update

音楽と建築と、働き方
#02
試行錯誤感を
楽しみたい!

text:satoshi miyashita photo:akemi kurosaka
illustration:awako hori

前回に引き続き、ミュージシャンの東郷清丸さんと建築家の大沢雄城さんによるケンチクウンチク、その後半戦を。ますますヒートアップする赤裸々トークの先に見えてきた答えとは……?

@Allright printing (東京大田区)

 
新しいアーティストのあり方

東郷 一昨年、あるメジャーのマネジメント会社と1年間だけ、一緒に走ったんですけど、あんまりしっくりこなくて。いろんなやりとりが雑で、「結局、アーティストを搾取する形で成り立ってるんじゃないの、音楽業界は……」って、そう思ったんです。

大沢 彼らにしたらアーティストも商品だから?

東郷 はい。でも、きっとそれは僕の一面的な捉え方かもしれないし、うまく関係を作ってる人たちもたくさんいるんだろうけど、僕にはそう見えて。だから一度、彼らとは距離を置こうと思って、昨年の上半期はコロナもあったし、地味に過ごしていました。
 それでわかったのは、人と協業して活動するほうが伝播する力としては強いし、自分自身も楽しいってこと。僕自身、無意識だけどポップな音楽をやっているので、もっとパブリックなものとして広がっていければいいなあと。

大沢 今もメジャーのレーベルからのお誘いはあるの?

東郷 名前出したらあれですけど、大手から一緒にやりたいって話はちょっとありましたね。

大沢 すごい。マンガの『BECK』とかであるよね、ライブハウスにレコード会社の人が急に来るみたいな。

東郷 でも、彼らにとっては「新人を育てる」感覚で、僕の気持ちが全然ハマらない。

大沢 それは分かる。これまでの経緯を聞いていると、急に「清丸、メジャーデビュー!」ってならないよね。

東郷 昨年、ここ(自宅兼事務所)に引っ越して来て、自分たちでスタジオを造って、格好いい音楽を作れる演奏チームもできて、予算のことを気にせず曲作りできる環境が理想だと思えたんですね。今後、メジャーレーベルとは育成とかじゃなくて対等に協業できれば一緒にやりたいし、それ自体は難しい話じゃないと思っています。

大沢 確かに「育成」っていう言葉には違和感あるね。

東郷 あるレーベルの担当者に言われたのは、僕と同い年のミュージシャンが、同い年のサラリーマンくらい稼ぐにはアルバム10万枚売れて、Zeppが即完するレベルだって。ミュージシャンとして、10万枚は、そこそこのハードルですよね。

大沢 ましてや、この時代だから。

東郷 「10万枚でサラリーマンと一緒かい!」と思ってしまって。

大沢 そうだね、確かに(笑)。

東郷 僕の場合、現状、全然そこには満たないわけですけど、「最初は収益化とかを考えずにやっていこうよ」って言われても、逆にすごい権力差を感じちゃったんです。買われる感じというか。

大沢 まさに商品になって消費される感じだ。

東郷 そう。担当の人はそんなつもりはなくても構造がそうだから受け入れられず、僕は、「もうすこし対等にやりたい」と言ったけど、表面的に理解はしてくれていても行動に結びつかなくて。これ、もしかして伝わらないんじゃないかって。

大沢 ミュージシャンとメジャーレーベルって、なんか農家とJAみたいな関係だよね。

東郷 あぁ、そうだと思います。

大沢 こっちは野菜だけ作るから流通やって、みたいな。でも、今は、農家が野菜を直売している時代だからね。要するに、JA100流すよりも直売で50売ったほうが儲かる時代。

東郷 そうですね。この問題はきっとどの業界でも起きていますね。

大沢 そういう視点でいくと、いまは「届け方」にこだわっているアーティストも増えてきている気がするよね。

東郷 「届け方」ですか?

