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スタジアム×都市
#05
周辺のまちに
賑わいを波及する

text and photo : akihiro tani, illustration : yuki

人が集まるスタジアムには、
周辺に賑わいを波及する力がある。
受け手となるのは飲食店や宿泊施設、
ほかの娯楽施設や交通機関もそうだろう。

その効果を高めるために、
必要なことを考えてみたい。

 

観戦前の買い出しで重宝されるコンビニエンスストア、ライブ映像に一喜一憂するスポーツバー、観戦帰りのファンが祝杯を上げる居酒屋、遠方からの遠征客で賑わうホテル…。

スタジアムがある都市では、多かれ少なかれ、そんな光景を見ることができる。

JR広島駅からマツダスタジアムへ続く「カープロード」。地元飲食店が弁当や軽食のテイクアウトを扱う

駅から東京ドームへ向かう途中の飲食店には、観戦用テイクアウトのコーナーがある

スタジアム周辺に試合前後の「賑わい」があれば、来場者の思い出は増え、交通機関のピーク緩和や、都市への経済効果にもつながる。

そんな「賑わい」をより効果的に波及させ、スタジアムと都市がより良い関係をつくっていくために、どんな方法や考え方があるだろうか。

 

周辺が顧客として認識する

まずは周辺エリアに、スタジアム来場者を顧客として認識してもらう必要がある。

たとえば、横浜DeNAベイスターズは自らビアガーデンを開催し、その認識を都市エリアに広めていった。


横浜スタジアムの周りで開かれたビアガーデン(2015年)

試合が終わる午後9時半以降に開いている、スタジアム周辺の飲食店は少なかった。横浜スタジアムからすぐの場所にある横浜中華街の飲食店は、ほとんどが午後10時閉店でしたから。

そこで、スタジアムの外にビアガーデンを開設したら、試合が終わった後にもそこでお酒を飲んで盛り上がる人が増えた。その様子を見て、近隣の人々も試合後の時間にお店を開けるようになっていきました。

人気はみんなでつくる、ラグビーパーク ファンと一緒に進化(SPORT INNOVATORS)より引用

横浜スタジアムにほど近い中華街には、試合観戦を終えた野球ファンの姿も

 

効果的に誘導する仕掛けも

スタジアムは、球場から周辺エリアへの群衆移動をコントロールする役割も担う。

たとえば、試合終了後のヒーローインタビューやアトラクションによって、来場者が球場から出るタイミングが分散する。

周辺エリアへの移動ピークを緩和するとともに、熱気や興奮の余韻を残す効果も期待できる。

横浜スタジアムでヒーローインタビューに続いて行われる「ビクトリーセレブレーション」。花火を最後まで楽しむと、スタジアムをあとにするのは試合終了から数十分後となる

個々の来場者に適した「賑わい」の場所へ、個別に誘導する仕掛けも今後、重要になってくるだろう。

スタジアムの来場者と、都市における娯楽の双方が、それぞれ多様化しているためだ。

たとえば、若者グループにはエンターテイメント施設、高価な席でのペア観戦者には高級ラウンジ、1人でチケットを購入した人にはファンが集う居酒屋−−−というように個別に最適なサービスを紹介する地図付きのクーポンを発行する。

来場者のオンライン行動履歴や購入席種などから、最適なサービスを判断する。
そして、試合終盤のタイミングで、スマートフォンなどを通じて案内するようなシステムも実現可能だろう。

横浜スタジアムの周辺飲食店の予約を呼びかける広告。観戦者ごとに個別の案内やクーポンが携帯端末に届くような仕組みも今後、有効になっていくかもしれない

 

エリア側から一体感を醸成

逆にエリア側からは、ホームタウンとしての一体感を醸成することができる。

主要アクセスポイントとなる鉄道駅や商店街で、色調をチームカラーに合わせたり、等身大の選手パネルや大型ポスターを設置したり、雰囲気作りにできることは多い。

試合観戦に向かうファンで賑わうJR関内駅。横浜を象徴するレンガ調の建物に、ベイスターズのチームカラーの青を組み合わせている

スタジアムにいる間だけでなく、最寄り駅に降り立ってから帰りの電車に乗るまでを楽しんでもらうという考え方だ。

 

