移動×都市
#04
都市の風景を
つくる
通勤電車の車窓からと、
自転車を漕ぎながら。
電車が走っている都市と、
自転車が多い都市。
移動は都市を眺める視点にも、
都市の風景の一部にもなる。
都市の風景は、移動の経路や手段によって、見え方が変わってくる。
当時に、移動する人や乗り物は、都市の風景の一部でもある。
そうして考えると、移動は、2つの意味で都市の風景をつくっていると言える。
都市の見え方を変える移動
まずは、都市を眺める視点となる移動について。
たとえば、郊外の住宅街にある自宅から、数km先の商業地へ移動するケースを考えてみよう。
手っ取り早く電車やバスに乗れば、車窓からの風景は、戸建て住宅が多いエリアから賑やかな看板が目立つように変わっていくだろう。
もしも地下鉄だったら、都市の風景は見えないから、点から点へとワープするような感覚になる。
たまに自転車に乗ってみれば、裏道になっている旧街道や、川沿いの道などのコースを選ぶことができる。
もっとゆっくり歩けば、1時間以上がかかるかもしれないが、いろいろな発見のチャンスも増える。
移動の手段や経路によって、都市を眺める角度やスピードが変わり、異なる物語が紡がれるのだ。
近年、某ゲームのコスチュームを真似たミニカートで街を散策すると言うアトラクションがある。商標の問題はさておき、カートのような低い視点から眺めると、ビルの高さ等はいっそう際立つのではないだろうか。
横浜では、街中を流れる川をカヤックで散策するプログラムがある。川面から街を眺め、普段は渡っている橋を下から見上げる体験は、住み慣れた街にも新しい印象や発見をもたらすようだ。
2階建てで天井がないバスも、ちょっと違った視点から街を眺められる例。東京都心を巡る観光バスや、ロンドンの2階建てバスがそれにあたる。
これらは生活の中の移動というより、観光やアトラクション、エンターテイメントの要素が強い。
だとすれば、生活の場である都市は、移動の方法次第でもっと楽しく眺められるのかもしれない。
風景の一部となる移動
さて今度は、移動が風景の一部になることを考えてみよう。
都市で人が移動している風景を切り取るとしたら、どんな移動手段そこにあるだろう?
車線や駐車場が広ければ、車社会の印象。
たくさんの電車が行き交えば、大都市の忙しさ。
電車や車以外の交通手段があれば、個性的な印象を与える。
路面電車や、小舟、馬車、気持ちの良い歩道や自転車道。
そんなキーワードから思い起こされる都市の風景が、実際にいくつもある。
都市の移動は風景の一部として、住む人の誇りや原体験、あるいは外への発信力になっていくのだ。
どんな都市の風景をつくりたいのか
新型コロナウィルスの影響もあり、絶対的に必要でない移動には、オンラインなどの代替手段が生まれ始めている。
だとすれば現実の都市空間では、移動の付加価値をもっと重視しても良いのかもしれない。
「都市の風景をつくる」ことは、そんな付加価値のひとつではないだろうか。
考えるのは、都市に住む人というより、都市をつくっていく立場の人たちだろう。
暮らす人に、そして外から来る人に、都市をどう見てほしいのか。
そんな問いが、都市に備えるべき移動の姿を考えるヒントになる。
(文章:谷明洋、イラスト:佐野敦彦)
【都市科学メモ】
●関連するパラメータ
移動経路、視点の変化度、移動のスピード、視界の開放度、景観としての価値、発信力、シビックプライド
●浮かび上がる問い
どんな角度や経路から都市を眺めたら面白いだろう?
移動手段によって、どんな都市の風景をつくりたいだろう?
都市をどんな風に見てもらいたいだろう?
「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
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「移動編」は、「都市の暮らしの中での移動」の意味をさまざまな角度から考察・意味づけし、これからの都市での移動を考えるヒントをさぐります。
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