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特別鼎談
都市を科学する
新プロジェクト
始動します!

text:akihiro tani photo:ondesign

 

オンデザインが立ち上げた、都市を科学する「アーバン・サイエンス・ラボ」。オンデザイン代表の西田司さん、「建築内外の分野から、面白い人を連れてくる天才」と称される小泉瑛一さん、農学部→新聞記者→科学コミュニケーターというユニークな経歴を持つ谷明洋さんの3人が中心メンバーだー。

でも、そもそも「都市を科学する」ってどういうこと?

「アーバン・サイエンス・ラボ」発足の背景にある問題意識や興味、目指す未来像について、3人に語り合ってもらった。

 

自己模倣からの脱却へ

西田 まちづくりや都市の次の一手を考えると、今まであることを教科書通りにやるだけでなく、これから起こるべき事象を研究していく領域に踏み込む必要があるんじゃないかと。オンデザインも、たとえばスタジアムを中核に横浜のまちづくりをすすめる「スポーツタウン」の構想のように、建築をつくると同時にその外側をデザインすることが増えていて。

小泉 ぼく自身は、「自己模倣」を回避したいという問題意識があります。まちづくりの領域になると、建築家には技法の引き出しがあまりない。すると目の前のことに、前にやった方法で対処することになる。アドリブなのに受動的で、繰り返しなので、創造性がなくて面白くないんですよ。

谷 建築家の守備範囲が、物理的な箱を「建てる」だけでなく、運営方法や地域との関係性なんかまで広がってきた。そこを整理することで、「まちづくり」創造性を高めたい、と。

小泉 オンデザインがパートナー制を取っているのも、西田さんの「自己模倣を避けたい」という問題意識があって。代表がトップダウンではなく、若いスタッフの「パートナー」という立場で一緒に考えることで、アイデアを多様にしていく、という狙いでした。

西田 それが実現すると今度は、蓄積を僕だけのものにせず、組織にも共有していきたいと思うようになって。そこでアーカイブだけじゃなくて、研究までしたいんです。

谷 研究というのは、次へのヒントにしやすいように、これまでの事例を「言語化」「意味付け」して整理して、法則や一般性を見つけていく、ということですね。

 

仲間を増やすために、知を「ひらく」

西田 そう。そこには、「これからの都市を考える仲間」を増やす、というもう一つ大きな意味があるんです。情報をオープンソースにして外に「ひらく」ことで、いろんな立場の人たちとの議論や協働が生まれるんしゃないか、と。

谷 「まちづくり」や「都市」になると、建築よりもスケールが大きく、多くの人が関わるイメージがあります。だから、組織の外にも知を「ひらく」と。

小泉 「計画的都市から工作的都市へ」という話を、Open Aの馬場正尊先生がしています。衰退した都市に、活動家が小さい拠点をつくり、それが連鎖して点から線、面へとつながっていくと、新しい都市像がつくられていくという考え方です。マスタープランを決めて大きな開発を行っていく「計画的都市」と違って、都市の「作り手」と「使い手」が近いんですよね。

谷 「計画」は従来型で、「工作」の方が創造的っていうことですか?

小泉 そうなんですが、「計画」と「工作」は二項対立ではないはずなんです。たとえば交通計画や経済性が考えられてなければ、そもそものインフラが機能しないし、無秩序なスラムになってしまうけど、それは困るじゃないですか。だから、「計画」と「工作」が乖離するのではなく、うまく分担や協働ができるように、整理してつなぎ直したいと思うんです。

西田 建築家の立場から言えば、都市計画に関わる人たちと組みたいんですよ。現場より川上だからと言って任せてしまうのではなく、一緒に考えたいし、そのために彼らの「言葉」や「考え方」をもっと理解できるようになりたい。そのほうが絶対に面白いじゃないですか。

谷 そうするとこのラボは、「アウトプット」も重要になりますね。分野を横断して、お互いの思考を理解して議論ができるよう、分かりやすく「翻訳」するとか。

西田 あと、「見える化」ですよね。直感的に分かる形でイメージを共有できたら良いんじゃないかな。たとえばテーマがスタジアムなら「理想のスタジアム像」を、一枚の絵にするとか。そこには興味以上の「社会的ニーズ」があるだろうし、一種のエンターテイメントにもなり得るんじゃないかな。「分かる」とか「次の創造につながる」という意味で。

