「バオバブ日和」
#02
更新される恒例行事
「バオバブ保育園」の行事を通し、
新園舎はどう使われているのだろう?
連載2回目の「バオバブ日和」は、
昨秋行われた恒例の「サンマの会」に密着します。
「サンマの会」とは?
2022年10月14日、バオバブ保育園では恒例の「サンマの会」が開催されました。
サンマの会とは、園舎改修前から長く続く、食育を大事にするバオバブならではの季節行事。北海道から何十匹もの大きなサンマを取り寄せ、園庭で保育士さんたちが丁寧に焼き上げます。焼けるまでの間は、サンマの食べ方を学習したり、サンマをテーマにした工作をしたりとさまざまな方法で1日サンマに触れながら季節の旬を味わい、学び、創作の時間を楽しみます。
以前、既存園舎があったころに設計チームみんなでサンマの会を視察させていただいたことがありました。
保育士さんがサンマを焼き続ける姿、目を輝かせながらその様子をデッキから見学する子どもたち、そして出窓を介してサンマが次々と園内に運ばれクラスごとにサンマとの触れ合いが展開される風景……、ひとつの行事を通して、園庭も園内もいきいきと使われている様子を目の当たりにし、設計の大きな手がかりとなったのを今でもはっきりと覚えています。
今回の「サンマの会」は、新園舎となってはじめての開催。受け継がれてきたこと、新しくなったことがさまざまある中で、どのように既存の行事が行われたのか、少しドキドキした気持ちを抱えながら園舎を訪れました。
当日の様子
当日は朝からあいにくの空模様。保育士さんたちはホールの小屋に隣接するように園庭にテントを広げ、サンマを焼きはじめています。
テント前にある掃き出し窓には子どもたちが集まり、「大きいねぇ」「いつ食べれるの?」と興味津々。焼き上がっていく様子を保育士さんが実況しながら、サンマをお皿に載せて室内へ運び入れる、まさに長年培われてきた連携プレーです。
ランチホールでは、サンマがどこで獲れたのか、漁獲方法や食べ方を紙芝居にして紹介。
すでにホールにはサンマが焼ける香ばしい匂いが充満し、子どもたちの期待は最高潮に……!
5歳の教室ではサンマをテーマにした工作の時間がスタート。机に置かれた本物のサンマをじっくり観察しながら、色や形、特徴を自分の目で見つけ、1枚の画用紙に描いていきます。描き終わると丁寧に切り取り、先生が用意してくれたお皿に載せて自家製サンマプレートの完成です。
廊下や厨房前の壁にはサンマの会をお知らせするポスターも貼られていました。すべて保育士さんの手作りで、子どもたちもポスターを見ながらこの日を楽しみに待っていたのだろうなと思わず見入ってしまいました。
10月の園内は、ハロウィン飾りや食育の一環で行った稲刈り後のはざかけ(稲を吊るす)など、秋の風情を漂わせる行事で賑わっていました。
さて、サンマの会は待ちに待ったお昼の時間。
乳児は1匹のサンマを6、7人ですこしずつ分け合い、幼児は食べ方を習い、小骨を上手に取りながら、しっかり1匹分食べ切っていました。
朝から保育士さんが何時間もかけて焼いてくれたサンマ。子どもたちにはすこし苦いと感じられそうな味も、その食べっぷりを見る限り全く気にならないくらい、贅沢で特別なご馳走です。
以前、サンマの会を視察したときに、「こんなに子どもたちがサンマをぱパクパク食べる姿って見たことがないね!」と設計チームで話したこと、またバオバブの食育に驚かされたことなどを思い出し、新しいランチホールでもそれがしっかりと受け継がれていることに、うれしさとほっとした安心感を覚えました。
窓辺で広がる、新しい風景
新園舎ではランチホールに大きな掃き出し窓が設けられたため、今日のような天候でも掃き出し窓に向けてテントを張り、コンロで次々に焼きあげることが可能となりました。また、子どもたちにとっては、この窓辺が園庭を眺めるギャラリー空間へと変わっていました。
掃き出し窓のデッキスペースは保育士さんの道具・資材置き場。また焼かれる前の生のサンマの一時的な保管場所としても活用されていました。子どもたちはデッキに乗り出し、生のサンマに興奮気味です。
窓際に置かれた段々ボックスでは、昼の休憩時間に子どもたちが上り下りをしながら追いかけっこをしたり、そばに置いてある本棚から本をもちより腰をかけて読書をするスペースになっています。でも、この日は段々ボックスに上ると少し背の高い位置で園庭との繋がりがもてるため、窓から子どもたちにサンマをじっくり見せたり、触れさせたりと、子どもと大人がより近い距離感でやりとりを繰り広げられている様子が印象的でした。
また、「食育のために調理の様子を日常的に子どもに見てもらいたい」という設計時の園からの要望により、新たに設けられた厨房とランチホールをつなぐ「見学窓」。焼かれたサンマが給食としてお皿に盛り付けられる様子に興味津々、まじまじと観察している子どもたちもいて、小さなこの窓がバオバブの日常の中でしっかりのひとつの保育の場となっていることを目の当たりにできました。
受け継がれてきた年中行事
サンマの会は、季節を楽しみ食育を大切にする保育の中から生まれたバオバブにおける生活文化のひとつです。
新園舎に建て替わっても受け継がれている行事は、保育空間の変化をきっかけに、ささやかにそのあり方も更新されています。
サンマを見たいと集合する子どもたちとサンマを介して食育を提供したい保育士さんたちの連携プレー、大きく開くことができる掃き出し窓や窓辺際のデッキ、腰窓と段々ボックス、雨をよけるための手持ちのテント……、そして、子どもたちの振る舞い、蓄積されたアイディア、建築的要素や道具……。
目の前に広がる環境や物事を一つひとつ足し合わせながら、保育士のみなさんが共通認識を守り、これまでのやり方には縛られない自由な発想で、最適な場づくり、子どもたちの体験づくりを繰り広げていました。
この瞬間こそ、新園舎が保育環境の一部としてバオバブに馴染んでいくことの過程なのだろうと感じました。
バオバブで過ごす子どもたちや保育士さんたちの手によって、そこでの楽しみ方や環境のつくり方が再編集され、強度をもちながら継承されていくのであれば、これほどうれしいことはありません。そんな気持ちになった行事観察でした。
さて、3回目となる次回はスポーツの秋ならではの行事「プレイデー」をご紹介。これまで園外に場所を借りて行われていましたが、新園舎の完成を機に、今年から園庭での開催が可能に。はたして「プレイデー」はどんな様子だったのか。当日の模様をレポートします。
profile |
鶴田 爽 sayaka tsuruda兵庫県生まれ。京都大学大学院修了。2016年よりオンデザイン。主な作品は、 深大寺の一軒家改修「観察と試み」、クライアントと建築家による超DIY 「ヘイトアシュベリー」、バオバブ保育園。模型づくりワークショップ担当としても活動中。 |
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