小屋×都市
#08
「キャンパーフェス2018 in 安曇野」レポート後編
モバイルハウスは単なる道具としてだけでなく、表現や自己実現のツールにもなっていた。「キャンパーフェス2018 in 安曇野」のレポート後編は、一夜明けた2日目の様子。個性的な生き方を、モバイルハウスで模索したり実験したりする人たちに出会った。
ヒュッテの大部屋で寝袋を借り、秋晴れの朝を迎えた。
フェス会場では、雑貨や飲食品の販売が始まっていた。
茶室キャンパーをつくりたい
南インドカレーを振る舞っていた青年に、話を聞いてみた。
上杉龍矢さん。自分のモバイルハウスはまだ持っていないという。
「ぼく、茶室のモバイルハウスを作ろうと思っているんです」
発想がユニークなら、その理由も素敵だった。
「おばあちゃんがお茶の先生で。一緒に出かけられたら良いな、と」
小さい頃にかわいがってもらった、89歳のおばあちゃん。
その、お茶を点てている時の姿が大好きなのだという。
「旅というより、お茶でつながりを作りたいんですよね。おばあちゃんと楽しい時間を過ごしながら、文化を受け継いでいきたい」
モバイルハウスづくりの仲間を訪ねる旅へ
モバイルハウスでの、旅の準備を進める人もいた。
松永健吾さんはこ の夏、モバイルハウスをつくる1週間のワークショップに参加した。
最終日のオークションで、みんなで泊まりがけでつくったモバイルハウスを落札。
その車両で、キャンパーフェスの会場に駆けつけた。
「初心者も同然」の状態で、1人で参加したワークショップ。
神奈川県の会場で出会った、10人以上もの仲間の存在が大きかった。
「一人でモバイルハウスをつくるのは、技術的にもそうだし、何より精神的にも難しかったと思います。単純な作業とかも多いし。みんなでワイワイ楽しくやるのが、完成させる一番のコツだったんじゃないかな」
その車で、寝食をともにした仲間を訪ねながら、全国を巡る旅に出るという。
「みんなに会いたいし、いろんな場所で泊まって、この窓枠からいろんな景色を眺めたい」
フェス会場では先輩キャンパーから、防火対策や旅のコツを教えてもらっていた。
モバイルハウスは「発信のツール」
やがて会場では、軽トラックの荷台をステージに、トークライブが始まった。
何組かの参加者が、自分とモバイルハウスについて、壇上で話をするのだ。
日本をすでに5周したという有村博勝さんのモバイルハウスは、発信のツールとして機能していた。
各地で「小さな暮らし」や「エネルギーの自給」などについて話しているという。
「モバイルハウスで旅をしていると、『個性的だ』と面白がって声を掛けてもらえる。目立つことが目的なんじゃない。でも目立って興味を持ってもらえれば、いろいろなメッセージを伝えることができる」
断熱と防音が完備されたモバイルハウスの紹介もあった。
建設関係の会社を営む、住環境プランナーの折口尊人さんだ。
もともとは、現場作業での騒音対策の「防音室」としてモバイルハウスを製作。
すると、外からの音も遮断でき、現場近くでの寝泊まりにも快適だった。
「つくっているうちに、『これ、使えるじゃん』って気付いて」
さらに、断熱材を備えると、快適性は賃貸の住居をしのぐほどに。
暑い夏と寒い冬は、自宅の駐車場の車中で寝るようになった。
仕事の「出張モデルルーム」まで兼ねるようになったモバイルハウス。
「現場の近くでもどこでも寝泊まりできるし、趣味のドラムも思い切りできる」
なんだかとても、楽しそうだった。
バンで日本を旅する若夫婦
バンで寝泊まりしながら、日本を旅する若夫婦の物語もあった。
26歳の「わたなべ夫妻」だ。
銀行員としての生活に疑問をいだいたり、海外への転職で夫婦間に亀裂が入ったり。
そうしたことを経て、「一緒に成長しあえる関係になろう」「楽しい事を仕事にしよう」、そのために「夫婦そろって起業しよう」と決心したという。
「でも、『やりたいこと』が無い事に気づいて。だったら、『日本を一周しながら、住むところと、やりたいこと探してみよう』ということになったんです」
格安で中古のバンを手に入れ、ベッドを導入。
2018年7月に日本一周がスタートした。
旅の様子を発信するブログは徐々にアクセスが増え、小商いに発展する可能性も感じ始めている。
「やりたいことを探すために旅に出たけれど、今は、『好きな人と好きなことをやる』『この旅をやりきること』が目標です」
そうすることで、新しい世界が開けると信じている。
モバイルハウスは自己表現
前編で紹介した「自由な旅やキャンプを楽しむ人たち」も含め、 北は秋田、南は福岡から計33台のモバイルハウスが集まったキャンパーフェス。
トークライブが終わると、少しずつ、帰路につく人が増え始めた。
「こんどはこの車で遊びに行くからね」
「また会おうね」
そんな様子を眺めながら、フェスを主催した龍本司運さんに感想を訊ねた。
「満足です」
龍本さんは開口一番、力強く言ってから、フェスを振り返ってくれた。
「この空気感が良かったですね。なんだろうな。みんなが楽しそうに自由にやってくれていたから」
龍本さん自身も「荷台夫婦」として、モバイルハウスで生活している。
フェスは、SNSなどを活用して取り組むコミュニティづくりの一環でもあった。
「モバイルハウスって、“生き様”の表現だと思うんです。持ってきている空間に、生き様がある。いろんな生き方があって、お互いに見せて、体感し合って、楽しみ合う。それでいいんじゃないかな」
実体験に基づく「自己表現」という言葉に、 ゆっくりと広がるモバイルハウスムーブメントの理由が、あるような気がした。
(了)
<文・写真:谷明洋>
【都市科学メモ】 | |
小屋の魅力 |
生き方を模索したり、表現したり、発信したりするツールになる |
生きる特性 |
生き様を持ち運べること |
結果(得られるもの) |
発信力、共感 |
方法、プロセスなど |
いろいろやって、発信してみる モバイルハウスなどで自分がやりたいことをやってみて、様子を発信する。キャンパーフェスのような場に顔を出しても良いし、ブログやSNS、動画サイトなどを使っても良いだろう。 |