能化を図る場合、それぞれに相応の経営力も求められるが、スポーツとの相乗効果を発揮してスタジアムの経営につなげることも可能だ。

 

公共の場として

経営とは少し離れるが、「公共」を高めるという考え方もある。

デッキやコンコース、スタンドを、試合日以外には散策やジョギングに向けて開放したり、周辺の公園をピクニック向けに整備することもできるだろう。大阪府の吹田サッカースタジアムが緊急時の避難所として、飲料水や毛布などの備蓄物資を保管するなど防災拠点としての必要機能を盛り込んだのも、公共のひとつの形だ。

緊急時の避難所としての活用も想定されている吹田サッカースタジアム(左下)。最寄り駅(右端の緑の屋根)との間には、大型のショッピングモールも整備されている。- Google Earth より

この吹田サッカースタジアムは、最寄り駅からの経路に大型ショッピングモールを整備するなど、周辺エリアて開発で複数の機能を盛り込んでいる。スタジアム本体だけでは必要な機能が盛り込め切れない場合には、周辺エリアも含めて多機能化していくという考え方もあるだろう。

 

野球がない日にも、人が集まるスタジアム。

それは、いろいろな人が、いろいろな形でスタジアムを活用できることを意味している。

飲食などの商業施設として捉える、ビジネスの拠点にする、興行そのものを増やす、公共性を高めるなど、さまざまな方向性がある。

機能を複合していくことで、スタジアムは試合がなくてもアクティブになり、都市において果たす役割を増やしていく。
(了)

【都市科学メモ】
スタジアムの役割
・野球がない日にも人を集める
生まれる価値
・経営の向上
・公共性の向上
・都市における、シンボル度合いの向上
デザインするもの
・野球以外の活用ができる空間
問い、視点
・野球がない日にスタジアムを活かすには、どんな形があるだろう?
・スタジアムには野球に関する以外のどんな機能を盛り込むことができるだろう?
具体例
・飲食店
・観光地化
・大型イベントの開催
・ビジネス拠点
・公共スペース
・防災拠点
「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
アーバン・サイエンス・ラボ記事一覧
「スタジアム編」では、「スタジアムは、都市において、どんな役割を果たすのだろう?」という問いを立て、さまざまな事例を調査、意味付け、整理して紹介しています。
「都市を科学する〜スタジアム編〜」記事一覧
【参考・関連サイト】
スタジアム・ミシュラン 「ヤンキースタジアム#03」
スタジアム・アリーナ改革ガイドブック
【Theory and Feeling(研究後記)】
本音を言えば、記事を書きながらあまりイメージが沸かなかったです。

試合がなくても人が集まるスタジアム。日本には事例がそれほど多くなく、自分で見たことがないというのもあります。(唯一、経験したことと言えば、学生時代に大阪ドームで行われた「合同就活イベント」のようなものに参加したくらい。出展者から聞いた話は忘れましたが、ベンチのホワイトボードの出場選手欄に「ブライアント」といたずら書きされていたのは憶えています)。

海外のスタジアム、見に行きたいなぁ、と思う今日このごろです。