大沢 例えば、クラムボンとかは届けることも自分でやろうとしているわけじゃない? メジャーレーベルから抜けて、「CDはライブでしか売りません」みたいな。そういう人たちも出はじめているよね。

東郷 そうですね。クラムボンの場合は、元々メジャーの知名度という資本があったと思います。それに対して僕は一からやっているところなので、ファンの人は、超ドープですけど、数としてはそんなに多くない。アルバム作りました、じゃあ売りますって言っても、買ってくれるファンはいるけど、レーベルの運営がそれで賄えるかっていうと、そこまでの物量ではないですからね。やっぱり1000人単位ぐらいの規模でコアなファンがいると、もうちょっとやりようがあるけど、小さ過ぎるんですよね。あと僕自身、マーケティングが好きでも、得意でもないですし。

大沢 そうだよね。

東郷 でも、今後はそういう人を巻き込んでいくのは必要だと思ってます。ルフィみたいな気分ですね。

大沢 大手のレーベル会社じゃなくてもいい?

東郷 はい、そうですね。

大沢 この話って、たぶん音楽業界全体が思っていることだよね。実際、本当に食えんのか食えないのか、みたいなラインは、やっぱシビアだから。

東郷 でも、音楽もビジネスとか戦略だけじゃなくなってきていて、最近は、めっちゃ楽しくやっていれば、どうにかなるのかなって思うんです。それは「ラク」とは違って、「こうやったらヤバくない!?」っていうくらい、みんなで楽しいことをやり続けるという……

大沢 あぁ、分かるな。

東郷 それぐらい自分が思えたとしたら、知ってほしいから、SNSでもメールでも、自然と人に伝えるだろうし、その状態をキープしていくだろうと。じつは、この考え方、坂口恭平さんにすごく影響受けています(笑)。

大沢 元ネタ坂口さんなんだ!

東郷 はい。態度経済的な。

大沢 でも、よく分かるよ。例えば、僕らがやっている「まちづくり」も、とくに地方とかで「こうやったら、このまちは活性化できます」みたいなスキームをその通りやれば、それっぽい賑わいはある程度できるとは思うけど、そこのオリジナルには絶対にならない。結局のところ「俺は、これがやりたいからやるんだ!」っていう熱量が結果を生むんであって、プロセスだけを他から移植したところでやっぱり本質的じゃないんだよね。これはここ数年、本当に実感していること。結局、自分がどれだけ熱量をもって周りを巻き込めるか、もしくは周りに受け入れられるかが大事なんだよね。

東郷 スキームを作っちゃえば、いろんなところに流用して発展もしていけますもんね。でも、メニューから選ぶように、取りあえずスキームを選べばどうにかなるっていうのも嫌で……。最後はやっぱ自分の感覚で積み上げたものとか、自分で何か成し遂げたことのほうが、たとえ成果がちっちゃかったとしても面白いと思うんです。

大沢 そのほうが価値がある。

東郷 興味も惹かれます。

大沢 そうだね。べつに安く作れるからいいっていうことじゃなくて、俺が作ったっていうことに価値があるんだから。

東郷 そして自分で作ることで細部が見えてくるんです。今までとは全然、違うレイヤーの深さで細かいところが見えてきて、そこにリスペクトが生まれる。作る人をすごいって思えてくることがいいなあって。

大沢 それはオンデザインの取り組みとも共感できますね。まずはやってみて、そこでどういう仕組みになっているのかを知り、作ってみたら意外と難しいんだってことを知る。それこそがクリエイティブなことだって思う。

東郷 そうですね。作り方のパターンを調べて、「今、持っている道具とこの予算なら、これにこれを組み合わせたらうまくいくんじゃないか」みたいなことをやって、もし駄目でも、「そうか、ここがこうなるんだ、なるほどね」みたいな。僕はそうやって試行錯誤している時がすごく楽しい。

大沢 清丸の音楽活動がクリエイティブに思えるのは、建築でいうDIY的な感じがして、手を動かしながらディティールと全体を同時に考えるみたいな感じだからかもね。今みたいな試行錯誤感は音楽に限らず、働き方も同じ延長でやってるんだろうし、家族との過ごし方みたいなのもそういうクリエイティビティで捉えている感じがする。

東郷 でも、めちゃくちゃエラーを重ねてますけど。

大沢 それな(笑)。

東郷 失敗のほうが膨大にありますからね。

 
表現者とエンジニア

大沢 活版印刷のほうは、最近どうですか?

