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連載エッセイ
「暮らしのあとがき」
#02
資産価値より利用価値

text & photo : naoko arai

連載エッセイ「暮らしのあとがき」は、数々の住宅を取材してきたライターによる家づくりの顛末記。2回目は、前回の土地探しからスタートし、リノベーションという選択に至るまでのプロセスを振り返ります。新たな住まいを考えるとき、過去に暮らした物件にこそ自分好みの暮らしを紐解く“カギ”があるのかも……というお話です。

 

リノベーションを選んだ理由

 もともと西田さんに相談しに行った時点では、土地を購入して一戸建てを新築しようと考えていた。それは、せっかく建築家と家をつくるのならば、まっさらな状態から自由に作れる新築のほうが頼みがいもあるだろうと考えていたから。

 ただ、今回の中古住宅付きの土地に出合ったときから、リノベーションになる可能性が高いかも、と思い始めていた。更地ではなかったことが一番の理由だが、建物自体まだまだ使えそうな状態だったこと、そして解体して新築となるとコストの問題も出てくるはずだと思ったからだ。

出合った当時の中古物件

 

 さらにもうひとつ、自分自身が中古住宅のリノベーションに対する興味があったことも大きい。第一の理由は、実家がマンションのリノベーションをした経験があったこと。1990年頃のことで、当時はリノベーションという言葉もなく、単に“大掛かりなリフォーム”みたいな言い方をしていたと思う。でも今思えば、内装をすべて取り壊してコンクリートがむき出しになったスケルトンの状態からまったく違う間取り、内装の部屋が出来上がるというプロセスはまさに今のリノベーションと同じで、建築に対する知識も好みもなかった高校生にとっても強烈な体験だった。そして、「建物って構造と内装は別モノなんだ」という驚きと気づきとなって記憶に刻まれた。

 そして言うまでもなくもっと大きな理由は、仕事をするようになってから、リノベーションの事例を数えきれないほど取材してきたこと。一般的な間取り、特徴のない内装や古びた家が、跡形もなくまったく違う部屋になったり、元のいいところを活かしてもっと素敵な家になるという事例を見れば見るほど、新築と中古の垣根が曖昧になっていった。既存の良さをいかしながら新しい住まいに蘇らせることは、新築では出せない味わいになる。制約や条件がシビアだからこそ、それをクリアするための打開策や面白いアイデアが出てくる。そうしたことを目の当たりにしてきた経験値はやはり、いざ自分が家をつくる段階になって大いに役立った。

 もっといえば、私自身の好みとして、ヴィンテージや味わいのあるものが好きということもある。以前、住んでいた神楽坂の賃貸住宅は、築50年ほどのレトロな家だった。木枠のサッシ、舟底天井、掘りごたつのある和室、波打った曇りガラスといったレトロなパーツ満載の家が心地よく、いつか家を新築するにしても古材を使いたいと思っていたくらい。年輪を刻んだ建物にワクワクする質(たち)だったのだ。

かつて暮らしていた神楽坂の賃貸物件の空間

 

 こうした背景や好みもあり、条件が合って自分が納得さえすれば新築でもリノベーションでもOK。あとは、建築のプロであるオンデザインの意見を聞き、コストや条件とのバランスで決めることにした。

 

オンデザインの反応は?

 「ココだ!」とピンっときて決めた中古の一戸建ては、築30年ほどの鉄骨4階建て。1階がピロティになっていて、前居住者は車2台分の駐車場として使用していた。2・3階が主な居住スペースで、4階は居室とルーフバルコニーが半々。周辺の建物から少しだけ高さがあり、抜けがよくて気持ちいい。駅に近い住宅密集地なだけに、最上階にのぼったときの開放的な空と心地よい風はとても印象的だった。外観デザインや間取り、内装はそのまま住むイメージはつかなかったものの、建物自体の構成はなかなか魅力的だ。

遠くまで見渡せる最上階からの眺望

 西田さんには事前にメールで間取りなどの資料を送っていて、「難易度高いなと思いつつ、リノベーションと建て替え、両者の可能性を探っています」という返事をいただいていた。その後、実際に現場をいっしょに見た際には「いい意味で特徴のない建物だから、リノベーションでどうとでもなりますね」という話にもなった。

 いくつかの可能性を探っていく中でひとつわかったのが、建て替えるとなると現在の建物と同程度のボリュームにはならないということ。それは、建築当時と現在とでは建築基準法が変わっているためだ。建物の高さも今より低くなり、最上階にのぼったときの開放感も減ってしまうかもしれないという。

 こうした現状や課題を総合すると、オンデザインとしては、現在のボリューム感を維持できないのはもったいないと感じていること、解体費+新築のコストは平均的なリノベーションの2倍ほどかかること、建て替えとなると工期も長くなることなどから、現状建物のままのリノベーションがベストではないかという。話を聞いた私たちも、やはりピロティ+3層の住空間+ルーフバルコニーという構成は魅力的で、それを失うことはこの土地、この建物の魅力を半減させてしまうように思われた。もちろん建物の寿命も含めて資産価値については大いに悩んだが、今は利用価値を優先したい。今ある価値を最大限にいかし、新しい魅力を加えていくほうが自分たちには合っているだろう。この時点でリノベーションに決定した。

プレゼン資料より抜粋 by ondesign

 
次回からは、いよいよ本題の設計段階に突入です。

土地と建物、リノベーションという選択を経て、いよいよ本格的な家の設計がスタート。本題ともいえる設計の話が3回目からとずいぶん時間をとってしまいましたが、ここまでの選択も印象深いプロセスだったので省略せずに書いてみました。人生は何事も選択と決断の連続ですが、家づくりはその最たるもの。とくにリノベーションは既存の建物に大きく左右されるためスムーズに事が進まないことも多いとわかっていたのですが、実際に経験してみると「本当にいろいろ起こるものなんだ……」というのが率直な感想です。

次回からは、パートナーのスタッフの方たちのお話も登場しますのでお楽しみに!

 

profile
荒井直子 naoko arai

東京生まれ。大学卒業後、住宅情報雑誌の制作に携わった後、フリーランスのライター・編集者に。住宅・建築・インテリア・街づくり・不動産といった住まい・ライフスタイル関連を中心に、旅・お酒・カルチャー・スポーツ・人物インタビューなど、興味のあること・興味のある人を取材・執筆しています。