小屋×都市
#06
移動する
小屋
移動の可否や方法は、
小屋の性格を大きく左右する。
「どんな」移動を「なぜ」したいのか。
不動産ではなく動産としての、
小屋について、考えた。
まずは、小屋が移動する方法を、大まかに考えてみたい。
自走車両の内部を活用する、荷台部分を活用する、牽引する、輸送してもらう、解体して運ぶ、などがある。
自走車両をそのまま使う
たとえばキャンピングカーのように、移動能力がある車両の内部を小屋に改造すれば良い。
走行中も小屋空間を利用できる、まさに「動く小屋」になる。
軽トラックの荷台を改造し、小屋を載せる方法もある。
荷台の小屋部分は走行中には使えないけれど、安価に手に入れることができるし、小屋部分を着脱可能にすれば「普段は軽トラック、必要なときはモバイルハウス」という使い方が可能だ。
トレーラーを車で牽引する
牽引車両を使うトレーラーハウスも、ひとつの手だ。
牽引されるトレーラー部分には、いろいろな形がある。
走行中にトレーラー部分に乗車するのは現実的に難しいが、家と車の着脱は容易だ。
輸送しやすいコンテナを活用
もともと輸送用に作られた、コンテナを活用することもできる。
コンテナに規格を合わせた家をつくるのも良い考えだ。
車両をそのまま使うのに比べ、小回りは利かないが、トラックや船で移動させることができる。
解体して移動
解体と組み立てを容易にしておくのも、ひとつの考え方。
よく考えれば、遊牧民のゲルをはじめとするテントの系統に通じるところがあるかもしれない。
「移動する小屋」の形はいくつかあり、それぞれに 長所と短所がある。
移動する小屋が「なぜ」ほしい?
「移動する」というのは、連載のテーマである「どんな小屋が、なぜほしい?」という問いの、「どんな」の部分への答えであることが多い。
では「なぜ」、移動する小屋がほしいのだろう?
人と交流したければ(連載#03で紹介)、いろいろな場に出かけられることが大きなアドバンテージになる。
旅をしながらの暮らしや、自由なキャンプを楽しみたい人もいるだろう。
ちょっとした隙間の土地を使うことにも向いているし、「車両」の条件を満たせば固定資産税がかからないという現実的なメリットもある。
将来は自動運転の普及により、運転席が不要になった自動車の空間そのものが小屋に進化し、移動時間を有効活用できるようになることだってあり得る。
土地に縛られない遊牧的な生き方
小屋が移動するということは、「住居」や「店舗」などといった機能が、人とともに移動することだ。
土地に根ざして農耕を営む人が大半だった時代から、仕事の内容が多様化し、通信とネットワークの発展で所在地の重みも小さくなりつつある現代。
加速する“遊牧的”な生き方への志向の高まりが、「移動する小屋」へのニーズに現れているのかもしれない。
(了)
<文:谷明洋、イラスト:千代田彩華>
【都市科学メモ】 | |
小屋の魅力 |
移動力を備えることができる |
生きる特性 |
車両との接続、小ささ、解体と組み立ての容易さ、規格 |
結果(得られるもの) |
遊牧的な生き方(複数拠点での交流、旅する暮らし、自由なキャンプ)、遊休地の一時活用、建造物でないことによるメリット、有効活用できる移動時間 |
方法、プロセスなど |
最適な移動形態を選ぶ 自走車両の内部を活用する、荷台部分を活用する、牽引する、輸送してもらう、解体して運ぶ、などの移動形態がある。それぞれ移動しやすさや、実現可能な大きさなどが変わってくるので、メリットとデメリットを比較する必要がありそうだ。 |
必要な法規を確かめる |
「都市を科学する」の「小屋編」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内で都市を科学する「アーバン・サイエンス・ラボ」と、「住」の視点から新たな豊かさを考え、実践し、発信するメディア「YADOKARI」の共同企画。人や社会が「どんな」小屋を「なぜ」求めているのか、調査・分析・考察しながら連載します。
【Theory and Feeling(研究後記)】 |
「移動」自体はなかなか目的になりにくくて、どちらかと言えば「手段」の意味合いが強いからでしょうか。 今回は書いていて、頭の整理に近かったです。「移動の種類って、こう分けられるんだ」「関係する法規は何だろう」みたいな。 これを踏まえて次回以降であらためて、“遊牧的”な事例も含めて、「なぜ小屋なのか」に踏み込んでいきたいと思います。 |