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Melbourne Life
#02
移住のヒントと
冬の感覚

text & photo: osamu nishida 

初の海外生活も気づけば半年が過ぎました。
これまでの貴重な体験を随時アウトプットしていく連載企画。
今回は、移住を決断するきかっけとなった出来事と、
寒くても外に出るのが好きなオージーの冬事情について!

 

@Melbourne, Australia

 

上空から見たメルボルンの街並み。塔の建物は「ヴィクリア・アート・センター」

 

メルボルン移住のきっかけ

じつは2021年に2ヶ月ほど沖縄に移住をしたことがありました。当時はコロナ禍でリモートワークが推奨され、大学の講義もすべてオンライン。僕自身、いわゆる「ワーケーション」をトライアルするのに、絶好のタイミングだと考えたんです。ただ、滞在は単身だったので家族を説得するにはすこし苦労しましたが。

僕が滞在場所にしていたエリアには、オンデザインのOBが設計したコアワーキングスペースがあって、日中はそこでオンライン講義とリモートワーク。19時以降は、IT系スタートアップが集まるコザエリアのプログラミングスクールに通いました。そこではセンシングデータを扱うためのプログラミングを学習し、2ヶ月で200時間くらいの講義を受けました。

2021年当時、プログラミングスクールで学習していたときの模様(創業支援拠点Lagoon Kozaサイトより)

この沖縄の経験から二拠点生活をするうえで実感したことは、移住先に「働く場所」と「住む場所」がきちんとあれば大丈夫だということ。働く場所の必須条件は自分が心地よくいられる環境です。たんにパソコンを置ければいいというわけではなく、働く環境が快適かどうかがとても重要です。僕が今回のメルボルン生活を決断した背景には、こうした沖縄で得た経験値が大きく影響しています。

1年間限定でメルボルンに来てから半年以上が過ぎて、今ここでしか得られない「価値」や「感覚」を日々インプットしている実感があります。この充実した気持ちは沖縄に滞在していた当時も感じたことでした。

日本からメルボルンへは飛行機で約9時間。距離にすればそれなりにあるので、移住前は仕事に影響はないかも懸念していました。でも、僕がどうしても行かなければいけない案件は、大学を通して自分に出張命令を出して一時帰国すればいいので、今のところとくに支障ありません。

 

オーストラリアの冬は寒いけど熱い?

オーストラリアと日本とでは季節が真逆です。日本が夏ならオーストラリアは冬。とくにメルボルンは南極近くに位置するため7月、8月はけっこう寒いです。と言っても気温がマイナスになるようなことはなくて、朝は2℃くらいで日中は10℃に届くかどうか。いわゆるダウンコートを着るほどの寒さではありません。

僕がメルボルンに来て興味深く感じたことのひとつに、オーストラリア人は冬でもカフェやビアホールの屋外に出て、コーヒーやビールを飲んでいるということです。もちろん気温が10℃以下でも太陽が出ている時間は比較的暖かいので屋外で楽しむ感覚もわからなくはありません。ただ彼らは夜になっても屋外で楽しそうに飲んでいます。

ウォーカブルなバンク・プレイス沿いのカフェもテラス席が人気

日本の感覚だとビアガーデンはそもそも夏季限定なので、その光景を目にした時は何か間違いで屋外のテラスシートに座っているのかと思いました。でも、そうではなくて、彼らは冬場でも屋外でビールを飲むのがふつうなんです。

街の中心部を流れるヤラ川沿いには人気のビアガーデンがあります。先日、友人に誘われて訪れたのですが、夕暮れどきの川沿いはめちゃ寒い! 暗くなるとだんだんお客さんも増えてきて、みんな気づけば寒さなんて関係ないようなそぶりであっけらかんと屋外でビール片手に楽しんでいました。

ヤラ川に架かる網目状のアーチ構造が特徴的な「ウェブ・ブリッジ」。歩行者と自転車専用の道路として使われている

よくオーストラリア人は日本人よりも個人主義の国柄だと言われます。確かに彼らには「周りがこうだからこうしよう」といった「同調圧力」のような意識や「集団主義」、「空気を読む」といった感覚がほぼ皆無です。

例えば、家族旅行を理由に学校を休んだり、仕事が多忙でも私用で早退したり……。いい意味で割り切っているから真冬に屋外に出ることも、多少寒くても「自分たちが楽しめればいいじゃん」みたいなそんな感覚なのだと思います。

これは「ウォーカブル」というメルボルンが進める都市の施策にも通じるところがあると感じます。例えば、カフェやアートスポットなど、「メルボルンをこういう場所として楽しめる街にしよう!」というオーストラリア人ひとりひとりの意識の高さと気質、それらがより魅力的な街にしているのでは……、このあたりの深掘りはまた次回に!

 

((column))
メルボルンの極私的おすすめスポット

「セント・キルダ・ピア」
St. Kilda Pier

海沿いにあるメルボルンで人気の桟橋。シティからトラムに乗り、セント・ギルダ・ビーチまで20分。優雅な時間が流れる居心地のよさとポートフィリップ湾の絶景が望めます

profile
西田 司 osamu nishida

1976年、神奈川生まれ。使い手の創造力を対話型手法で引き上げ、様々なビルディングタイプにおいてオープンでフラットな設計を実践する設計事務所オンデザイン代表。東京理科大学准教授、ソトノバパートナー、グッドデザイン賞審査員。主な仕事として、「ヨコハマアパートメント」「THE BAYSとコミュニティボールパーク化構想」「まちのような国際学生寮」など。編著書に「建築を、ひらく」「オンデザインの実験」「楽しい公共空間をつくるレシピ」「タクティカル・アーバニズム」「小商い建築、まちを動かす」。

https://www.ondesign.co.jp/