スタジアムと周辺エリアの曖昧な境界

周辺エリアに賑わいが波及するということは、訪れる人の側からすると、スタジアムの内と外の境界が曖昧に感じられていることを意味するのかもしれない。

大リーグのシカゴ・カブスの本拠地リグレー・フィールドは、スタジアムから道を挟んだ外側のビルの屋上も観戦ゾーンになっている。

外野スタンドの後方、スタジアムの外のビルの屋上も観戦ゾーンに By Unique View, CC BY-SA 2.0

Wikipediaによれば、もともとはビルの所有者らが個人的に観戦していたのが、チームの人気が高まるに連れて商業的な運営となり、カブス側との協議等を経て2018年現在、11のビルが収入の一部をカブスに支払う「Official Rooftop Partners」になっているようだ。

ビルごとに、空間やフード、提供サービスが異なり、野球の楽しみ方がいっそう多様になる。訴訟等の紆余曲折があったとは言え、スタジアム内外が相乗効果を発揮している事例と言える。

連載記事#03の「野球がない日も人を集める」ための多様な機能も、すべてをスタジアム内に盛り込むのではなく、周辺エリアも含めて考えることができる。

ショッピングモールや遊園地、ホテルなどが集まった東京ドームシティ

その際には、スタジアムと周辺の都市エリアで、必要以上の競合や過不足を避け、補完し合い、相乗効果を生むような関係が理想だ。

 

日本政策投資銀行の地域企画部で参事役を務める桂田隆行氏は、次のように語っている。

地方の場合はスタジアム・アリーナにはあんまり商業モールとかを作らずシンプルな作りにして、むしろどうすれば試合後に地域の商店街に人が流れてくれるかを考えるべきかもしれないですよね。地方のスタジアムに商業モールをいっぱい作っちゃったら、地元の商店街の人達にとってみたらとどめを刺されたようなもの。

10年後は日本の中でも完全に「スポーツ産業」という言葉が定着して、「スポーツはビジネスをするもの」という時代になっているかもしれないですけど、今の日本においてスポーツビジネスというのは、ビジネス面を強く主張する段階ではないのかなと。「地域の中で受け入れてください」とか「スポーツで地域の課題を解決させてください」という角度からのアプローチが必要な段階だと思います。

スタジアムから地方を活性化!スポーツが地方創生の起爆剤となるか(AZrena)より引用

 

周辺エリアへの賑わいの波及は、スタジアムが都市において期待されている大きな役割のひとつ。

その効果を最大化していくためには、時代の流れに乗った考え方と、様々な仕掛け、そして段階的な発展が求められるようだ。
(了)

【都市科学メモ】
スタジアムの役割

・都市に賑わいを波及させる

生まれる価値

・観戦者の楽しみ、思い出の向上
・交通機関のピーク緩和
・都市への経済効果

デザインするもの

・スタジアムと都市の関係性
・来場者を都市に誘導する動線や仕掛け

問い、視点
スタジアムの来場者を、周辺エリアに誘導するためには何が必要か?
具体例
・周辺のサービスを案内するアプリやクーポン
・最寄り駅のポスターや演出
「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。テーマごとに、事例を集め、意味付け、体系化、見える化していきます。「科学」は「さぐる・分かる」こと。それが都市の未来を「つくる」こと、つまり「工学」につながり、また新たな「さぐる」対象となる。 そんな「科学」と「工学」のような関係を、思い描いています。
アーバン・サイエンス・ラボ記事一覧
「スタジアム編」では、「スタジアムは、都市において、どんな役割を果たすのだろう?」という問いを立て、さまざまな事例を調査、意味付け、整理して紹介しています。
「都市を科学する〜スタジアム編〜」記事一覧
【参考・関連サイト】
「人気はみんなでつくる、ラグビーパーク ファンと一緒に進化」(SPORT INNOVATORS)
「理想的なスポーツスタジアムの作り方(後編)」(SPOZIUM)
スタジアム・ミシュラン ヤンキースタジアム#1
Wrigley Rooftops(Wikipedia)
Wrigley Rooftops – The Premier Rooftop Destination
「スタジアムから地方を活性化!スポーツが地方創生の起爆剤となるか」(AZrena)
【Theory and Feeling(研究後記)】
勝ちゲームをスタジアムで見た後は、すぐに帰りたくないんですよね。余韻に浸りたいんだろうと思います。

試合後にひとりで楽しく飲める店、もっと開拓したいと思う今日このごろです。