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新連載
「バオバブ日和」
#01
使い継がれる園舎の空間性

text:sayaka tsuruda(ondesign) 
photo:akemi kurosaka

竣工から1年が経過した「バオバブ保育園」。
設計を担当したオンデザインにとって、
園舎が
その後、どう使われているかは気になるところ。
そこで、設計チームのメンバーである鶴田爽さんが
今後、定期的に
現地を訪れ、
子どもや保育士さんたちの声を聞きながら、
自ら設計した空間について
レポートしていきます。

園舎のエントランス外観

 
バオバブ保育園とは?

 バオバブ保育園は、東京都多摩市にある定員100人規模の保育園です。
 1973年に開園し、以来約50年のあいだ、地域の子どもたちの生活と育成の場としてまちに根付いてきました。創設当初、3つの分棟だった園舎は、その後、保育環境に合わせて大小さまざまな増改築を繰り返し、追加された小屋状の空間を介して、大きな園庭を囲んだひとつの連なる園舎となりました。

園舎に隣接する大きなカシノキ photo:kouichi torimura

屋上には屋根と一体型の大斜面がある photo:kouichi torimura

 園庭の中心にそびえる大きなカシノキは、園のシンボルとして高く伸び、屋根と一体となった大斜面は、滑り台として子どもたちの大好きな遊び場になっています。また園庭には、夏みかんの木や枇杷の木、キウイ棚に巻きつくキウイの枝など、実のなる頃が楽しみな樹木もたくさん植えられています。
 バオバブ保育園の子どもたちは、こうした個性あふれる“居場所”がたくさん散りばめられた園庭で日常の大半を過ごします。裸足で泥だらけになりながら友だちや先生と遊んだり学んだり、1年を通して自然に触れながら成長しています。

園庭の小山で遊ぶ園児たち

 また、卒園した子どもたちが二十歳になると「成人を祝う会」が開かれ、久しぶりに園を訪れた卒園生たちは、今も残る大斜面やカシノキを懐かしむそうです。さらに卒園生が親となり、自分の子をバオバブ保育園に通わせるケースも多いというお話も聞きました。
 大人になってもみんなが帰ってきたくなる保育園。バオバブ保育園には、「おおきな家」という呼び名があるように、「ただいま!」と言いながら戻ってきたくなるような空気が流れているように感じます。

 

きっかけは、園の老朽化による建替計画から

 通園している子どもたちはもちろん、卒園生たちにとっても、たくさんの思い出が詰まったバオバブ保育園。老朽化による園舎の建替計画が持ち上がったのは2017年のことでした。さっそく改築委員会を発足すると、オンデザインは、都市設計工房の成瀬惠宏さんよりご紹介いただき、基本構想プロジェクトがスタートしました。
 当時、園からの要望は、「培われた保育の風景を新しい園舎に継承していきたい」というものでした。これまで50年のあいだに保育士の方々の手でカスタマイズされてきた空間は、心地よさだけではなく子どもたちの安全を守り、また保育士にとっても保育しやすい環境を丁寧に引き継いできました。そして、これまで以上に「子どもたちと大人が豊かな時間を過ごせる場所にしていきたい」。毎回、打ち合せで園舎を訪れる度に、日常の中で繰り広げられる工夫の連続を目の当たりにしながらプロジェクトははじまりました。

年季の入った木箱などの什器もカスタマイズして使用

 
既存園舎を観察し、日々の風景を採集する

 プロジェクトは、これまで増改築が繰り返されてきた既存園舎の構成や使われ方をリサーチすることからスタート。私たちの設計チームは、日常の保育や季節の行事に積極的に参加しながら、保育オペレーションや特徴的なアクティビティを記録していくことになりました。そこで気付かされたのは、長年の知恵や工夫が詰まった保育士による「保育のあり方」、また子どもたちが空間をめいっぱい使いこなしている「風景」でした。

 園庭では子どもたちは裸足で過ごすため、「外遊びのあとは、まず洗い場で足を、トイレで手を洗ってから保育室に帰っていくのよ」と保育士さん。それ以外にも、行事になると食事の受け渡し場となる出窓、凹凸の外形の余白につくられた靴の脱ぎ履き場、お散歩前にみんなが横並びに座って待つデッキテラス、階段や壁をギャラリー化した等身大自画像展など……。これまでの増改築によって、自然に生まれてきた園舎の空間性を活かしながら、室内から園庭まで、子どもたちのいきいきとした日常が敷地いっぱいに展開されています。

