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移動×都市
#05
要所をつくり
群衆を生み出す

 

駅は都市の人の「要所」だ。
電車に乗る人が必ず経由し、
駅には賑わいが生まれる。

都市の移動が持つ、
「要所に群衆を生み出す」
という性質は、
どう変わっていくだろう?

 

都市には、移動したい人が移動手段と出合うための場所がある。

移動したい人にとっての「要所」。

代表的な例が、駅だ。

電車で移動する人は必ず、駅の改札を通る。横浜駅 By 運転太郎, CC BY 3.0

 

電車に乗る人、電車を乗り換える人、電車からバスやタクシーへ乗り継ぐ人。

たくさんの人たちの「経由地」である駅は、店舗やサービスを展開する商業の好立地となる。

駅は結果として「経由地」だけでなく、商品やサービスを受ける「目的地」にもなり得るので、さらに多くの人が集まるようになる。

1日平均200万人以上が乗降する横浜駅を囲むように、商業ビルが並ぶ。google earthより

 

都市の移動はこのように、群衆が集まる場所を生み出す性質がある。

その群衆は「賑わい」や「商業人口」のようなポジティブな意味も、「過密」や「消耗・ストレスの要因」のようなネガティブな意味も持ち得る。

ネガティブな「感染リスク」が急にクローズアップされたのが、2020年のコロナ禍だ。

横浜駅の商業エリアの賑わい。By 運転太郎, CC BY 3.0

 

さて、そんな移動する人たちがつくる群衆は、時代の流れや移動手段の変化に伴って、どう変わっていくだろう?

 

移動する人自体が減る

まず考えられるのは、移動する人の数自体が減っていくことだ。

連載第1回で書いたように、コロナ禍からのテレワーク化の加速や、VR等の技術の進歩で、それ自体が目的ではない移動は減っていく。

また、特に地方であれば、そもそも人口そのものが減っているという現実もある。

コロナ禍で閑散とした2020年5月の渋谷駅前。By Asanagi – Own work, CC0

 

群衆化しない、個人移動が増える

もうひとつ考えられるのは、個人単位で自由に移動できるようになっていくことだ。

たとえば自家用車が普及すれば、群衆は駅前商店街から、幹線道路や郊外のショッピングセンターに移る。

車社会における「要所」である幹線道路に、大型店が並ぶ

車社会で群衆が形成される郊外のショッピングセンターも、移動の「要所」ではない。AC写真

 

その流れは、自動運転やパーソナルモビリティの発達によって加速するだろう。運転技術を持たない人も自由に移動ができるからだ。

あるいは情報流通の工夫を組み合わせ、出発地と目的地に応じる乗り合いタクシーが一般的になることも考えられる。人と移動手段の出合いが、「駅」や「バス停」という物理的な場所ではなく、「テクノロジー」によって実現するのだ。

自動運転やパーソナルモビリティが一般的になったら、移動がつくる群衆はどう変わるだろう?Pixabay License

 

これからも群衆を生む「要所」であり続けるか? という問い

移動手段の選択肢が増え、個別最適な自由移動も可能になり、そもそも移動の必要性が下がっていく。

「バスと電車を乗り継ぐ以外に手段がないから、混んでるのは嫌だけど駅を使わざるを得ない」という状況は、どんどん過去のものになっていくのだ。

 

そんな未来における「要所」には、「より多様な移動手段が接続する」ことや、「過密によるストレス・消耗を緩和する」こと、そして「要所自体を楽しいものにすること」が求められるのではないだろうか。

 

少し、考えてみたい。

いま、あなたの目の前にある移動の「要所」は、これからも「要所」であり続けるだろか?

 

大都市圏であれば、それでも答えはYesのことが多いかもしれない。

鉄道駅中心の人の流れが変わっていくことは、現実的にすぐには考えにくいからだ。

それならば「経由地」として、過密やストレスを緩和しつつ、どんな価値を提供することができるのかを考えたい。

「要所だから集まっている」だけの状態は、生産的でも創造的でもない、消耗の状態だからだ。

 

地方の都市を中心に、答えがNoであるケースも少なからずあるだろう。

都市間の長距離移動はさておき、暮らしの中での移動は個別の移動にシフトしていく流れがあるからだ。

これまでの「経由地」は、賑わいを諦めるか、新たに「目的地」としての魅力や機能を備えるか、という選択になる。

少し具体的に「車社会になって鉄道利用者が減っても、駅前商店街の賑わいを保つのか? 保つならばどうやって? 何のために?」という問いを考えてみても良いだろう。

個人の自由な自力移動が浸透すれば、駅などの「要所」が群衆を生み出す性質は小さくなり、人を集めるためには別の魅力や機能が必要となる。AC写真

 

「経由地」よりも「目的地」として

本稿で扱った「群衆を生み出す」という移動の性質が変わっていくことは、都市にとって「駅の集客力が下がる」「中心地の賑わいを失う」と、ネガティブに映るかもしれない。

でも同時に、「駅の魅力を高める余白ができる」「多中心の都市に変えていくことができる」と考えることもできるはずだ。

 

ポジティブに作用する群衆をつくるために大切なのは、「経由地」であることよりも「目的地」としての魅力があること。

移動の「要所」であることを活かすのは良いが、それに依存しすぎてはいけない。

(文章:谷明洋、イラスト:佐野敦彦)

 

【都市科学メモ】

●関連するパラメータ
場所の要所度合い、移動手段の規模、群衆規模・密度、接続する移動手段の多様性、場所の魅力、群衆のポジティブな価値、群衆のネガティブな価値、移動が必要な人の数、移動手段との出合いを求める人の数、自力で自由な移動ができる人の数、利便性、移動手段の選択肢、パーソナルモビリティ

●浮かび上がる問い

いま目の前にある群衆の中で、「経由地として通過しているだけ」の人の割合はどのくらいだろう?
その人たちは群衆の一部となることで、どんなネガティブな価値と、ポジティブな価値を受けているだろう?
いま目の前にある移動の「要所」は、これからも移動の「要所」であり続けるだろうか?
「要所」でなくなっても賑わいをつくるためには、どんな機能や魅力を実装すれば良いだろう?

 

「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
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「移動編」は、「都市の暮らしの中での移動」の意味をさまざまな角度から考察・意味づけし、これからの都市での移動を考えるヒントをさぐります。
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