小泉 それを、民間でやることにも意味があると思うんです。日本はリサーチやビジュアル化を、大学が手がけていることが多い。でも大学の研究だと、一般の建築家が外から参加したくても難しくて、大学側から共同研究を持ちかけられるのを待つことになる。このラボには、「やりたかった」という人は誰でも乗っかってこれる。都市計画に関わる行政やデベロッパー、大学、不動産やコンサルの方から、僕たちのような建築家やクリエイター、実際に現場で活動されている方までが一緒に議論できる土俵を作りたいんです。

(右から)西田さんと小泉さん

 
「さぐる」科学で、「つくる」工学との循環を

谷 ここまでの話を聞いて、「科学」と「工学」の良い循環を生み出すことを目指したいと思いました。まちづくりや都市計画って、工学的な「つくる」行為ですよね。一方で科学は法則やノウハウを「さぐる」行為だと思うんです。そこを充実させてサイクルをつくることで、コピペではなく螺旋のように、創造性を高めていくイメージが描けます。

西田 谷さんは、あらためてになるけど、日本科学未来館の科学コミュニケーターの任期が終わって、どんな興味でこのラボに?

谷 前職でやっていたのが、科学そのものを伝えるというよりも、「科学の視点で世界を見て、どんな未来をつくるのか語り合う」みたいなことで。それを実際の都市というフィールドで、実践まで含めてできるのは面白そうだな、と。「都市」にも明確な答えがないでしょうけど、だからこそ、「未来に向けて良い議論や選択ができるように、情報や考え方、問い、視点なんかを整理して見える化する」ことが大切だと思うし、それは「科学コミュニケーター」の役割そのものでもあると思うんです。

西田 面白いよね。「地域やまちづくりの実践に興味がある」と聞いたときに、谷さんなら研究も一緒にできると思ったんです。この時代は、今までの事例でつくられた”教科書”通りにやるのではなく、新しい教科書が求められているんじゃないかな、と。

谷 そこまでは考えていなかったですけど(笑)。あと、都市を科学するって、自然の生態系を理解することに通ずるんじゃないか、とも思っています。生態系はたとえば、「植物」「動物」「微生物」がそれぞれ「生産」「消費」「分解」と役割があって。いろんな役割をもった”登場人物”が関係性をもつことで、地形や気象の与条件の中で、系の全体が成り立ちます。都市も、「市民」「行政」「企業」「クリエイター」といった登場人物がいるので、その性格や役割、関係性を踏まえつつ、建築の役割を考えていくのは面白そうだな、と。

小泉 2年くらい前から西田さんと、オンデザインももっといろんな視点がほしい、と話していたんですよ。基本的に建築学科上がりしか来ないですから。

谷 「よそ者視点」、大事にしようと思います。

(右から)谷さん、西田さん、小泉さん

 
都市のアップデートの仕方を成熟させたい

谷 では、そうして僕らが研究していった先に、何があるのでしょう?

西田 都市は今、ここ一世紀続いた「生成」の時代から「更新」の時代に変わりつつあって。(都市は)常に変化し続けていくからゴールはないのだけど、都市の「アップデート」の仕方が、もっと線形的で、有機的なものになっていくんじゃないかと思うんです。

小泉 僕はシンプルに、都市のバージョンアップをしたい。そのためにはやっぱり、「都市」に関わるいろんなポジションの人たちの関係性やつながりを、もっと強く、良いものにしたいと思っています。そもそも「まちづくり」って、もっと開かれたものだと思うんですよ。

谷 なんかまさに、「都市をつくる」人たちの”生態系”に変化を起こしていく感じですね。

西田 小泉くんの肩書も、「アーバン・コミュニケーター」にしようか。つながりをつくる能力が高いし、「サイエンス・コミュニケーター」と一緒に「アーバン・サイエンス・ラボ」をやるって良さそうじゃない?

小泉 肩書はあらためて考えるとして、「アーバン・サイエンス・ラボ」という名前は良いですね。

谷 そうか、ラボの名前、まだちゃんと決まってなかった。

西田 では、めでたくラボの名前が決まったところで、今回はお開きにしましょう。

 

今後は、「スタジアムのある都市」「小屋のある都市」などといったテーマ設定で、定期的に研究記事をアップしていく予定です。お楽しみに!

profile
西田 司 osamu nishida オンデザイン代表
小泉瑛一 yoichi koizumi 2011年、オンデザイン入社。15-16年、首都大学東京特任助教
谷 明洋 akihiro tani 2013年、日本科学未来館・科学コミュニケーター。2018年、オンデザイン入社