移動×都市
#07
“ひろば”になり得る
“みち”をつくる
人や車が
移動するために、
都市には「みち」が
つくられる。
では、その「みち」は、
移動のためだけの
ものなのだろうか。
コロナ禍で「みち」が「ひろば」に
横浜市中区の「関内桜通り」で2020年の夏から秋にかけ、「かんないテラス」という試みが繰り返された。
ビジネス街の道路に、近隣店舗からテイクアウトした飲食物を楽しめるテラス席を設ける企画だ。
また、数百メートル離れた「みなと大通り」では同年秋、車道を狭めて歩道を広げる道路活用実験「みっけるみなぶん」も行われた。
4車線の車道にせり出した木造スペースにはテーブルやクッション、植物などが設置され、飲食スペースやこどもの遊び場として、自由に活用されていた。
道路を滞在場所として活用すること自体、それほど目新しいことではない。
歩行者天国やお祭りもそうだし、ひと昔前は車通りの少ない路地が遊び場だった。
そして、コロナ禍に見舞われた2020年以降、その価値や可能性があらためて見直されているのではないだろうか。
移動するための「みち」という空間は、滞在するための「ひろば」にもなる。
この連載のテーマである「移動」を主語にすれば、「移動は、都市に、“ひろば”になり得る“みち”をつくる」と言うこともできる。
移動する人がいるから「みち」がつくられ、その「みち」が「ひろば」になるからだ。
「みち」と「ひろば」は混ぜる?分ける?
さて、「みち」が良い「ひろば」を兼ねるために、重要なことは何だろう?
まずは、「“みち”を“ひろば”に変えてしまっても、移動する人や車が困らない」ことが必要だ。
移動する人や車の量に対して「みち」が十分に広ければ、その余白を「ひろば」にすることができる。
移動する人や車が少ない時間帯があり、不便ではない迂回路が確保できれば、「みち」を完全に「ひろば」にしてしまうこともできるだろう。
また、空間と時間を「みち」と「ひろば」でどう分け合うのかも重要だ。
「みち」を一時的にでも、完全に「ひろば」にするのか。
「みち」を部分的に切り出して、「ひろば」として使うのか。
あるいは、「みち」と「ひろば」が混ざりあったような空間をつくるのか。
このあたりは、「みち」を通る移動手段の特性とも大きく関わってくる。
たとえば、速くて大きな車は「ひろば」からは明確に区切った方が良い。
歩いている人や、低速で安全な小型モビリティなどは、「ひろば」の人の近くを、時には混じり合いながら移動することで、生み出される価値もあるだろう。
そして、「ひろば」として快適に過ごせるための「しつらえ」も重要なポイントだ。
椅子やテーブル、木陰、遊具、アトラクションなどによって、「ひろば」にどんな機能を持たせるのか考える必要がある。
公園内の動線のように、元から「みち」と「ひろば」を兼ね備えやすいつくりになっている空間もある。
余裕と、棲み分けと、しつらえ。
すでにある「みち」を「ひろば」として使いたいとき、あるいは、「ひろば」にもなる「みち」を新たにつくるとき、これらの要素をどう担保するのか、考えることになる。
あるいは新しく「みち」をつくるということは、潜在的な「ひろば」をつくっていることだと考えても良いかもしれない。
「みち」が「ひろば」になる価値
最後に、「みち」が「ひろば」になることの意義を、あらためて考えてみたい。
「ひろば」を兼ね備えることは、移動だけに最適化した空間ではなくなることを意味している。
だから、これまでの連載で見てきた中で、「#01 人の所在地を変える」にはマイナスに働くとも言える。
一方で、「#02 ホームを都市に広げる」「#04 都市の風景をつくる」「#06 何かとの出会いを期待させる」という意味では、大きな付加価値を生み出すのではないだろうか。
それはきっと「快適さ」とは別の形で、「都市の人の楽しみ」をつくっていくはず。
オンライン通信やパーソナルモビリティが発展する未来を考えてみると。
「ひろば」を兼ねる「みち」が、もっと都市に増えていくのかもしれない。
(文章:谷明洋、イラスト:佐野敦彦)
【都市科学メモ】
●関連するパラメータ
「みち」の「ひろば」としての価値、交通量の余裕、モビリティとの距離感、「みち」と「ひろば」の棲み分け度合い
●浮かび上がる問い
目の前の「みち」は、どうすれば、どんな「ひろば」になるだろうか?
【関連サイト】
かんないテラス
みっける みなぶん(Facebook)
「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
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「移動編」は、「都市の暮らしの中での移動」の意味をさまざまな角度から考察・意味づけし、これからの都市での移動を考えるヒントをさぐります。
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