東郷 僕にとって音楽は表現、活版は表現を支えるエンジニアのつもりでやっているんです。例えば、名刺だとデザイナーさん、もしくは名刺を使う人が主役で、理想はその人たちがハッピーになってくれたらいい。それを目指しながら活版職人として何ができるかを考えています。
 活版のマシンは見た目もかわいいし、印刷の工程も面白いから、できるだけ(印刷する時は)お客さんにも立ち合ってもらうようにしています。マシンでぐっと紙を圧して、凹み具合で質感が出たりするから、生で見てもらいながらお客さんとコミュニケーションしています。

note東郷清丸「僕と活版印刷」より

大沢 相手が、何を大事に思っていて、「こうやったら喜ぶかな」みたいな、受け入れる側(使う人)とのコミュニケーションがあるからこそ、さっきの音楽と同じ思考になれるのかもしれないね。

東郷 役割としては、対極のことをしながら同じ目的に向かっている感じです。

大沢 受け止める側と自分から発する側みたいなのが清丸の体内に同居しているのが本当に面白いね。

東郷 そうかも。

大沢 活版職人、うっかりやめちゃったら、バランス崩れちゃうんじゃない? 

東郷 バランスは変わるとは思いますね。

大沢 実際、比率的には音楽の仕事を増やして印刷の仕事は減らしてるの? 

東郷 いや、変わらずです。どっちも大して稼いでないから(笑)、ジワジワやっています。お客さんとの受注メールのやりとりは担当のマネージャーがやってくれているので、「紙」と「版」がここに届いたら僕はそれを持って、マシンのある近くの工房まで自転車で行き、期日までに印刷を上げます。今日も工房へ行って、刷り上がったものをここに持ち帰ってきました。工房とAllrightが同じスペースにあれば一番いいけど、やっぱり床の耐久性とか音の問題とかありますからね。

大沢 近くなら、自転車で移動するのもいい気分転換になるんじゃない?

東郷 今はそうですね。でも、ゆくゆくはどこかに移住する時に一緒にマシンも持っていけたらなって。

大沢 聞いていると、清丸のそのスタンスなら、いろんな暮らし方を探せそう。

東郷 探したいですね。「暮らし方探検」しながら。

大沢 そっちでブレークするかもしんないし。

東郷 この家に引っ越して来てよかったのは、漆喰を塗り直したり、庭で板切って、自分で床張ってスタジオを作ったり。めちゃくちゃ大変だったけど、めちゃくちゃ楽しくて。以前からやりたかったけど、実際やる場所がなかったので、ここで全部できるようになって本当によかった。

 

オープンマインドに生きる

大沢 家の中で「職人モード」、「ミュージシャンモード」、「衣食住モード」みたいなのはあるの?

東郷 そうですね。ざっくり「仕事やるぞ」っていう時と、家で料理をしている時とか。

大沢 それはべつに自身のブランディングでやっているわけでもなく、自然に?

東郷 そうです。ファンの人からは「セルフブランディングの上手い、おしゃれなシティーボーイ」って見られている時もあるけど、僕の着ている服とかは妻が選んでオシャレになってて。

大沢 清丸のシティーボーイ感は、奥さんのブランディングなんだ!(笑)。

東郷 周りのみんなが「こっちのほうがかっこいいでしょ、見た目も」って言ってくれて、僕がそれを素直に受け止めるっていう(笑)。

大沢 周りが、「これがいいと思う」みたいなことの延長にこそ価値があるっていうのも清丸っぽいな。

東郷 それが違和感なくできていると思うのが、タレントのフワちゃんですね。大手の芸能事務所に所属せずに個人でやっているじゃないですか、あの人。twitter見れば、Gmailのアドレスとか載っていて。ほかのYouTuberほど、たくさん動画をあげてるわけじゃないのに、キャラが強烈だからテレビにもがんがん出て……。もちろんフワちゃんを含め、運営側も何か考えているとは思うんですけどね。

大沢 フワちゃんって、20代?