 私たちは、こうした日常の風景が何らかの手掛かりになるのではないかと考えて、パシャパシャと写真を撮り溜めていました。それらの風景写真が“空間”と“人”との関係性をキーワードに、まるで図鑑のように言葉を整え、風景を採集するようにしながら、設計自体がはじまっていったように感じます。

バオバブ保育園の模型

 同時に場所の使い方の解像度を上げるために、ヒアリングや1/50、1/20の模型を使ったワークショップを行い、新しい園舎の居場所のつくり方、また保育士目線で安心できる保育空間のあり方を具体化していきました。
 「以前、○○ちゃんが出窓から外に出たことがあったから、念のため今より5cmくらい高くしたほうがいいかも」「大斜面のほうは、幅も角度も以前と同じでいいですよね」
 そうした現場の声から感じた、寸法などの細やかな要望、引き継ぐもの、更新するものへの思いは、私たちにもたくさんの気づきを与えてくれました。

 

保育風景を継承する

 新しいバオバブ保育園を計画していくにあたっては、園舎も園庭も一体に考えながら、再編集することを私たちは目指しました。
 また、園としても建て替え工事中でも、ここで過ごす子どもと保育士の日常を途切れさせずに、保育環境を持続していくこともひとつの課題でした。

 周辺に必要面積を満たす仮園舎を確保することが難しく、園や施工者とも何度も検討を重ねた結果、仮使用認定をとることで工事を2期に分け、1/2ずつ建て替える方法を取り入れました。この手順によって生まれる既存園舎との配置の関係性、園のシンボルでもあるカシノキを中心に検討した立/断面計画、現在あるものを受け止めて建築のあり方を考えていく設計手法は、新築ではありながら敷地全体を設計対象として扱い、改修をしていくような感覚でした。
 同じ敷地内で工事中の建物と保育の環境が共存するという状況が生まれ、そのための調整はたびたび必要となりましたが、この50年間バオバブが増改築を繰り返し、少しずつ更新しながら保育環境に建築が馴染んできたように、使うとつくるが並走する環境が生まれたことで、すべてが建て替わったタイミングでもすでに園舎には馴染んだ空気が流れていました。その中で地続きに新しい場所が使われはじめることで、ほかでは実現できない時間軸がここに生まれたと感じています。
 また、園舎を使う子どもたちを見ながら施工を進めてくださった田中建設(今回の施工業者さん)のみなさん。園舎が出来上がっていく様子を屋上から眺める子どもたちが、職人のみなさんに「ありがとうございます!」と日々挨拶している姿は、建て替えの過程において、子どもから大人まで、ひとつの繋がりを感じさせる瞬間でした。

photo:kouichi torimura

 
日常保育(場所の使われ方)から学ぶこと

 バオバブ保育園が竣工して、はやくも1年弱が過ぎました。
 保育士により小さく仕切られた様々な保育コーナー、保護者が参加するワークショップでつくられた砂場、手づくりの大きな鯉のぼりが吊られたランチホールの天井、子どもたちのカラフルな絵で彩られていく廊下……。前回は伺ったときは、「大斜面の上に登ると、京王線が見えるから子どもたちの人気スポットなの」という保育士さんのうれしい声も聞くことができました。今も通うたびに新しい風景を見せてくれます。「それでも前の園舎の風景とどこか重なり懐かしくなる、これがバオバブらしいね」とみんなで言い合えるのは、子どもたちの暮らしや保育士の方々の振る舞いがこれまで培われてきたバオバブの保育環境を継承し、新しい保育空間と繋いでくれているからなのではないかと感じています。

ワークショップでつくられた砂場

鯉のぼりの絵が飾られたランチホールの天井

 一つひとつの風景の背景に、場所の歴史や誰かの手による生活の工夫があり、これからもどんどん更新されていくだろうと想像を掻き立ててくれる、そんなバオバブ保育園の「豊かさ」を、今後も、連載を通じて観察を続けながら、みなさんに少しずつ紹介していければと思っています。 

次回は、バオバブ恒例の秋のイベントで感じたことをレポートします!

profile
鶴田 爽 sayaka tsuruda

兵庫県生まれ。京都大学大学院修了。2016年よりオンデザイン。主な作品は、 深大寺の一軒家改修「観察と試み」、クライアントと建築家による超DIY ヘイトアシュベリー」、バオバブ保育園。模型づくりワークショップ担当としても活動中。

>>「バオバブ保育園」に関する情報は、公式ホームページから。