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実証実験×都市
#01
「研究者・場・市民」の
“三方良し”の関係とは?

 

公共の場で実施される実証実験は、その「場」に対して、どのような価値をもたらすことができるのだろうか? そんな問いを考えるセッションが5月27日(月)に東京都内であり、アーバン・サイエンス・ラボがファシリテーションを担当する。

実験をした「研究者」がデータを得る「学術的な価値」以外に、実験に参加した「市民」や、舞台となった都市などの「場」が得られる「社会的な価値」はあるのか? 両方の価値を高める、「研究者・場・市民」の理想的な関係とはどのようなものか? 行政、科学館、研究者の立場でそれぞれ「場づくり」に取り組む3者と議論する当日に向け、問いと論点を整理する。

 

実証実験の、舞台となる都市にとっての価値を整理します。
その価値を最大化させる、これからの実証実験のあり方を考えます。

 

セッションは、オープンサイエンスについての日本最大のカンファレンス「Japan Open Science Summit 2019」で、初日(5月27日)の14時半から、「科学✕市民✕実証実験 〜未来社会の共創に向けて」をテーマに行う。

セッションの登壇者は、「モノの使いやすさ」に関して市民から意見を集める研究センター「みんなの使いやすさラボ (みんラボ)」の代表を務める原田悦子さん(筑波大学教授)、日本科学未来館(東京・お台場)で公募型の「市民参加型実験」プロジェクトを担当する片平圭貴さん、横浜市政策局共創推進室で市民共創やオープンイノベーションを担当する関口昌幸さんの3人。研究室、公共文教施設、都市、とそれぞれ異なる場で、実証実験の受け入れに取り組んでいる。

アーバン・サイエンス・ラボの谷明洋が、セッションを企画した片平さんの所属する未来館に以前に務めていた縁で、ファシリテーターを担当することになった。この記事では、登壇者との事前の打ち合わせで浮かび上がってきた論点を、整理する。

 

問01; 3つの場の性質はどう違うのか?

「みんラボ」は実験の「参加者」も登録制で、「プロダクトの,ユーザにとっての使いやすさを確かめたい」という研究者(作り手)側のニーズにマッチする層を選んでデータを集めることができる。

調理家電の「人にとっての使いやすさ」について調査を行う「みんラボ」での実証実験風景。調査担当者(手前)は、参加者からのフィードバックを丁寧に聞き取っていく(みんラボ提供)

 

公共施設である未来館では、「たまたま来館していた人」の全員が参加対象となるが、母集団の「科学館に足を運ぶ人」に一定の傾向がありそうだ。

センサーを付けたロボットが、人混みを避けて動けるかを確かめる実証実験。不特定多数の人が行き来する未来館の展示フロアで継続的に実施している

 

また、完全にひらかれた都市での実証実験を行えば、多様な市民を対象とすることができる。

こうした、場の「ひらかれ度合い」や、対象となる市民の「層」と「多様性」などは、実証実験の価値にどう関わってくるのだろうか?

 

問02; そもそも「市民」とは?

場の性質を考える上で、関口さんは行政の立場から「そもそも”市民”をどう定義するのか?」という問いを投げかける。昭和から平成初期にかけての「市民」という言葉のイメージは、「主婦」「高齢者」と結びつきやすいものだったという。都市の「生活」にフォーカスした結果、仕事などの経済活動と切り離されやすかったからだ。

そんな「市民」像を、あらためて考え直す必要はないだろうか? 働き方や暮らし方が多様化し、「仕事」と「生活」の境目が曖昧になりつつあることを踏まえ、どんな人に実証実験に参加してもらいたいのかを問い直したい。

「教育×SDG フューチャーセッション」。実証実験や市民活動の場に参加してもらいたいのは、「市民」のどの層だろうか?(横浜市提供)

 

 問03; 実証実験はどんな価値を生み出す?

実証実験の最大の目的は、研究を進めるためのデータを集めること。データの質や量が上がれば、実験の実施者が求める「学術的価値」も高くなる。さらには、自らの研究を発信する機会となったり、思わぬフィードバックからや協力者が得られる可能性もある。

実験中のロボットについて一般市民に説明する機会は、実験実施者側にとって「研究の発信」や「説明スキルの向上」といった価値も生み出す(未来館提供)

 

一方で、実験に参加した「市民」や、舞台となった都市などの「場」は、何を得るのだろうか? 「社会的価値」と言い換えても良いだろう。社会実装前の商品やサービスを享受できるという直接的な利益以外に、「好奇心の充足」「学び」「誇りや貢献感」「発信機会」「プロジェクトを受け入れる経験値」などの間接的な価値もありそう。

横浜市の平沼リビングラボの「ガリバーマップイベント」。まちの資源や課題を抽出するワークショップは、参加者にとっても楽しみや発見がある(横浜市提供)

項目を挙げるだけでなく、それぞれの価値の相互影響も整理してみたい(たとえば、参加者の「学び」を大きくすれば、実証実験の「参加者」が増え、最終的に「学術的価値」も上がる、のように)。

 

問04; 実証実験をアップデートせよ

ここまで整理したことを踏まえて、最後は「実証実験の価値を、どう高めるか?」を考えたい。大きく分けて、2つの視点がありそうだ。

ひとつは、個々の実証実験をデザインする時の考え方。主に問03で整理した「価値項目」のつながりから、「どこに、誰が、どうアプローチすれば、実証実験全体の価値を高められるのか」を考えられるだろう。高齢者を中心とした参加者群と丁寧なコミュニケーションを図ってきた原田さんや、実証実験を未来館の来館者向けコンテンツとしても成立させる工夫してきた片平さんの経験もヒントにしたい。

もうひとつは、主に問01で整理するそれぞれの「場の特性」を踏まえ、さまざまな場が実験実施者も交えて連携していくこと。たとえば、「社会実装が近づくに連れて、場を”公共施設”から”都市”へリレーしていく」というようなことがあっても良いだろう。そのためには、具体的にどのような連携を図れば良いのか、議論したい。

 

セッションは5月27日@一橋講堂

新たなテクノロジーやプロダクトをより良い形で社会実装するための実証実験は、社会の変化が加速する中、今後も高度化しながらニーズを高めていくと考えられる。そのあり方の議論は、実証実験そのものをアップデートすることにとどまらず、ビッグデータの捉え方や、市民参加型の活動のあり方に対しても、示唆を含むものになるのではないだろうか。

実証実験が「研究」や「社会」に生み出す価値は、どのように高めていくことができるのか? 議論された内容は、あらためて「都市を科学する」の記事で共有したい。セッションは参加無料で事前申込制。5月27日の14時半から、「学術総合センター 一橋講堂」(東京都千代田区)で実施する。

(了)
<文:谷明洋>

 

【関連リンク】
Japan Open Science Summit – 国立情報学研究所
筑波大学人間系みんなの使いやすさラボ (略称 みんラボ)
日本科学未来館 市民参加型実験
共創ラボ・リビングラボ(横浜市)

 

「都市を科学する」は、横浜市の建築設計事務所「オンデザイン」内にある「アーバン・サイエンス・ラボ」によるWeb連載記事です。「実証実験」「スタジアム」「小屋」などのテーマごと、事例を集め、価値を意味付け、整理して、見える化することにより、現代の都市をさぐっていきます。
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