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スタジアム×都市
#06
都市を
更新する

text : akihiro tani, illustration : yuki

スタジアムは大型の建造物。
周辺の都市の状況にも、
大きな影響をもたらす。
新しくつくるならば、
なおさらのことだ。

スタジアム開発は、
都市を更新する機会になる。

 

 

北海道日本ハムファイターズが2018年11月、新しい本拠地となる北海道北広島市につくる「北海道ボールパーク」の建設計画を発表した。テーマは「世界がまだ見ぬボールパーク」。天然芝と開閉式屋根があるスタジアムを中心に、ライブエンターテイメントの提供を目指す。バーベキュー場やキャンプ場、宿泊施設、商業施設、駐車場なども展開する一大構想だ。

「北海道ボールパーク」の完成イメージ図(株式会社北海道ボールパーク提供)

建設予定地の「きたひろしま総合運動公園予定地」は、現状では森林や草地が大部分。整備が必要とされる交通アクセスも含めて、周辺エリアは大きく様変わりすることになる。

きたひろしま総合運動公園予定地とその周辺(google earth より)

スタジアムの建設はこのように開発、もしくは再開発の中心となり、都市を更新する意味を持つ。

 

環境や治安の課題を解決

国外に目を向けると、その都市に長年あった課題を解決する契機となった事例がある。

2012年のロンドン五輪の会場となった「クイーン・エリザベス・オリンピック・パーク」は建設時に、工業活動で深刻化していた土壌汚染を浄化するとともに、外来種の除去と、在来植生の再現に取り組んだ。

スタジアムの周辺に広がる公園。工業地帯で汚染されていた土壌の再生に取り組んだ
By The Department for Culture, Media and Sport – 2012 Gardens, CC BY 2.0,

五輪後には、イギリス最大のパブリック・アート作品となる鉄塔、アルセロール・ミタル・オービットを中心に、大型の都市公園を形成。選手村を数千室のアパートに転換し、教育機関の誘致や最新テクノロジーの導入、市民菜園の復活など計画が、一部をすでに実現しながら着実に進行している。ロンドン東部の再開発の象徴になっている。

同じくロンドンの「ウェンブリー・スタジアム」も、開発が遅れたスラム的な工業地帯を再開発した。米カリフォルニア州サンディエゴの「ペトコパーク」は、倉庫街で治安問題があった場所にコンベンションセンターと合わせて建設。米マサチューセッツ州ボストンの屋内競技場「TDガーデン」も、ホームレスが多く治安に不安があったエリアを更新した。こうした、スタジアム開発を大都市の課題解決につなげた事例は、スタジアム・アリーナ改革ガイドブックで確認できる。

ウェンブリー・スタジアム By Thomas Nugent, CC BY-SA 2.0

地域の新たな拠点に

小規模な地方都市になると、治安や環境といったネガティブな問題の解決よりも、新たな賑わいを創出する事例が目立つ。

岩手県紫波町の「オガール紫波」は、駅前の町有地にバレー専用体育館、フットボール場、図書館、ホテル、産地直売の市場等を整理した複合施設。飲食店や歯科、眼科などの民間テナントも入り、人口3万3千人の町で官民連携の拠点になっている。

さまざまな機能を複合したオガール紫波(写真提供:たっしー@shiwagurashi)

新潟県長岡市の長岡駅近くにある「アオーレ長岡」は、バスケットボール1部Bリーグのホームアリーナに、市役所機能や文化交流施設を複合した。エリアに足りないものの「補完」という役割を果たした形だ。

アリーナと市役所機能や文化交流施設を複合した「アオーレ長岡」By Kzaral – Nagaoka, Niigata, CC BY 2.0

いずれもスタジアムより小規模だが、スポーツ施設の他の機能との複合化や、都市に対して果たす役割のあり方として興味深い。

都市を科学する〜スタジアム編〜の連載05で紹介した、「スポーツで地域の課題を解決していく」という考え方を体現している。

 

都市空間だけでなく、都市の人の関係性も

スタジアムは、都市の空間だけでなく、さまざまな立場の人たちの関係性も更新する。さまざまな立場の人がステークホルダーになるからだ。

約140億円の建設費のうち105億円以上を、法人や個人からの寄付で賄った大阪市立吹田サッカースタジアムを、その例として考えてみたい。

同スタジアムは、募金団体が個人や法人から集めた寄付金を助成金と合わせて建設し、完成後に吹田市に寄贈した。運営と管理は、J1のガンバ大阪が指定管理者としておこなっていく。

寄付金を募って建設された吹田スタジアム。By Waka77, CC0

寄付金が目標額に達した背景には、減税措置の活用により、寄付をしやすい枠組みとしたことがあるようだ。たとえば個人での寄付は、ふるさと納税の制度によって、所得税や住民税の控除の対象となる。

同時に、公民連携の関係性を成立させたと考えることもできる。建設、所有、運営・管理をのすべてを行政やクラブが一括してやるのではなく、「建設」の部分においては、誰でも参加できる「寄付」という余白を設けた形だ。寄付によってスタジアムづくり関わることで、完成したスタジアムへの愛着や思い入れにつながってくる部分もあるだろう。

 

都市をどう、更新するのか

スタジアムの建設は、「課題解決」や「価値創出」によって、都市の空間や人の関係性を更新する大きなチャンスになる。

「大都市」と「地方都市」、あるいは「中心部」と「郊外」といった立地、「新規開発」か「再開発」かなどによって、アクセスすべきポイントは変わってくる。

更新によって生まれる変化には、騒音や振動、交通渋滞、来場者のマナー違反等のマイナス要素も含まれ、功罪の両面があるだろう。

だからこそ、「どんなスタジアムをつくるのか」だけでなく、「スタジアムによってどんな都市にしていくのか」という”問い”が重要になる。
(了)

【都市科学メモ】
スタジアムの役割

・都市を更新する

生まれる価値

・都市の課題・問題の解決
・新たな価値や拠点の創造
・ステークホルダーの新たな関係

デザインするもの

・都市の未来像と実現までのスキーム

問い、視点

・スタジアムをつくることで、どんな都市にしたいのか?
・スポーツで解決に寄与できる課題は何か?

具体例
・スタジアム新設による、治安や環境などの問題の解決
・複合スポーツ施設で、地域に足りない機能を補完
・募金によるスタジアムづくりへの参加
「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
アーバン・サイエンス・ラボ記事一覧
「スタジアム編」では、「スタジアムは、都市において、どんな役割を果たすのだろう?」という問いを立て、さまざまな事例を調査、意味付け、整理して紹介しています。
「都市を科学する〜スタジアム編〜」記事一覧
【参考・関連サイト】
北海道ボールパーク
スタジアム・アリーナ改革ガイドブック
進化し続けるロンドン五輪の「夢の跡地」クイーン・エリザベス・オリンピック・パーク
「スタジアムから地方を活性化!スポーツが地方創生の起爆剤となるか」(AZrena)
驚愕したガンバの新スタジアム。募金140億円で作った“手づくり感”(JリーグPRESS)
吹田サッカースタジアム――公共施設の新しいつくり方(新・公民連携最前線)
【Theory and Feeling(研究後記)】

好きなチームがもし、新しいボールパークやスタジアムをつくることになったとして、建設費の募金があったら、ぼく自身はどんな風に協力できるだろう? 協力できて良いスタジアムができたら、どんな気持ちになるのだろう?

そういうお金の使い方も、案外いいものかもしれないな、と思いました。