東郷 僕たちよりちょっと下くらい。

大沢 そっか。ニュージェネレーションだね。

東郷 今の高校生や20代とかはフワちゃんみたいなスタンスが普通で、当然っていう感じだと思う。たぶん今の僕のような捉え方じゃないから、これからはもっといい世の中になるんじゃないかって。

大沢 世の中的には閉塞感が漂う時代とかって言われているけど……

東郷 僕から見たら息苦しいって思うけど、逆に、僕が自由って思うことを息苦しく感じる人もいるからね。本当、人によって同じことを言っていても全然、違う。

大沢 「俺にとっては生きやすいけど、生きづらい人もいるんじゃないか」みたいなことって、まちづくりでも大切な視点だと思っていて、こちらはいい感じにしていると思っても、それが嫌な人もいる。僕はむしろ、それが健全だと思うし、「みんなに気に入ってもらわないと困る」っていうことになれば、「何でもないもの」になっていくよね。「パブリック」って概念も「みんながOKしてくれるもの」ではなくて、「僕は好き」とか「僕はちょっと嫌だな」とかって言い合える状態になっていることが本質なんだと思う。そしてこの感覚は清丸のオープンマインド感みたいなところにもつながるんだなって。

東郷 僕がしゃべり出すとこういう話にドンドンなりますね。

大沢 器用な人だと音楽モードだけのパッケージトークみたいなのもあり得ると思うんだけど、清丸は良くも悪くもいろいろなレイヤーの話をフラットにするよね。それが良さだとも思うんだよね。

東郷 僕も結構、強情なタイプだからそっちにあえて持っていく自覚もあって。ちゃんと各メディアのカラーに乗っかったほうが伝わりやすいし、これからは変に赤字入れるのやめようって。

大沢 「違うかも」「こっちかも」「あっちかも」みたいな結果、「べつにこっちに行ってもいいし、あっちに行ってもいいんだよね」ってなるのが、すごく大事だって最近は思う。でも、その感じって、いまいち伝わらないんだよね。
 よくメディアでは「多様性」とかっていうじゃない? でも、そういう人ほど、多様性はこうあるべきって決めつけているんじゃないか。結果、それって多様じゃないじゃんって。多様じゃないってことも受け入れるから多様性なんであって。

東郷 無限ですね。

大沢 入れ子状になってくんだけど、今回の話も、やっぱり大手レーベルの人には「音楽業界っていうのはこういうもんでしょ!」みたいなことを言い続けてほしいって逆に思うところもあって。それこそ、「それだと売れなくない?」とか「それでどうやって儲かんの?」とか、清丸は散々言われてるかもしれないけど。でも、その対話があってこそ、清丸の今の音楽活動みたいな話につながるんだと思うのね。

東郷 やっぱりオープンにする怖さもありますからね。でも、そこを一歩踏み出した人じゃないと伝わらない部分があって。僕の生活圏ではどうしても会社勤めの人とそんなに会わないので、きっと話がかみ合わなかったりとかするんだろうなって。

大沢 でも、そのかみ合わない対話も意外と大事なんじゃないかっていう感じはあるよね。

東郷 はい、排除せずに、出会ったら話そうって。

大沢 あのー、僕も個人用の名刺、ちょっとほしいんけど。

東郷 作りましょう(笑)。 完

Allrightの中庭で。

 

profile
東郷清丸 kiyomaru togo

1991年横浜生まれ。歌やギターやトラックメイクで、その場に流れるムードをかたちにする。素朴な線画のように、不思議なCGのように、あらゆる手触りを愛して旅する音楽家。演奏は、ギター1本の弾き語りから、デュオ・トリオ・10人以上のフルバンドに至るまで、会場に合わせて柔軟に形を変える。またCM・映画・舞台へむけての音楽制作、他アーティストへの楽曲提供、トークゲスト出演なども行っている。

profile
大沢雄城 yuki osawa

1989年新潟生まれ。2012年横浜国立大学卒業、同年オンデザイン。
横浜の建築設計事務所オンデザインにて、まちづくりやエリアマネジメントなどの都市戦略の立案から実践まで取り組む。空きビル等のリノベーションによるシェアオフィスの企画・設計からコミュニティマネジメントなども手掛ける。主な担当プロジェクトとして横浜DeNAベイスターズが仕掛けるまちづくり「THE BAYSとコミュニティボールパーク化構想」ヴィンテージビルを活用したクリエイターシェアオフィス「泰生ポーチ」等。