移動×都市
#02
ホームを
都市に広げる
移動は、都市において、
どんな意味を持っているのだろう?
連載2回目は、
日常で繰り返す移動を考えたい。
都市のあちらこちらが、
“ホーム”と感じられる場所になる。
繰り返す移動を、考える
暮らしの中で毎日のように、あるいは定期的に、繰り返し訪れる場所がある。
学校や会社。行きつけの食堂や飲み屋。近くのコンビニ。”たまり場”になっている友達の家なんかもあるかもしれない。
前回記事は、移動を「存在する場所が変わる」こととして考えた。
「移動は、目的を果たすための手段であり、情報通信などの代替手段が増えている」と考察した。
一回の移動の「前・後」というの2つの瞬間から、意味付けをしたのだ。
今回はもう少し長い、数ヶ月から数年という時間軸で、反復して重ねる移動の意味を考えてみたい。
都市が自分のホームに
結論から言ってしまうと、日常で繰り返す移動は、人の”ホーム”を都市に広げてくれるのだと思う。
ここで言う”ホーム”とは、その人が属している、馴染んでいることを感じられるような場のこと。
安心感、所属感、居場所感などを自然と感じられる空間、と言ってもよい。
現代の都市の暮らしは、生活の一部を、他者と共有することが多い。
行きつけの食堂はキッチン。
喫茶店はリビングや書斎。
銭湯をバスルームの代わりにすることもある。
繰り返し訪れ、時間を過ごすことによって、親しみが湧き、居場所となる。
(もちろん、訪問先との相性のようなものにもよるだろうけれど)
家と同等以上の安心感や居心地を感じることもあるだろう。
こうして、人の“ホーム”が都市に拡張していく。
たとえば、しばらくぶりに故郷に帰省すると、駅を降りた瞬間に「帰ってきた」と感じることがある。
それは、馴染みのある駅がすでに自分の”ホーム”の一部であり、また、外の世界の接点となる「玄関」代わりになっていると考えることができる。
点と点から、線、面へ
都市をホームと感じられるようになるには、点から点への、単発の移動では難しい。
生活の中で繰り返して訪ね、体験を重ねることで、馴染み感や居場所感が増していく。
同時に、点と点を結ぶ線、つまり移動経路も意味を持ってくる。
すでにホームとなっている拠点(たとえば家)との距離感や位置関係が分かることで、ホームはただ「増える」のではなく、つながりを持って「広がる」ことになる。
複数の点の間で、複数の線が結ばれ、互いの位置関係が分かり、面になっていく。
それは、自宅の、リビングとバスルームと寝室の位置関係を把握するような感覚かもしれない。
だから都市をつくる側は、居場所になり得る場所を点在させるだけでなく、その複数の点を結ぶ線をデザインすることが大切になる。
リビングとバスルームだけでなく、その2つを結ぶ廊下も快適であってほしいのと、同じことだ。
仮想空間もホームの一部に
さて、ホームの拡張は、前回紹介したオンライン上でも感じることができるだろうか?
答えはYESだろう。
大切な人とのテレビ電話や、オンライン上のコミュニティなどは、仮想空間にある立派な居場所だ。
もちろん、“ホーム”だと感じられるようになるには、繰り返し訪れて馴染んでいく必要はあるだろうけれど。
ネットサーフィンも、馴染みの場所を巡回したり、都市に楽しそうな場所を求めて散策したりするのと似ている。
ただ、前後の移動時間のようなものが発生しにくい分、「広がり」のようなものは感じにくいかもしれない。
物理的な距離が関係ないホームを得られるのが、オンラインの特徴だ。
ホームを拡張したい欲求を満たす
実際の都市空間とオンライン上に、いくつかの居場所があり、それぞれが「移動」によってつながっている。
それが、現代の都市で暮らす人たちが抱く、ホーム感なのではないかと思う。
繰り返す移動によって、都市そのものが、人のホームになっていく。
それは、必要な「機能」を「生活圏」に取り入れ、便利にしていく意味もあるだろう。
でもそれ以上に、人間には「居場所を増やし、ホームを拡張したい」欲求があるのではないかと思う。
そんな欲求を満たしてくれるのが、日常の中で繰り返す「移動」だ。
あなたがホーム感を覚える範囲は、どう広がっているだろうか?
(文章:谷明洋、イラスト:佐野敦彦)
【都市科学メモ】
●関連するパラメータ
ホームの範囲、ホーム感、安心感、馴染み感、居場所感、繰り返し量
●浮かび上がえる問い
人がホームだと感じる範囲は、どのように広がっているだろう?
どんな移動が、人がホームだと感じる範囲を、広げてくれるだろう?
人が都市をホームだと感じられることには、どんな価値があるだろう?
「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
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「移動編」は、「都市の暮らしの中での移動」の意味をさまざまな角度から考察・意味づけし、これからの都市での移動を考えるヒントをさぐります。
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