移動×都市
#01
人の所在地を
変える
都市の暮らしの中の移動は、
どう変わっていくのだろう?
都市を科学する連載の新シリーズは「移動」。
通信、自動運転、感染症対策、働き方。
移動に関わる社会の変化は加速的だ。
人が「動く」意味を整理し、
都市の未来のヒントをさぐる。
点から点へ、「動い」て「移る」
都市の中を、人が移動するとは、どういうことだろう?
一番シンプルな意味は、その前後で「存在する場所が変わる」ことだろう。
自宅から学校へ。
会社から取引先へ。
昼休みには食堂へ。
暮らしの中での移動は、移動先に何かしらの目的があることが多い。
たとえば、学校で時間を過ごすこと、取引相手と交渉すること、食堂で昼食にありつくこと。
そのために点から点へ「移る」必要があり、だから「動く」のだ。
この場合の移動は、「コスト」でもある。
満員電車に乗ったり、タクシーを捕まえたり、炎天下や雨の中を歩いたりして、時間や金銭や体力を消耗する。交通事情による遅延や、事故に巻き込まれる「リスクを負うこと」も、コストの一部だ。
もちろん時には、友達と話しながらの通学が楽しかったり、秋晴れの外回りが心地よい運動不足解消になったりと、移動自体が意味を持つこともあるだろうけれど。
日常生活の中での移動は多くの場合、目的を果たすための手段として、コストを払っておこなっている。
発展し続ける移動の代替手段
ならば、移動せずとも目的を果たせるようにしてしまおう。
そうして、さまざまな仕組みやテクノロジーが生み出されてきた。
分業、通信、輸送。
情報や小さな荷物を、かつては飛脚や伝書鳩に託したことがあった。
会話は、電話や無線通信によって対面せずとも成立するようになった。
今は、オンライン学習、スカイプ会議、宅配サービス、amazon、ライブ中継、クラウド、チャットツール、リモートワーク、電子決済、バーチャルリアリティー…。
オンラインテクノロジーの活用は、新型コロナウイルスの「感染リスク」が移動コストに加わった2020年、さらに加速した。
「オンライン」は、「リアルな移動」に対し、得られる価値の差を縮めていくだろう。
それでも残る「移動」の価値は?
とは言え、その差はゼロにはならない。
というよりもはや、「オンライン」は「リアルな移動」の代替手段にとどまらず、新たに異なる価値を生み出し得るものだと考えるべきではないだろうか。
だとすれば、直接訪ねて、話して、見聞きして、その空間で過ごすことにも、確かな価値がある。
だからリアルな移動だってなくなることはないだろうし、「どこでもドア」は夢物語だとしても、コストやリスクを下げる自動運転のような技術が実際に研究されている。
それに、移動には「存在する場所が変わる」だけにとどまらない、それ自体の価値もあるはずだ。
「行く必要ないね」と「せっかくだし行こう」
暮らしの中での「移動」は“どこへ行く”のだろうか?
「わざわざ行かなくても、事足りるよね」は、確実に増えていくだろう。
さして重要でない会議は、テレビ電話やチャットツールで十分だからだ。
同時に、「せっかくだから、行こう」も、増えるのではなかろうか。
行くことで得られる確かな価値があり、安全快適な自動運転車を持っていれば、積極的になれるからだ。
「行かないと目的が果たせないから」という仕方のない移動が減り、「行きたいから」という能動的な移動が低コストで実現するなら、それは良いことだ。
人は「移動」を通じて都市と関わる。
変化し続ける「価値」や「コスト」を整理して、これからの「移動」を考えてみたい。
建築の範疇を超えているかもしれないけれど、建築が生み出す「人の居場所」を考える上で重要な要素だと思うのだ。
感染症のこともあって、移動を取り巻く状況が大きく変わりつつある今だからこそ、あらためて考えてみたい。
都市において、移動が果たす役割は、どう変わっていくのだろう?
(文章:谷明洋、イラスト:佐野敦彦)
【都市科学メモ】
時間コスト、金銭コスト、エネルギーコスト、リスク、通信等の代替手段との差異、移動中に得られる価値、移動先で得られる価値、移動自体の目的度
「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
アーバン・サイエンス・ラボ記事一覧
「移動編」は、「都市の暮らしの中での移動」の意味をさまざまな角度から考察・意味づけし、これからの都市での移動を考えるヒントをさぐります。
「都市を科学する〜移動編〜」記事一覧