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スタジアム×都市
#07
新規ビジネスの
拠点になる

text and photo : akihiro tani

クラフトビール、グッズ、
ビッグデータ、地域通貨…。
スタジアムを拠点に広がる、
事業やイノベーションがある。
「都市の人が集まる」
という特性を活かすと、
どんなことができるだろう。

 

広がるクラフトビール

クラフトビールが、スタジアムに広がりつつある。

球団オリジナルの「BAYSTARS ALE」はカップのデザインにもこだわりが。スタジアムで飲むビールはおいしいです

皮切りは、横浜DeNAベイスターズが2015年に発売した、球界初の球団オリジナル醸造ビール「BAYSTARS ALE」。2018年には期間限定品も含めて計8種類のクラフトビールを提供する「BAY BEER HOUSE」が夏の間、横浜スタジアム外周部にオープンした。

スタジアム外周部の「BAY BEER HOUSE」は試合終了から数十分後まで、余韻に浸るファンで賑わっていた

 

東北楽天ゴールデンイーグルスも2017年から東北各県の醸造所がつくったクラフトビールを販売。千葉ロッテマリーンズも2018年から、千葉市初のクラフトビール醸造所「MAKUHARI BREWERY」によるマリーンズビールを売り出している。

多くの人が集まるスタジアムは、新たなビジネスや産業を生み出す場とも考えられる。

クラフトビールは、代表的な例のひとつだろう。

 

クリエイターのモチベーションから、まちのコモンセンスへ

「野球場のビールを作るのは自分の夢だった」

「BAYSTARS ALE」の開発を手がけた醸造家の鈴木真也さん(横浜ベイブルーイング株式会社)はクラフトビールをテーマにしたイベントで、当時を振り返りながら語っていた。

「野球場のビールをつくるのは夢だった」と語る醸造家の鈴木さん

 

単なるコンテンツやビジネスチャンスにとどまらない、作り手にとっての大きなモチベーション。多くの人がただ集まるだけでなく、象徴となるチームがあるスタジアムの特性なのかもしれない。

ベイスターズはビールにとどまらず、「Sports×Creative」をテーマとした会員制シェアオフィス&コワーキングスペース「CREATIVE SPORTS LAB」も運営し、交流やコラボレーションによる新たなスポーツ産業の創出を目指している。

ベイスターズ事業本部で商品企画を担当する山中勝美MD企画グループリーダーは「ビジネス視点から考えるべきことも別にあるけれど」と前置きした上で、「まちにある球団が、みんなのアイデアやリソースを取り入れた商品をつくり、スタジアムや公園で使われるようになっていくと、チームやスタジアムがまちの”コモンセンス”になっていく」とスポーツタウンの構想を膨らませている。

 

実証実験やビッグデータ収集も

数万人が一度に集まり、ひとつのゲームに集中するスタジアムは、ビジネスや研究の「実証実験」の場にもなり得る。

プロアメリカンフットボールNFL(National Football League)のサンフランシスコ49ersの本拠地「リーバイス・スタジアム」は、シリコンバレーの中心部という立地も手伝い、多くのIT企業による最新技術が実装されている。

さまざまなIT技術が実装されているリーバイス・スタジアム By Jim Bahn, CC BY 2.0

2016年のNFLの優勝決定戦「第50回スーパーボウル」でも、来場者が一斉に使用する際の通信負荷のテストや、スマートフォンでリプレーが見られるアプリなどの活用が試された。(スーパーボウルで実証、世界最強の「ITスタジアム」 より)

同様の考え方で、スタジアムは群衆行動やビッグデータの場にもなり得るだろう。

 

ベンチャー人材の発掘からはじめる「アクセラレータ」

新たなスポーツ産業を起こすために、共創相手となるベンチャー事業者の発掘からはじめる、という考え方もある。

2015年にMLBのロサンゼルス・ドジャースがスタートし、日本ではベイスターズが進めている「アクセラレータ」だ。

スタジアム(もしくは球団側)が取り組むのは、ビジネスそのものではなく、仕組みづくり。「スポーツ観戦体験」や「ファン層の拡大&満足度向上」などの分野で、アイデアを持つ企業を誘致する。球団側が持つ各種データや、スタジアムでの実証実験の機会、スポーツ業界でのネットワークなどを提供し、誘致した企業のノウハウを生かしたビジネスの創出を後押しする。

ドジャースはこの仕組みで、ハイライト動画を自動作成するツールや、ウェアラブル端末で選手のパフォーマンスを数値化するツールなどの開発を採択した。

 

ベイスターズが第一弾として2018年から取り組むのは、株式会社ギフティによる電子地域通貨事業。ポイント還元や限定サービスなどの特典を利用者に楽しんでもらうことで「お金の地域内循環」を促進する狙いだ。

ベイスターズの電子地域通貨の決済イメージ

それは、スタジアムを拠点に、都市の仕組みをつくっていくことであり、前回の記事で取り上げた「都市を更新する」にも通ずるところがあるかもしれない。

 

スタジアムに、何を組み合わせるのか

スタジアムには、多くの人が集まり、象徴となるチームがある。

スポーツ内外の人材や技術、知見を組み合わせることで、都市の未来をつくる、さまざまなビジネスやイノベーションを生み出す拠点となる。
(了)

【都市科学メモ】
スタジアムの役割

新たなビジネスやイノベーションの拠点となる

生まれる価値

・スタジアムでの体験内容の向上
・新たなサービスの創出
・事業者のモチベーションと活躍機会
・実証実験の機会
・イノベーションと社会実装

デザインするもの

・新たな事業
・新たな事業を生み出す仕掛け

問い、視点

・スタジアムに集まった人が求めるサービスは何だろう?
・群衆が集まるスタジアムだからできることは何だろう?
・周辺にある人材や技術や知見を生かして、スタジアムで何ができるだろう?

具体例
・クラフトビールの開発・販売
・クリエイターとのコラボ商品開発
・IT技術の実証実験と社会実装
・スポーツ・アクセラレータ
・電子地域通貨事業
 
「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。
アーバン・サイエンス・ラボ記事一覧
「スタジアム編」では、「スタジアムは、都市において、どんな役割を果たすのだろう?」という問いを立て、さまざまな事例を調査、意味付け、整理して紹介しています。
「都市を科学する〜スタジアム編〜」記事一覧
 
【参考・関連サイト】
イベントレポート「THE BAYS CRAFT BEER DAY -クラフトビールの未来ー」
クラフトビールが飲める野球場
スーパーボウルで実証、世界最強の「ITスタジアム」
米ドジャースが球団の全データを「投資対象」として開示する理由
スポーツ業界でベンチャー企業と組むLAドジャースのオープンイノベーションの取り組み
横浜DeNAベイスターズがスタートアップと狙う「10兆円市場」の開拓
イベントレポート11/7(水)「地域通貨の可能性を探る」

 

【Theory and Feeling(研究後記)】

筆者も文中で紹介した、ベイスターズに寄る会員制シェアオフィス&コワーキングスペース「CREATIVE SPORTS LAB」を、会員として利用しています。いろいろな分野で活躍する会員さんがいるのですが、ランチ会なんかで交流すると、自然と野球の話題で盛り上がったりする心地よさがあります。

横浜スタジアムの外周が目の前に見える環境は、仕事場を変えて気分転換するのにもってこい。ただ、試合日は、ホームランや好プレーのたびに大歓声が聞こえてきて、ちょっとそわそわしてしまいます。